42話 アレってそうなの?
LIVE配信から一夜明けても特に代わり映えはしない。SNSの方は敷田さんが情報を取りまとめているし、流す情報と言うのも一方的な告知と言うか、動画を更新しましたなんかがメインなので俺の新しいスマホに山程の着信やらメッセージが!なんて事はないのよね。そもそも最終的な視聴者は400人に届いてないし、見せ場と呼べるものは大魔法ブッパしたくらい?
ただ存在証明と言う部分を考えると400人くらいには認知されたし、LIVE配信をそのままアーカイブ化して後から視聴出来る様にしておけばぼちぼち増えていくかも。
「おっ早うございま〜す。朝食はパンケーキですけど何枚入ります?取り敢えず大き目のパンケーキ5枚とカリカリベーコンに目玉焼きを持ってきましたけど。」
「取り敢えず食べてから考えますよ。今日はそこまでお腹空いてないからあんまり食べられないかも。」
「もしかしたら供給が生産を上回ったのかも知れませんね。日夜体内でバイオナノマシンは生産されてますけど、それでも過剰生産はされませんし身体的な瑕疵がなければ治療する事もないですから。元からマリちゃんは健康体でしたけど、運動という面を考えると引き篭もりだから代謝は少ないし、筋肉維持にナノマシンが関わるにしても筋トレとかしなければ作用しませんし。」
「それって暗に食べ過ぎたら太るって話ですよね?今の所運動も出来ないですし。」
「そうなりますけどマリちゃんの場合強制排出が出来ますからね。」
「なんですそれ?下剤でも飲んで下から出すとかですか?」
「違いますよ。昨日のカボチャ、重さにして2.1kgでしたけどアレをマリちゃんは強制的に体外排出したんです。つまり、太ったと思ったら魔法使えば即座にダイエット完了・・・、羨ましい!自分で話していてなんですけど、カロリーを消費するのって大変なんですよ!今なら薬とかで代謝も上がりますけど、基本は運動療法ですし。」
「そうは言っても今だとモデルさんとかも標準からやや痩せ型が理想体型でしょう?あんまりガリガリだと不健康だから採用されないと聞きますし、俳優さんとかでも役作りでガリガリになるなら相当保険積むって聞きますよ?」
昔は痩せている=美人的な風潮があったらしい。しかし、時代は流れて痩せすぎていても美しくはなく、太りすぎていてもダメ。標準やや痩せがその人の一番美しい体型とされているし、厳しい所はBMIなんかも調べられるのだとか。
アスリートなんかで筋肉質な人はBMIが高いけど、それは脂肪よりも筋肉が重いせいだし、そう言う人達は体重よりも体脂肪率の方を気にするな。隠れ肥満とか怖いし。因みに俺は体重42kgで身長145cmと美容体重らしい。らしいと言うのは尻尾が10本もあるのでそれを差し引いた場合は更に軽くなるし、全長と言う話なら2m位あるそうだ。そうなると痩せすぎに分類されて健康的ではない。う〜む・・・、尻尾自体は骨と筋肉、そこに皮と毛が生えてる代物だけどこれ単体だとどれくらいの重さなんだろうか?
「 痩せ型は肥満型よりも健康リスクが高いというデータもありますからね。一時的にしても過度なダイエットは身体のバランスを崩す可能性もありますし、何より栄養失調や過食症拒食症発症リスクもあります。医者としては標準目指してそれを維持してもらうのが一番ですね〜。そう言えば一夜明けで配信どうなってるか気になりません?」
「それも気になりますけど、話の流れ的にはカボチャの方が気になりますね。アレって何か分かりました?」
「三枝先生曰くカボチャに見えてカボチャではなく、中身はタンパク質の塊って話ですよ?」
「タンパク質の塊・・・、肉ですか?」
「そう言う見方も出来ますね。まだまだ試さないといけない事は多いですけど、取り敢えず焼くといい匂いはしましたよ?こう・・・、焼肉のタレが欲しくなる様な。」
「勝手に飯テロと言うか下手したら人肉食う事になりません?それ。」
パンケーキにベーコンと目玉焼きを挟みケチャップとマスタードで食べる。アメリカンスタイルなのか甘さはない、パンケーキと言いつつもどちらかと言えばもっちりとした薄パンに近い。メイプルシロップもあるので飽きたら甘くしようかな?
