33話 ヒール
「ネタネタネタネターーー!!!おっと、荒ぶる巫女は大麻を振って邪気を払いましょう、悪霊退散、悪霊退散、陰陽師。なんにしてもですねぇ、ネタがないんですよ・・・。」
デイリーこなしたし領地弄りは防衛戦考えるとシークレットだろうから、そこまで話せないだろうし内部公開するといざ戦うと言う時に情報戦で負ける。エンジョイ勢だけどエンジョイするにしてもエンジョイするだけの実力も知識も必要なんだよね。
それこそやった事ないけどキャンプするにしても、火起こしした事なければ薪と着火剤があればいいと思う。実際火なんて簡単に着くと思っていた時期が俺にもありました・・・。
結果?友人がバーベキューやるからと火起こし手伝ったら大変だったなぁ・・・。炭に着火剤するにしてもオガ炭?とか言う穴の開いた炭を渡されて火を着けようと着火剤塗って火を着けたけど、炭には火が着かないし着火剤はなくなるばかり。
その後キャンプ配置で着け方見たけど、アルミホイルで何本かを束にして巻いて、コレまたアルミホイルで箱作ってそこに着火剤やらを入れて穴に火を通して全体が温まるのを待つしかない。所要時間20分と言う時間に友人と酒を飲んで絶望してたな・・・。まぁ、その後バーベキューはしたけどさ。
録画しつつネタがないと愚痴るのはそろそろ辞めて街を歩くか・・・。ゲーム配信だけど、ゲームとしても毎日イベントしてるわけじゃないし、安易にガチャ回すと言うのもなんか違う。今更武器プレビューとかしても、それなら攻略サイト見ればよくね?実際に使えばよくね?となってしまうし・・・。
う〜ん・・・、歌でも歌ってみる?カラオケは好きだし。後、聴覚障害者用の吹き出し機能をオンにしたから、頭上にはネタがないの吹き出しが浮かんでるはず。コレ見て誰かがネタを提供してくれないかと切に願う。う〜ん、呼吸法とかマスター狙いでやってみる?マスターまで行けば状態異常時に呼吸モーションだけで軽減出来るし、この前の反転やらも更にカウントが減らせる。
ゲームの仕様的にモンスターからの状態異常攻撃は相殺するか、避けるか邪魔するかして対処しないと100%かかる。アイテム使えば即回復するものの、それがなければ呼吸法やら装備で軽減したり無効化しないといけない。試練系だからマスターが面倒と後回しにしてたからなぁ・・・。
「すいません、ちょっといいですか?」
「私ですか?」
そんな事を考えながら召喚神殿の軒先に座って足をブラブラさせていると、知らん人が話しかけて来た。えっ?もしかして視聴者?それともなんかネタを出してくれる人?なんにしても暇だから話してみようかな。
「ええ。貴女です。私はユアンと言うのですが・・・、その尻尾はナインテールですよね?」
「そうですよ。評価が決まらないナインテールです。」
「単刀直入に聞きますけど、それって売ったりしません?」
「コレを?ダメダメ、コレは売り物じゃないんです。」
「やっぱりですか・・・。」
「逆に聞きますけどなんでまたナインテールを?」
「私もこのゲームやり出してそこそこ長いんですけど、装備品コレクションをしてるんです。その中でナインテール持ちはゲーム配信初期からのプレーヤーで、更に売らなかったプレーヤーしか持ってない。その上覚醒機能のせいで数は殆ど残ってないと来たもんだ。色々と持ってそうな人や売ってくれそうな人を探してるんですが、未だに手に入らないんですよね・・・。」
「あ〜、覚醒機能そのモノは初期だと数値アップだけだったしなぁ〜。」
初期のトラブルオンラインでの武器やら防具の強化は重ねて数値アップだけで追加機能はなかった。なのでナインテールの再生はそこそこ時間食ったし、より強い盾が出て来てナインテールの様に尻尾が無くなれば盾としての機能を失わずダメージソースとしても使える事からナインテールは初心者装備に落ち着いた。
まぁ、それでも9回ジャストガードダメージを与える為だけに装備してムーンウォークなんかで突撃する人もいたし、使い終わればインベントリから盾を取り出せばいいと言う人もいた。しかし、防具が揃い武器が揃うと他の武器をインベントリに入れる様になり、ナインテールは倉庫行きへ。イベントでもお金がいるので使わないならと金策の為に大半が売りに出してしまったし、見た目と装備した時の邪魔さかげんで使う人も減っていった。
