34話 外に出てみた 挿絵あり
「実はナノ塗布剤とか塗ってたりしません?」
「生憎と本当に持ち合わせていませんよ。しかし、コレで医院長へ報告する義務も発生しました。」
「今までしてなかったんですか?」
「経過観察と言う形でデータは送っていましたが、対面はまだと判断していました。しかし、この回復現象が発露したからには対面での報告が必要でしょう。ちょっと準備するので待っておいて下さい。」
そう言って三枝先生は病室を出ていったけど・・・、魔法ってマジなの?若干腹減って腹の虫がくぅ〜っと鳴く音が遠くに聞こえるけど、そんな事よりも回復魔法ってマジ?確かに大麻が動いたり狐娘に成ったりと、事故に合って寝て起きたら人生が丸っと変わってしまった。
まぁ、容姿やら外見的なモノはいい。よくはないけど、取り敢えずいいとする。元の姿に戻りたいかと聞かれたら、何というか正直微妙?こう・・・、ゲームとか小説では元の姿に戻るんだ!と、奮起するのが一般的かも知れないけどそれは多分、信じてもらえないとか男の自分に未練があるとか、後はアレを未使用とか?
何にせよ今の俺は身分も証明されたし身体も動く。火達磨焼死コースに比べれば美少女狐娘魔法使いコースなんて安い安い。いや?なんか盛られすぎて重い?何にせよ属性過多で胃もたれするのはその属性を持っている奴だけだろう。スマホをポチポチしながら個人データを読み進めると、どうやらAI的な解釈からすれば俺は性転換した事になっているらしい。う〜ん・・・、一応コレで普通に温泉入れるな。
「戻りました、取り敢えずこれを着てこれを付けて下さい。」
「白衣?それと何ですかこれ?マリー・ガンディー?」
「マリちゃんの偽名と偽装です。流石にお化けスタイルで昼間歩くのは憚られますので。」
「お化けはダメで狐娘のコスプレがOKな理由を小一時間問い詰めたいんですけど?」
「そこは神秘医学を専攻している私の後輩だと誤魔化します。」
「なんですかその怪しげな医学は?それを専攻していたらコスプレOKとか流石に聞いた事もありませんよ。」
「医者ではないので知らないかもしれませんが、神秘医学は伝統的な医学と生命の神秘を解明するものです。医学の基礎は錬金術である。コレは16世紀の医者パラケルススが錬金術を医学に取り入れた事から始まらますが、ユナニー医学等にも似たような部分が見受けられます。またナノマシンを扱う者としては体内の臓器が互いに情報をやり取りする巨大ネットワーク、コレを人体ネットワークといい、そこからナノマシンに如何にして情報を取り入れられないか?そう言った事を研究しています。まぁ、マイナーである事に代わりはありませんが。」
「凄く難しそうと言う事は分かりますけど、結局なんでコスプレOKなんですか?」
「これを研究している医者が総じて変わり者だからです。」
自信満々に三枝先生が言うけど、俺からすれば医者は全員変わり者。今まで仕事柄色々な先生と関わってきたけど、癖のない医者はいなかったし、持論だけど癖が強い方が腕がいい。多分一般人と違う理論で生きてるんだろうな・・・。なんにしても初めての日中外出が医者のコスプレか。
渡された白衣を着込み名札を付ける。わざわざ名札に子供が書いた様な星のマークが散りばめられているのは必要なの?なんにしても自分で用意してないから文句を言っても始まらない。寧ろ、これが上手く行けば病院内ならウロウロ出来る?夜中にお腹が空いたら購買とかに行って何かを買ってもいいのかな?