「その視点はなかったですね。確かに召喚と言うか、大麻から生えたカボチャの原料はマリちゃんのナノマシンだと、間接的にはあのカボチャはマリちゃんであり、それを食べると言う事はマリちゃんを食べる・・・。因幡の白兎チックですね。」
「出す物ないからって私は焚き火に飛び込みませんよ?既に飛び込んで月に上る前に狐娘になりましたし。それに、どうせなら鶴の恩返しとかの方が・・・。」
「なにか恩返しします?」
「羽はないから機織りはしないですけど、代わりに身を削ってカボチャ出しましたよ?と、言うかなんでカボチャ焼いたんですか?」
「研究の為ですね。四等分にして中身を見る。そして1つは冷蔵庫へ、1つは冷凍庫へ、残りは常温保存で腐敗するかと加熱による変化を見る。そもそもな話、アレがナノマシンの集合体だとすると不要だから排出されたのか、それともマリちゃんが呪文を唱えれば出る物と思っていたから生成されたのか?分からない事は多いんですよ。流石に食べはしませんけどね。」
「それは倫理的に?」
「それもありますけど、プリオン病になって脳みそがスポンジになるのも怖いですし、共通ウイルスや細菌感染等の感染症のリスクも高いですからね。あれ?でもマリちゃんってそんなウイルスとか持ってない?」
「私をじっと見ない!なんで若干カニバろうとか考えるんですか!」
「ほら、そこは食料危機的に?遺伝子組み換え野菜やら品種改良された家畜もわんさかいるから、マリちゃんカボチャをわざわざ食べるが食べないかの話をすらなら食べませんけどね。」
しれっと弄ばれている様な気もするけど、なんだかんだで必要な事は教えてくれるんだよなぁ〜・・・。まぁ、被検体と医者と言う関係だけど何も知らされずにモルモットの様に扱われるよりも、ある程度はフランクに話せた方が気が楽だ。
「と、そんな事よりも反響の方ですよ。」
「医学的神秘が軽い!でも、何か反響あったんですか?初めてのLIVE配信ですよ?」
「いきなりのシンデレラストーリーはありませんね〜。ただまぁ、批判的な意見もなかったから成功と言えば成功ですよ。最終的な登録者数は465人、LIVE配信をアーカイブ化すればまだ人は集まるでしょう。」
「おぉ~、結構集まったんですね。なんだかんだで500人近くいたのか。」
「書き込みログは後から読んでもらうとして、マリちゃん的には運動とかしたいですか?」
「運動ですか?さっき太るっ話もあったし、病室で出来るものがあればあ何かしらはしたいとは思いますよ?こう・・・、ヨガマット敷いてストレッチとか。流石にエアロビやらダンスは無理でしょうからね。」
散歩でも出来ればそれが一番簡単なんだろうけど、その簡単なはずの散歩のハードルが高い。昨日のならコスプレで押し通せたのだろうけど平日の今日は流石に無理・・・、なのかな?一応医院長から客人扱いの通達とマリー・ガンディーなるエセ医者の身分は貰っている。
それを考えると病院内の人の少なそうな所なら歩き回れる?でも、それって散歩って言うよりも肝試し的な何かだよな?主に脅かす方としてだけど。でも、お化け屋敷に狐の妖怪とかいるのかな?見た事あるのはお岩さんとか、井戸から飛び出る幽霊とか、落ち武者とか生首とか?
AR表示で迫って来る幽霊は文字通りすり抜けるからセクハラなんて起こらないし、すり抜ける時に冷気の噴射なんかもあって本当に幽霊がいる様に・・・。そう言えば妖怪がいるって事は幽霊もいるのだろうか?