俺?もちろん見た目重視!インベントリに4個ナインテール入れて取っ替え引っ替えの45回ジャストガードは中々高ダメージを出したな。
確か配布時は10万人がプレーしてて5万人が貰ったんだったかな?それが全員覚醒させたとして持ってるのは1万人、引退者含めると更に減る。確かに3年前の配布品だから今探しても出てこないだろう。
「そうなんです。覚醒での追加効果が発表されたのはイベントから約1年後、その時にはナインテールよりも高性能な武器が出てましたが、9回自動ジャストガードはナインテールのみ。上位陣は自力で装備を集めるから交渉の余地もなく、かと言って初心者や中堅ではそもそも持っていない。そんな時・・・。」
「私を見かけて声をかけたと。う〜ん・・・、それでも売れないですね。コレなくなるとアイデンティティが喪失してしまうので。」
「そうは言っても色々出せますよ?課金装備は交換出来ませんが、モンスタードロップなら交換出来ます。例えば雷竜王の逆鱗装備一式とか、天空城塞都市かぐやから惑星攻略してIP2502衛星装備とか。足りないなら秘伝書も多数。」
「う〜ん・・・、やっぱり売れないですね。配布されてからずっと装備してて愛着もありますし、九尾の狐を超えた者の称号もありますから。」
称号ってなあ〜に?答えはプレーしたイベントやらの数だけ増える名誉的なモノ。ゲーム上NPCに効果がある以外はキャラクターフレーバーテキストが増えるだけ。付け替えれば他のフレーバーテキストが読めるものの、いじっても意味がないのでそのままにしてある。
「やっぱり駄目ですか・・・。なら、他に持ってそうな人知りませんか?」
「フレで初期からやってる人は殆ど売ったかコレクションしてますね。多分、私の周りは全滅です。」
フロムさんは気が合って初期から一緒にやってるから未覚醒ナインテールを持ってると思う。でも、そのフロムさんも蒐集癖があるのよね。一時期アクセサリー集めにハマってヒゲに結べば効果出ないかとかしてたな。
「そうですか・・・、それなら仕方ない。あっ、フレンド申請いいですか?仮に売る時は私にお願いしたいので。」
「フレはいいですよ。売るとしたら引退の時かなぁ・・・。何にせよ気長に待てるならですね。」
「かまいませんよ。先ほども名乗りましたが私はユアンてす。アーティファクトと言うクランでサブマスをしてます。」
「私はツキです。野良なのでクランはありませんけど、配信者しつつプレーしてます。アーティファクトってどんなクランなんですか?」
アーティファクト、日本語に直すなら遺物かな?医療だと本来のデータ以外に混入する人工的なノイズや影響って意味もあるけど、今は医療ポッドのおかげで殆どノイズなんかはない。仮にあるとするならナノマシンへの干渉波とか?脳波が原因らしいけど、滅多な事では起きないらしい。
「アーティファクトは平たく言えば商人クランです。武器や防具の価格変動を見つつ自分達で扱って遊ぶ感じですね。入り用なら色々用意しますよ?と、コレってネットにアップします?」
「その予定で撮影してますけどネタがなくてね・・・。まぁ、日常配信がメインになるので多分アップしますよ。」
「なら宣伝を!アーティファクトはアナタの販売意欲を買います!アナタの購買力をお助けします!まだまだ弱小ですが、入り用の際はアーティファクトへ!拠点は日華ですが、露店しながら渡り歩いてます!」
「おぉ〜、なら情報も売ってるんですか?攻略サイトにも載らないようなヤツ!」
「ありますとも!天空城塞都市かぐやのレアエネミーに対する攻略や、小さな街に隠れ家、他ちょっとした小技等々。クランとして検証された確かな情報をアナタへ。あっ!カンストプレーヤー情報は売りませんよ?個人情報売買は禁止です。代わりに助っ人斡旋は出来ます。」
アーティファクトはどちらかと言えばエンジョイしつつ商人プレーするクランの様だ。まぁ、露店開けるしそんな楽しみ方もありだろう。何か欲しいならモンスター倒せと言われるかもしれないけど、ゲームは義務じゃないから楽しいなであって義務にったら面倒だからなぁ〜・・・。実際デイリーとかの納品クエストだと倉庫漁ったり買ったりするし。
そうこうしている内に三枝先生からコールが入りユアンさんに断りを入れてログアウト。どこかマップ探索でもしようと思っていた矢先だったのでタイミング的にはちょうどいいかな?
