43話 結構便利 挿絵あり
「マリちゃんを取り込むって・・・。でも、そう言えば人が境界を踏み越えてきたみたいな事言ってましたけど、そんなに大きな事ってあるんですかね?」
「西洋的に言えばオルフェウス。日本ではこと座の由来や芸術方面で有名な英雄ですね。しかし、本質はそこではなく冥界に降り妻を連れ戻したと言う部分です。元々父親が神と言う事で完全な人間とも言えませんが、これは人が境界を踏み越えた事例と言えるでしょう。」
「う〜ん・・・、それってどちらかと言えば医者の仕事の様な・・・。要は蘇生させたって事ですよね?」
「ええ。医院長が言う様にVRゲームと脳波と医療は区分して考えない限りあちら側へ行く手段と取れます。それこそVRゲームで脳波を使うのは意識だけを他世界へ送っていると取れますし、死んだ妻を連れ帰れないものの記憶をメモリーとして流していればAR画像で浮かび上がらせてそこにAIを絡めれば受け答えもしてくれます。ただ、日本で起こった事象と言うのがマスイ。」
「日本で起こった事がですか?」
「西洋圏で起こった事象なら、話は多くともそれを否定する強力な材料がある。それは復活を予見してしなかった彼が文字取り身を挺して強固な結界とでも言えばいいのか、神に愛されようと死後の復活はないと示した。しかし東洋圏、特に日本はかなりその境界が曖昧なんですよ。」
「あ〜、クリスマス祝ってハロウィン祝って、盆に墓参りして正月には初詣行く的な?確かに宗教観としてごった煮で・・・、無神論者が多い事ですか?」
「祭礼については死者を慰める、豊作を願う等なので四季がある以上いくらでも増えますよ。それこそ日本には四季毎に何かしらの祭りがありますからね。そうではなく安倍晴明と言う存在が大きい。彼は人と狐の子と言われ陰陽師として術を使い酒呑童子の討伐に関わったり、玉藻前の悪巧みを看破し殺生石へ変えたり・・・、何よりも泰山府君の力を使えたと言う部分がかなり不味い。」
「泰山府君?」
「わかりやすく言えば閻魔大王です。この力を使い寿命を延ばしたり、死者の帳簿を削って生者の帳簿に付け替えたりしたと言われています。そこで妖怪側に立つ医院長としては第2の晴明誕生は不味いと言うか・・・、下手すればそれを超える可能性があるマリちゃんとは仲良くしておきたいのでしょう。」
「やっぱり医院長も陰陽師って怖がるんですか?多少変わった髪型ですけど普通に人間に見えますよ?カッパとアマビエのハーフとか言ってましたけど。」
「医院長、天野 荒五郎の妻は天野 八百さんです。ただ、本来の名は八百比丘尼だそうです。世界を飛び回っているのであまり日本にはいませんが・・・。」
「それって確か人魚の肉食べた人ですよね?」
「ええ。今は長生きし過ぎで人ではない側に立っていますが、元をたどれば人です。今の世の中妖怪側に行ける者も少なく同族が増えた事を喜ぶだけならいいですが、それはどうなのやら・・・。」
一応人と妖怪は協力関係にある。知る者はそれこそ国や深く医療に携わる者等となるが、そんな中でマリちゃんはひっそりと生きて行けるのか・・・。神秘医学の医師としたのはやはり正解でしょう。
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全身をグリグリ動かして尻尾もグルグル動かしてみる。尻尾筋なるものが分からないけど、結構スムーズに動かせるのよね。ゲームしてる時に俯瞰視点で尻尾見てたからだろうか?人にはないはずだけど、元々ナインテールを動かすとして尻尾は使っていたし、それが動かせる事も頭では分かっている。
なので今は身体を包み込む毛皮のコート風にも出来るし、そのコートに力を込めれば全身マッサージも味わえる。腕が2本だと一部はマッサージ出来ても自分では届かない所もあるし、足裏マッサージとかくすぐったいけど結構力強く押せる。
軽いストレッチと言いつつ最終的には腕立て腹筋に、グランプなんかの体幹トレーニングやらスクワットなんかもした。割と凄いのは柔軟とか?立ったまま地面に膝を曲げずに手が付いたけど、股割りしたら180°開いても痛くないしそのままペタリと地面に身体も付いた。
コレって結構激しめなダンスとか踊れちゃう?バレリーナとか成れそうなくらい柔らかい。身体は柔らかい方がいいと言うし、これだけ柔らかいならいいだろう。ただ、身体を動かすと汗もかくし風呂に入ってないと言う気持ち悪さが出て来る。医療ポッドでナノ洗浄はされたけど、日本人たるものやはり風呂に入らねば!
そう思ってタオルを持って患者衣の替えと下着も確認してシャワー室へ。さっさと服を脱ぐけど考えてみればマジマジと自分の身体を見るのは初めてかも?と、そうは言ってもあるものが消えてないものが結構増えた程度だな。頭からシャワーを浴びつつおっかなびっくりジャンプ―するけど、コレって耳の中に入るとまずいよな?買う物リストに耳栓とかも入れとこうかな?
「あぁ~・・・、今は顔面でシャワー受け止められないけど、いつかはそれも可能にしてやるよ〜・・・。ただ、ボディソープ代ががが・・・。」
シャワーを止めて身体を洗おうと・・・、する前に尻尾にボディソープを振りかける。考えてみればゴシゴシタオルやらは要らないな。動く尻尾を擦り合わせて泡立たせ、そのまま全身を尻尾でゴシゴシ擦る。毛が滑らかだからか普段は硬い物で擦ってたから落ちた感じが若干足りない。
ただまぁ、前の彼女曰く肌をあんまりゴシゴシ擦るとよろしくないと言われたし、本人はナノ洗浄かさもなくば手で洗うと言っていたのでこんな感じでいいのだろう。それよりも尻尾の付け根とかの方が気になるから、そっちは手を突っ込んで洗い全身を流す・・・。コレって水代も結構かかるよなぁ・・・。
「いや、魔法使えたら結構節約出来る?でも、自分で出した水で自分を洗うのって、考え方によっては汗とか涙とかで洗ってる事になる?その前にそんな量を出したら干からびる様な・・・。」
ツキは魔法を使った!体内の水分が20%減った、ナノマシンの精製により体重が5kg減った!急激な体調変化でゲームオーバーDeath!って、かなり使い勝手悪くない?でも、ゲーム脳でMP=精神力と言われるよりはいいのかな?そもそも精神力ってなんなのか?って話になるし、脳波操作で色々操作出来たりする中で疲れると言えば長時間使った頭痛やら眼精疲労とか?
でも、それは減ったと言うよりは疲れだから明確に数値化出来るかと言えば・・・、かなり難しいなぁ。色々と機器を扱ったけど感覚重視の機器ほど売り込みに困る物はない。現場は使っていた物からかけ離れず、安定した数値やデータを!作り手は新機軸で斬新で直感的な物を!売る人はあるていど信頼があって、ユーザ―の声を反映しつつ割とメンテが必要な物を!となる。
機器の破損は死活問題で、簡単に壊れる医療機器を使うかと言われれば医師は絶対使わないし、不満の改善がなければ新しい物を買おうともしない。だって今まで使った物に信頼性があるなら、それを使えば安定した治療は出来るし操作方法も間違わない。作り手の思想は別として販売側としては、どこで稼ぐかをメーカーに伝えるならメンテナンスとマイナーチェンジと言う話になってくる。




