45話 外部の人 挿絵あり
「取り敢えず撮影ストップ!静かな所で話しません事?」
「あらやだ奥さん、私を連れ込んで何しようって言うのよ?希望はエロ同人とかみたいな?」
「やめとけ頭のおかしい人!ごめん、お願い、本当にちょっと真面目に話さないか?」
「貴女か誰か分かればそれも吝かじゃないわよ。可愛い娘を尋問するのは好きじゃないけど、それでもそのアバターは見逃せないの。運営に通報しようかしらRMTとか、データハッキングが合ったんじゃないかって。」
RMTが合ったとして、それってどっち主体なんだろうか・・・。俺がツキ売ったのか、それとも俺がツキを買ったのか?かんなりややこしいけどどうしよう?AI上、システム上で疑われなくても人には感情があるし、その感情が現実を受け入れられないならやっぱり疑ってくる。それこそ重箱の隅をつつく様に。
ただ彼女柊 華澄は刑事なのよね・・・。バッリバリのキャリア組で仕事は真面目にする。その反面プライベートは全てガス抜きと考えて没頭するタイプ。付き合って嫌じゃなかったんだけど俺が子供は・・・、と言うタイプだったので自然と疎遠となり別れる事となった。
静かな所と言う事で領地へご案内。ここは本人が撮影でもしてない限りプライベート空間となる。まぁ、運営は見ようと思えば見れるんだろうし、ログを漁れば会話も分かるんだろうけど、それを公開するのはかなり重い罪に問われる。まぁ、裁判所やら警察からの依頼ならいいんだけどね。
「ないないRMTなんて。と、言うか私が誰かどうやって特定を?」
「ツキ、この名前今だと3千人くらいが使ってるかしら?名前の後の数字は減らないし、新しいアバターを作ろうとも名前で別人と判断も出来る。そして、数字の付かないツキはただ1人。教えて、貴女は誰?そのアバターの持ち主は大きな事故に合ったの。そこで遺留品をネコババしていたとしたらそれは立派な犯罪よ。元の持ち主は元気と言う話だから・・・、匿名で警察に送るとか・・・。」
「つまり核心までには至れていないと?」
「いちいちあの人に似た喋り方をするわね。・・・、もしかしてストカー?」
「それは違うんだけど・・・、コチラとしましても色々と事情がありましてね?幸いな事に個人データも私を私と認識し、その持ち主にも異常はないと示されている訳でして。貴女の口振りによれば私はツキのアカウントを所有する方の紛い物と言う話なのでしょうが、その様な事実はなく。私個人が本人であると返答する次第です。」
「いやいやいや・・・、本人基準ってアバターの中身はどう考えても違ったでしょう!何サラッと顔出ししてツキって名乗ってくれちゃってんの!?そのアバターは私がまだ好きかもしれない人が大切にしてたアバターなの。どんな手を使ったか知らないけど、サイバー犯罪や個人データの書き換えなんて重罪よ?」
「いや、書き換えたわけではなく・・・。」
寧ろ俺が書き換わっちゃった?しかし、お互いに名を出していないと言うチキンレースをどこまでやればいいのだろう?流石に華澄がここで『雁木 真利』と言う名を出すヘマはしないだろうし、なら俺の方からその名を出せば、コレまた捜査の手がかりとしては相当に狭められる。なにせ所有者の本名を知っていると言う事は近しい人間か、本当にアカウントを何等かの方法で盗んだ人間になる。
三枝先生は正式な手順で俺のアカウントを使用したが、それは正式な手続きの元なので違法性はない。・・・、どうしよう?隠し通すなら三枝先生に対応してもらってツキを正式に返却していると証言してもらうのが手っ取り早いけど、それだどなら本人に合わせろと言う話になってくる。
割と詰んでるのよねぇ・・・。今話しただけでも華澄は次の一手を考えて、既にその方法も現実的なレベルに上がってるだろう。話が出来てゲームが出来て顔出ししてるなら、病院に着て俺に合わせろと言える。面会謝絶?既に状況証拠的には謝絶の理由が意味不明レベルだ。
「あくまで本人と言い張るの?」