「よっと、もう検査ですか?」
「ええ。それとコレを渡しておこうかと。」
「新しいスマホ!コレでかなり不便が解消されます。」
何やら紙の束を抱えて現れた三枝先生からスマホを受け取って充電器に繋ぎ電源を入れる。やはりと言うか何と言うか、アップデートが山程表示されるのでそれをアップデートするのと、後は個人データへもアクセスしないとな。それが済めば資産管理やらの機能も本格的に解放されるし身分証明としても使える。
スマートレンズだけだとデータは引っ張ってこれでも、その後身分証明として使うなら、毎回相手にデータを送らないといけないし身分証明としてはかなり弱い。スマートレンズとスマホが揃って初めて正式な身分証明証とも言えるな。
そんな事を思いつつスマホをポチポチ。本人証明の映像と言うか写真は生体データに紐付けされたものが使われていて、常に最新の写真が表示される。恐る恐るそれを開くと、狐娘とご対面。うん、知ってた。医療ポッドで治療されたんだし、その治療ポッドが健康と判断したなら、その健康な姿が表示される。
先生達も俺は健康と言うし、過去データは既に消えてしまって、これから先治療を受けても今の姿で完治とされるだろうし、整形手術するにしてもかなり厳しい審査を受ける。流石に耳を取るのとホクロ取るのは違うしなぁ・・・。
そもそも耳の穴が目尻の延長線上にないから頭の耳と言うか耳たぶ?を取られると雨降りには水が入るし、音は聞こえづらいしといい事がない。その時点で整形手術申請しても弾かれるだろうし、まともな医者なら拒否する。
「う〜ん・・・、獣人って国的には本当にOKなんですかねぇ?ガッツリと耳と尻尾があるんどすけど。」
「AIによる判定なので私達もそこまでは分かりません。ただ、個人データとして登録されているなら有りなんでしょう。それとこの用紙・・・、っ!」
「どうしました?」
「どうやら紙で指を切った様です。」
「えっ?結構痛いやつですよね。ナノテープでさっさと治療した方がいいですよ?」
「生憎ナノテープは持ち合わせていないので・・・、大麻を持って1発ヒールして下さい。」
「・・・、はい?」
「今朝ヒールを使っていたと聞きました。ささ、私にヒールを。」
「ちょっと待って下さい先生。あくまでお遊びですよ?ヒールなんて魔法はゲームの中だけ。現実的にはナノテープやらで治療した方が・・・。」
「いえいえ、モノは試しです。マリちゃんが光ったと言う事は何らかの形でナノマシンに干渉したとも考えられます。大麻を持って1発どうぞ。必要でしたらポージングも振り付けも歌も歌っていいですよ?」
「余計恥ずかしい!」
「大丈夫です、ここには私とマリちゃんしかいません。何も恥ずかしがらないで。うっ、指が!」
「そんな死にそうな声出してますけど少し紙で指を切っただけですからね?確かノコギリみたいな切り口になってズキズキ傷むとは聞いてますけど。」
「ヒールしてくれたら顔出し配信を許可しますよ?」
「わざわざ顔出ししたいわけじゃないんですけどねぇ・・・。」
「ハロウィンコスプレと言う話で許可するのであって、平時では今回顔出ししていなければ許可は出せませんが?その場合、来年のハロウィンまではほぼ缶詰だと思って下さい。主治医としてそう判断します。私を仲間だと思ってささ。」
「脅しか!分かりましたよ・・・、ヒール。」
大麻を持ってヒールと唱える。慣れ親しんだ回復魔法でハイヒールやらエリアルヒールやらと、色々あるけど結局使うのはヒール。なにせコスパがいい。亜人は魔法攻撃と物理攻撃が一番よく伸びて、魔法系はその値を参照するものだから回復力は高いし、魔法ループしている時も援護として飛ばしやすいから選択肢に入る。
そんな事を思っていると大麻の先が伸びた。えっ?確かにこの大麻って背中掻いたり消えたりフリーダムだけど、俺の指示に従ってくれるの?なら櫛とかにも変わる?今朝届いたブラシはちょっと硬いんだよねぇ〜。
「コレは・・・、どうなんですか?」
「さぁ?ただ腹は減りましたよ?あっ、引っ込んだ。って、指が・・・。」
「治りましたね?」
「治ったのかもしれませんね・・・。」
紙で切れて血が滲んでいた指に傷跡はなく血の後もない。そっかぁ〜、魔法使えちゃったかぁ〜って、ばか!いくらなんでも唐突すぎる!えっ?なに?死にかけて復活したら魔力とか貰えるの?そんな話聞いた事もないんだけど!?
「ふむ・・・、痛みもなく指を触った感じ傷口もない。ナノテープで治療した場合、完治には数秒と言った怪我でしたが自然治癒なら癒着まで数時間はかかる。なるほど、興味深い。」