「着替えましたけど本当にコスプレって言い張ればいいんですか?」
「聞かれない限り何も言わなくていいですよ?日本人の美徳として他人に不必要に干渉しないと言うものがあります。マリちゃんは逆におどおどせずに堂々としていればいいです。あと、大麻は持ってきてください。」
「確かに今の私を見かけたとして、昔の私が話しかけるかと聞かれたら話しかけないですね。でも、大麻も?」
「ええ。邪魔ではない限り干渉しようとは思いません。では行きましょう。私の後を着いてきて下さい。押し通すとは言えあまり干渉されたくもないですからね。大麻は誰かに聞かれたら外部デバイスと言う事にして下さい。」
三枝先生がそう言い外に出るのでおっかなびっくりついて行く。日中帯のせいか入院病棟で面会謝絶者が多数いるのか、一般人と言うかたまに看護師とすれ違うくらいで、他に出会う人はいない。先生の研究室は小児病棟が近かったせいか子供もいたんだけどな・・・。
割とと言うか意外とと言うか、看護師達は確かに俺を見て一瞬ギョッとするものの、先に歩く三枝先生を再度見ると何か納得した様な感じで通り過ぎていく。もしかして、三枝先生も変わり者で通ってるとか?
「あっ、主任。呼び出されたんで来ましたけどこれから?」
「ええ。医院長と会います。敷田さんも着いてきて下さい。」
三枝先生を先頭に左右に俺と敷田さん。気分は医局長の回診ですとか言いつつ廊下を歩く医療ドラマとか?かなり昔の・・・、それこそ歴史的ドラマ方面の映像だけど見るとそこそこ面白い。
「おやぁ?三枝先生これからどちらへ?それと、そちらの方は?」
「白波先生・・・、これから医院長と面会です。急ぎますので。」
「ほう、あの方が会うとは珍しい。理事長含めてお忙しい方で中々会えないと言うのに。」
白波先生と呼ばれた人が俺達を見た後、医院長と会うと言う言葉に若干目の色を変える。そう言えば俺もここの医院長って知らないな。現場の先生とやり取りはしても、その上となると俺達とは全く持って関係ない。あるとすればウチの幹部連中とか?それでも接待禁止だし名前と顔を知ってるくらいか?
「では急ぎますので。」
「ふむ・・・、そちらのコスプレ少女は?いくらなんでもその格好では。」
「神秘医学の医師です。この格好もそれに基づいたものだと言えます。」
「神秘医学・・・、なるほど。ガンディーさん、ね。」
舐め回すように見てくるけど若干視線が気持ち悪い。性的な意味ではなくどちらかと言えば昆虫が獲物を狙っている様な無機質な視線・・・。観察眼とでも言えばいいのか、人を値踏みする様な感じ。新しく営業担当に行ったらこんな視線を向ける先生もいたな。
前は大人対大人だったから営業上のパートナーとして気にしなかったけど、医者を語って同業者を見る視線って結構敵対的なんだな。まぁ、それでもやる事は営業時代からあんまり変わらない。
「マリー・ガンディーでぇ〜す。三枝先生の後輩でコチラにきまぁ〜した。白波センセはナニ専攻ですかぁ?」
容姿は美少女、但し外人風味。ならエセ外人風に名乗って聞いてやんよ。実際営業やら取引してるとコチラが話すよりも相手に話させる方がよりいい利益を産む。なにせ話させると言う事はそれだけ本人の考える問題点を炙り出すと言う事で、その問題点にコミット出来る商品が提示出来れば、相手は買うかを考える。
商品の素晴らしさを伝えるのは最もだけど、どんなに素晴らしくても必要のない人にはただのガラクタでしかないのよね。だって、病院にコスメを持って行っても今は要らないと言われるしね。
「私の専攻はナノマシンと脳波ですよガンディーさん。論文も発表しているので機会があれば読んでください。」
「oh!ホットな分野でぇ〜す。そのうち人体ネットワークと含めて話しましょう。でも、今は医院長が優先でぇ〜す。先輩行きましょう。」
そう話を切って三枝先生を促す。敷田さんと三枝先生は顔に出さなかったけど、多分笑いを堪えているかもなぁ〜。でも、営業やらは多芸なんだよ。相手に対してどうやって有利に取引を持ちかけるのか?
白波先生と言う人は多分三枝先生と仲が良くないから、敢えて相手の専攻を聞いてコチラが興味を示し、それとなく話が合う風に装う。頭ごなしに合う合わないなんて第一印象でしかなくて、それは身なりや容姿で決まる。なら、営業としてそれを第二印象の会話で覆す。一応、これでも結構優秀だったのよ?