AR表示の中に本物の幽霊・・・、存在感的に本物が負けて作り物が勝ってるな。薄ぼんやりした霧やら影はそこまで怖くないけど、AR表示の幽霊やらは怖がらせる為に作られたものだから本当に怖い。
「ヨガなら大丈夫ですね。ダンスは流石に外に音が漏れるのでやめてください。その代わりもう少ししたら病院の中で特定のエリアなら出歩けるかもしれませんよ?」
「えっ!外出許可ですか!?」
「そこまで飛躍しませんけど、医院長の客人と言う話で何箇所かの出入りは許可出来そうなんですよ。具体的には今いるフロアとか、三枝先生の部屋までとか。リハビリルームも使えれば水泳やランニングマシーンとかもあるんですけど、そっちはもう少し待って欲しいそうです。」
「いやいや、缶詰解放に近付いてるなら大丈夫ですよ!あっ、そう考えるとアパート解約は早まったかなぁ・・・。もっと時間がかかるものだと思ってましたし。」
「う〜ん・・・、割とマジな話をすると多少の外出はよくても1人で外泊出来るかはまだ微妙なんですよね。」
「親元に帰れって事ですか?外見も幼いし。」
「確かに人攫いは怖いですけど、今時すぐに確保される最も無駄な犯罪の1つですね。そう言う話ではなくでマリちゃん自体にはまだまだ分からない事が多いって話ですよ。と、少し話し込みすぎましたね。私は一旦三枝先生の所に向かうので、マリちゃんは配信のネタを探すか適当なストレッチでもしておいてください。では!」
敷田さんは食べ終わった皿を持って出て行ってしまったし。なんだかんだで完食したけど胃も大きくなったのかな?割と量はあったと思うし。それは横に置いておくとして、えっちらおっちらとだけど少しづつでも間違いなく前に進んでる。
「さてと、ゲームして何かネタを探そうかな?その前に、ベッドの上だけど軽くストレッチを・・・。」
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持ち込まれたカボチャ・・・、の様なタンパク質の集合体。切断面は滑らかでおおよそ野菜の様な繊維は見受けられず、その代わり表面の手触りはカボチャの様にゴツゴツとしているのに対して中は柔らかい。
持ち込まれた当初こそハロウィンに因んだ小物としてジャック・オー・ランタンを持ってきたのかと思ったが、敷田さん曰くこれはマリちゃんが出したらしい。その時は肉を持っていくと急いでいたので、後から詳しく話を聞けばゲームのスキルを使う様に大麻を振って出したらしい。
事実。敷田さんのスマートレンズに記録された映像を共有して見れば、確かにマリちゃんが大麻を振りつつ呪文を唱えるとカボチャが出て来た。そこで問題なのはマリちゃんがどこまで何が出来るのか?だろう。
医院長はマリちゃんを一番新しい妖怪と定義した。確かに棒を振ってカボチャが出ればそれは魔法だろうし、大きさを変えられるならお伽噺の魔女にもなれる。古い時代はそれで良かったのかもしれない。超常のなにかが気まぐれに人を助ける、と。
しかし、現代に置いてはその超常の力がどう使われるのか?よりも何が出来るのか?の方が重要で、例えばこのカボチャをマリちゃんが大量に作ったとしても焼くなりして廃棄すれば済む。事の重要性はそんな短絡的な事ではなく、人を癒す回復魔法が使え、無から有を生み出す力を持ちつつも、その能力の全容を本人も含め一切分かっていない事だろう。
例えばゲーム中にサンダーバレットと言う電気を飛ばす魔法がある。初期魔法と言う話で攻撃力は低く、その代わりに連射してダメージを稼ぐと言う話だが、問題は現実でそれが出来た場合の被害だ。
医院長曰く古い時代の妖怪は大雑把で派手好きだと言う。それが自身の証明であり悪戯であり、遠くてもそこにいると分からせる方法だったから。しかしマリちゃんの場合はどうだろう?ゲームと言う枠組みの中で体験した事実を現実に結び付け顕現させる能力とでも言えばいいのか・・・。
過去なら火と雷なら火が重宝された。しかし、今は火事の被害よりも停電の被害の方が大きく、その電気を操れると言うなら相当に危ない。それこそLIVE配信で使われた大魔法。アレをマリちゃんが使おうと思い、その工程を全て成立させたらどうなるか?
多分隕石は降らない。その代わり電気で動いている別の・・・、例えば軍人衛星も気象衛星も関係なく降ってくる可能性がある。単純な時代は単純な被害で済むのだろうし、電気が扱えてもそこから繋がるものがなかった。しかし、複雑化した現代では何がどう転ぶか分からない。
「戻りましたよ主任。あんまりお腹空いてないと言いつつ、朝食はペロリと完食でしたねって、難しい顔してどうしました?」
「いえ・・・、医院長がマリちゃんを見て身構えると言ったのは覚えていますか?」
「覚えてますけどどうしました?」
「いえ・・・、医院長は悪い方ではないのですが人と妖怪と言う違いに置いて一線は引いている。そして、その医院長がマリちゃんを妖怪と定義した。」
「それって何かマスイんですか?私はまだ妖怪やらの事に関してはズブの素人ですけど。」
「古い資料から考えれば不味くはありません。しかし、寛大過ぎると言う部分と自身の客人として取り込もとしているとも取れる。」