「そうですね。そうとしか言い様がないので。先に聞きますけど、コレってあくまで個人的な聞き取りですよね?」
「その聞き取りと言う言葉を使うからには、私が誰で何をしている人か知っていると言う事ですね?それを踏まえた上で真実を素直に話して早期返却を行うか、さもなくば・・・。」
「なら話は早い。被害者が何処に入院しているのか?そこに実際に足を運ぶ事をオススメします。では、これでログアウトしますね〜。」
「あっ!コラ!まて美少女狐!」
制止を聞かずにログアウト!残され華澄は勝手に領地から弾き出されるからいいとして、早急に三枝先生や敷田さんのと話さないと!仮に華澄が非番・・・、確実に非番じゃん!平日の午前中にゲームしてるなんて非番か休みだよ!それを考えると東亜メディカル技研まで大体3時間もあれば来てしまう。
「三枝先生に敷田さん、緊急事態です!」
「分かりました、直ぐに向かいます。」
メッセージを送りつつシミュレーションしてみよう。先ずは会う会わないからだけど、コレはもう先生達の判断を優先するしかない。そもそも被検体としての契約もあるし俺自身が秘密情報の塊と言われればそれまでで、下手に外部に漏らすと不味いと言える。その点を考えると、病院としての守秘義務と医者としての判断を盾に会わせない可能性が高い。
コレが捜査令状やらを持ってくると言うなら先生達も断り切れないかも知れないけど、俺が合った事故は捜査どころか証拠も被害も被害者も加害者も、すべて分かりきっているので警察が介入するだけの隙がない。実際弁護先生から裁判は結構スムーズに進んでるらしいし、お金の方ももう少ししたら総額が分かるとメッセージが来てるし。
逆に会うとなると・・・、どうしよう?個人データもなんもかんも俺が俺と示してくれてるんだけど、華澄の場合は過去の俺も知っている訳で・・・。出会った感じからすると心配してくれてるんだよな?なんだか好きかもとか言ってたけど、どうなんだろう?
昔のフェミニストは多分おバカだけど、その行動力は本物だった。男女平等を掲げる中で最大の不平等とはなにか?それは子を産むのが女性だけと言う事だ!と話が持ち上がり、なら恋愛対象が男同士でも女同士でもいいよね?同性とも子供が作れればパートナーの不平等もなくせるし、そうすればお互いの大変さも理解出来るよね?と話が突き進み同性でも子供が作れるし男性でも帝王切開だけど子供が産める様になった。
街を見ればどんなカップルもいるし、男性同士なのに子沢山なんてご家庭もある。一応これで性別による報酬格差なんかもなくなったし、残ったのは個人的な好みの部分となるけど人の本能的な部分はそこそこ強い。ただ、出会い頭の華澄は中々頭が痛い人になってたしなぁ・・・。
「どうされましたマリちゃん。緊急事態という話ですが?」
「ご飯足りませんでした?それとも御赤飯案件ですか!?」
「御赤飯案件・・・、それがあるかは後からじっくり聞くとして、元カノが来るかもしれないんですけど、どうしましょうか?」
「元カノさん?マリちゃん、貴女がどう言った方針で身近な人に情報を流したかは別として、なぜ元カノさんが?その方のお名前は?」
「人肌恋しくなりましたか?流石に私は添い寝してあげられませんけど、抱き枕とか買います?150cmくらいの抱き枕なら通販でも買えますよ?それとも、遅れて来た生存欲求ですか?確かに女性になったから、発散方法は女性に聞く方が素直と言えば素直ですけど・・・。」
「生存欲求と言うか敷田さんの話は性欲の話ですよね?そうではなく、どうも元カノ・・・、柊 華澄と言うんですけど配信を見ていた様なんですよ。」
「なるほど。本人基準と言うツキの中身はマリちゃんですが、その前の真利さんを知る人が見てしまったと。」
「すんごい確率ですね。確かにありえなくはないですけど、それはもう少し先で色々と情報が出せる段階だと思ってましたけど・・・、主任どうします?」
