44話 襲来 挿絵あり
「中々終わらねぇ・・・。」
さっぱりしたのはいいとして、ドライヤー使っても中々尻尾が乾かない。特に付け根!1本ならそうでもないんだろうけど、10本もあるから含んだ水分が多いのなんの。生乾きで獣臭するのも嫌だし誰かに臭うと言われても傷付く。
確かに敷田さんが言う様にツキと言うアバターと言うか、今はツキそのモノがなんだけど、不当な扱いやら可愛くないと言われるのは嫌。だってこの姿で満足して作ったんだしね。
「う〜ん・・・、トラブルオンラインって攻撃魔法やらはあるけど生活魔法的なモノはないのよねぇ〜。ほのぼの系のMMOならNPCやら使い魔育てるのに乾燥やらの魔法もあるとは聞くけどさ。」
残念な話をするとそう言う系のゲームに俺は向かない。と、言うか社会人があんまり向いていない。なにが問題かと言えば空腹度とか言う束縛要素。基本的にVRMMOは現実基準の時間が流れる。なのでIN時間は次第に固まってくるし、その時間にINしている人も固まってくる。
そんな中で空腹度なんて物があるとどうなるのか?答えは運営の資金集めに使われる、である。1日で誰かを雇ったり餌小屋作ったり或いは大量の食料を用意出来ればいいが、そこは育成がメインなので運営も楽はさせない。そうなるとプレーヤーはよくても今度はギャラクター達が空腹で脱走したり最悪死ぬ。
元々ばアニマルセラピーやら学校の先生なんかになる人が疑似体験を通じて、癒されたり自信を付けると言う話だったんだけど、ドラゴン育てたらカッコいいだけじゃないよね?自慢したいよね?自慢したらどっちが強いか知りたいよね?品評会だとAI判定で全部一緒になるよね?と、言う流れでほのぼの系と謳いつつ結構殺伐としているし、初期投資するかで悩まされる。
無課金で触りだけやってみようとしてゲーム内でハムスターを何匹か飼ってたら、空腹の為に一匹を除き皮になりましたって言うログには唖然としたな。現実でも起こり得るけどゲーム内でも共食いして皮になるとは・・・。一時期VRペットロスなんて言葉が流行って頑丈にしようなんて話もあったけど、ファンタジー系以外は多分改善されてないかな。
そんな事をつらつら考えつつ、ようやく乾いた尻尾に今度は月桃の香水を少量塗り込み患者衣に着替えてようやく一段落。やっぱり服は何着か必要だなぁ・・・。下着は買ったけど洋服となると途端に何を着ていいか迷う。本当に巫女服を普段着にしようか・・・。
民族衣装でもあるしズボンでもあるし、何よりゲーム内でもそんな格好だから割と違和感はない。強いて言うなら着るのに慣れてないから着付けが面倒とか?手間と言うほどでもないけど、ベルトじゃないから胴を何周か巻かないといけないし、ほとんどトイレには行かないけど行く時に解くのか大変。
う〜ん、やっぱりローライズなズボンやらと下着か。確か敷田さんが頼んでくれてたからそれを着て判断するか、或いは普通のズボンを切るかだな。でも、スカートはスカートで結構便利なのよね。
怖いのはパンツ丸見えやお尻丸見えだけど、そもそもお尻は尻尾で隠れてるし捲れ上がったスカートも垂れるので真横から見られても尻尾とスカートしか見えない。困るのは生足と言うか太腿が見られるとか?でも、尻尾を動かせるなら足に沿う様に2本垂らせばいい。
割とミニスカの方が手間がかからないのかも。動かない前提で前はロングスカートって話をしてたけど、動くなら楽な方がな。流石にあんまりピッチリしたミニスカと言うか腹巻き?的なのは嫌だけど。
「さてと、身だしなみはこれでよし。後はネタ探しに行くかな。」
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「流石は平日の10時頃、人は少ないぜ!」