「敷田さん、それは私達だけでは対応力不足です。確かに見つかったと言うだけで不安に思う部分もありますが、相手が一般人なら病院と言う場所において医者の方が遥かに発言力がある。しかし、事はそう簡単な事ではないのでしょう?柊さんと言う方はどう言った方なのですか?」
「・・・、刑事です。部署やらは捜査に関わると思って詳しく聞いてませんけど、警察官である事には間違いありません。」
「刑事ですか。ここでのらりくらりとかわしても詰みですね。」
「詰みですね主任。正式な手続きをして来られたら私達としてもゴネられませんし、なにより話が大きくなる方が不味いですよね?」
「不味いですね。下手に私や敷田さんが刑事に非協力的だとされれば、最悪マリちゃんは他の方が担当する事になるかもしれませんし、バイオナノマシンの方もデータ引き継ぎを行って他の方がそのまま生産にGOサインをだすかも知れません。因みにその場合、マリちゃんはさっさと退院する事をオススメします。」
「退院ですか?なんでまた。」
「被検体である以上、24時間体制の監視も必要なら行われます。配信等も禁止されるでしょうし、医院長としても事が大きくなれば守れない部分も出て来ます。そう言った拘束を嫌うなら退院してからの協力者と言う立場が楽でしょう。」
「なるほど。外に出るならそのタイミングって事ですね!」
「待ってくださいマリちゃん。それは事を構えた場合の対応です。逆に私はその柊刑事とマリちゃんが会う事をオススメします。」
「えっ・・・?その、会っていいんですか?」
「常識的な判断としては、元気な患者に見舞いに来た知人に帰れとは言えませんもんね。」
「それもありますが、現実的な第1接触者として刑事と言うのは信用出来る職業の人間でしょう?電子契約書を作成し接触後の患者の事を外部に漏らさないと言う風に作る。コレにサインしてもらえば我々としても守秘義務で縛れます。」
「なるほど、警察の汚職や犯罪は一般人よりも罪が重いですからね。」
「ええ。あくまでマリちゃんが会うならと言う話ですが。しかし、まだ誰かに会う決心が付かないと言うなら先延ばしにする事も可能です。どれくらいで来るかは分かりませんが、1〜2回程度なら体調不良や心神耗弱を理由とする事も出来ますね。」
三枝先生は先延ばしと言うけれど、その先は見えているし華澄(仮)と話した感じ会わないと更に不味い気もする。だって、配信者やってるのに体調不良やら心神耗弱は流石におかしな話だろう?その時点で先生達がなにかを隠しているのはバレるし、下手をすると誤診と言う話にもされかねない。良くも悪くも仕事って信用なのよね。
積むのは難しいくせして一撃粉砕する飴細工みたいな物で、壊れたら最後もっかい溶かして最初から作るしかない。そりゃぁ、小さなミスならリカバリー出来るんだろうけど、医者と警察ではそのミスの大小関係なく痛手になりやすい。それにまぁ、華澄なら来いって言っちゃってる様なモノだしね。
「会いますよ。取り敢えず話しして外の人の反応を見てみましょう。全くの他人よりはまだ元カノの方が大丈夫だと思いた・・・。」
「分かりました、柊さんが到着した様なのでココに来てもらいましょう。」
「はやっ!えっ!決心して直ぐ!?」
「考える余地がなくてよかったですねマリちゃん!揺らぐよりはマシですよ!」
「マシもなにも!えっ!なに着よう?患者衣だと流石に病人っぽ過ぎで不味いかな?」
「元カノに会うのにそこなんですか?」
「敷田さん逆ですよ逆。変に病人っぽくしてもダメだろうし、なにより今の姿だと生足魅惑の狐娘は彼奴にクリティカルする。」
「クリティカル?」
そんな話をしていると飛びがノックされ、三枝先生が入室許可を出す。開かれた扉から現れたのは、休みなのに着慣れて楽だからと昔と変わらず黒いビジネススーツを来て、長い黒髪を適当に流しつつメガネ型デバイスを装備した高身長の凛々しい女性。ただ、ビジネススーツの第1ボタンからは相変わらず悲鳴が聞こえてきそうだ。なにせ華澄は結構胸あるし。確かDとかEだったか?
「身分証明は三枝医師に送ったが、私は柊と言う刑事だ。コチラに雁木 真利と言う患者がいると・・・。」
「あっ!久しぶり、と言うかさっきぶり?何にしても元気してた?」
「またお前か。便宜上ツキと呼ぶが、ココには雁木 真利と言う人物が入院しているはずだ。君の部屋じゃない。そちらの先生方、ここにいるはずの雁木さんは?その子にも後から・・・、何故その子を指差す?そしてツキは何故手を上げる?」
「コレが雁木さんです。」
「この娘が雁木さんですよ!」
「そして私が雁木 真利です。いや〜、色々合ってこんな姿になっちゃったよ華澄。臭い事言うと愛の力かな?」
「・・・、は?」
「ほら、前に『可愛い子供欲しい、動物の着ぐるみパジャマ着せたい』とか言ってたじゃん?個人データも送るから照合して。」
別れてどの口が言う?俺の口だよ!しっかしそうとしか言いようがないし、1言で説明するには事情が込み入り過ぎてる。なら、物的証拠の国が認めた個人データを送る方が早い。感情は別として、コレを疑い出すと今度は信じる物がなくなるからね。
「・・・、・・・!・・・、本・・・、人・・・、だと?」
「そう。私は国が認めた雁木 真利で私も私を雁木 真利だと疑わない。十八番の芸とかしようか?目を見開いてバキバキにする奴。」
くわっ!と目を見開いて見るけど多分昔みたいなヤバさはないよな?この姿でキまってるとか中々だと思うけど・・・。華澄はずり落ちかけたメガネを掛け直し俺をマジマジと見る。そんな華澄を俺も見返す。
「なるほど、愛の力であると?貴方自身が子供はそこまでと言うから、悩んで友人くらいの関係ならと思ってたけど、それを勝手にぶち抜いて子供兼夫兼愛でる対象になって帰ってきたと。」
「敷田さん、私達は出ましょう。」
「そうですね。後は本人達のお話し合いが終わってからと言う事で・・・。」
「ヘイッ!そこのドクター!説明と言うか立ち会いを要求する!」
「どうぞ先生方。後は夫婦の間で話してから詳しく聞かてもらいます。」
「あっ!待って!先生達行かないで!と、言うか元カノからいつの間にか夫婦に昇格した認識してるヤバい人がいますよ!」
なんで先生達は笑顔でサムズアップして出て行くの!確かに愛の力とか言ったけど、ウイットなジョークだろう?扉は閉まり眼の前には華澄がいる。顔と太腿を視線が行ったり来たりしてる気もするけど、そこは耳と尻尾を見ていると思いたい。流石に男とは身体と言うか胸があるから思われないだろうけど・・・。
「愛の力なんでしょう?戯言でも虚言でも嘘だろうと、その姿が事実ならそう受け止めましょう。で、本当に真利なの?」
「そう。例えば・・・、プレゼントで渡したのは狐の抱き枕でよく抱いて寝てたのは知ってるし、部屋がぬいぐるみだらけなのも知ってる。腰に3つほくろがあるのも知ってるし、メガネ型デバイス使うのはスマートレンズが苦手だから。他は・・・、内腿のつけ根にもほくろが・・・。」
「い、言わないで恥ずかしい!と、言うか本当に?」
「今の話が本当と知るのは俺と君だけだろ?コレでもまだ?」
「・・・、ふ〜ん・・・。身体大丈夫なの?もう大丈夫と言う次元じゃない気もするけど、こんな時なんて言えばいいか分からない。」
「大丈夫か聞けばいいよ。大丈夫って答えるから。実際健康なんだよね。」