他のゲームだと短い時間でログインとログアウトを繰り返す点滅君がいたりするけど、トラブルオンラインにはソロモードもあるから没頭したい人はそっちを使う。多分、人が少なく見えてもタバコ休憩の今とかにインしてる人は多いと思う。
もしくはかなり面倒と言うか操作制限激しいスマホでの操作とか?それでも領地やらの運営は出来る。その代わり戦闘はからっきしになるので、あんまり好んでやる人はいない。なにせスキルやらモーション選択を手動でやるのはかなり手間だしね。
「貴女・・・、ツキちゃん?」
「そうですけど、どうかしました?」
撮影しながら街ブラしているとやけにゴージャスな人が話しかけてきた。金髪縦ロールに白いローブと言うか布?テルマエな人が着てそうな服に天使の輪っかと羽。神族で天使アバターか。モデル体型と言えばそれまでだけど、厚底っぽいサンダルのせいで更に背が高く見える。
それよりもエンジェルミストとか言う、本人の周りでキラキラ光るエフェクトが発生するアクセサリーを付けてるので結構眩しい。まぁ、洞窟行くなら照明代わりにいいんだろうけど、町中だとかなり目立つ。
「・・・、いい・・・。」
「いい?」
「現実基準ロリババいい!」
「ババと言われるほど年食ってねぇ〜ですよ!三十路は輝ける世代です!」
「大丈夫です!10も年上予定なら立派なロリババです!えっ!抱っこしていい?いや、おんぶ?おばあちゃんならおんぶよね?」
「知らねぇ〜ですよ!と、言うかなんでタックルの構え?」
「捕獲しないと攫われるでしょう?悪い人に。守らないと!」
「既に頭のおかしい人に襲われてるんですけどねぇ!なんですか?新手のPVP煽りですか?と、言うかゲームで攫われてもログアウトしますよ!」
変な人が低空タックルの構えを取るので、俺もジリジリと姿勢を低くしつつ距離を取る。相手の目が訴える・・・、その構えで大丈夫か?と。それに応える様に視線で返す、大丈夫だ、問題ないと。
ネタは欲しいけど頭のおかしい人は欲しくない。ただ、飛び出す単語的には視聴者か?LIVE配信もしたし顔出しやらもしたから男の人が寄ってくる覚悟はしていた。だってそうだろ?美少女とゲームの中で遊べるなら、ちょっとくらい話しかけてみようと思う。それに対する俺のアンサーとしては、中身が男なので普通に男友達として楽しく遊ぶだけ。
そもそも何処に住んでるとか分からない相手だし、缶詰状態なのでストーキングされる心配もない。いや、アバターが女性でも中身は男の可能性もあるのかこの人。だって俺がそうしてたし。
「ちょっとくらいお姉さんと遊ばない?」
「たった今人をババ呼ばわりしたのに姉とな?そなたは老いた・・・。知らぬ間に私よりも老いたのだ!そう言う訳で年上はちょっと・・・。」
「待って!と、言うかそのアバター返して!」
「はぁ?コレは私のアバターです!売れと言うなら通報案件ですよ?そもそもトラブルオンラインのアバターは個人データに紐付けされているでしょう?配信を見て現実基準と言うのが・・・。」
「だってそのアバター私が好きだった人のアバターなのよ!と、言うか今も好き・・・、かも?」
「残念ながら貴女の様な頭の痛い人は知りませんよ。」
「あぁ〜もう!若干突き放す顔も好み!・・・、ならコレは?私を知らないなんて言わせないんだからね!1年前の冬、蔵王、樹氷、ジンギスカン・・・。」
頭の痛い人が話す言葉に俺が焦る!え!?マジなの?確かに彼奴は自分の身長を気にしていたし、可愛いものが好きでぬいぐるみやらもコレクションしていた。子供も好きでいい母親とは?と言いながら絡み酒をする事もあったし、世話焼きでありながらそそっかしい所があって・・・。
俺がVRMMOをしていると知っている人はそこそこいる。ただ、どんなアバターでどんなゲームをしているかを知る人はいない。薄い人間関係を好むわけじゃないけど、職場とプライベートとゲームは全て分けていた。そんな中でツキを知る人は後にも先にも・・・、元カノしかいない。




