32話 反応はそこそこ? 挿絵あり
昨日は昼から編集しつつ動画を本当にネットへアップしてみた。コンテンツ力も知名度間ないので撮り溜めた動画を放出して少しでも目に留まる様にと考えたけど、再生数は雀の涙程度。まぁその雀の涙が大事だし、何よりいきなりバズるなんて事があったら逆に大変かな?
多数に見てもらうのも確かに大事だけど、必要なのは幅広い世代に認知してもらう事で、いきなり売れっ子になると姿見せろコールも来るだろうし、なんで売れたかを分析しないといけなくなる。と、言うか上げた動画がバズったら逆に怖い。
なにせ特別な事はしてないし、スーパープレーをしているわけでもないしねぇ。そう考えると顔出しやら姿見せが1番客引きにはいいんだろうけど、それは本当に最終手段であり現状は出来ない事かな?まぁ、顔出しくらいはそのうちするんだろうけどさ。
「おはようございますマリちゃん。今日の朝ご飯は純和風な和食です。量的には多少少ないかもですけど、足りないなら言って下さいね。さて、昨日は動画を本格的にアップしましたけど再生数はどんな感じです?」
「おはようございます敷田さん。ゼロではないですけど、こんなものかな?って感じですね。分母も分子も多い配信界隈で再生数がゼロじゃないならそこそこいいのかなと。」
「あ〜・・・、勘違いしてるかもしれませんけど再生数よりも登録数が大事で、その登録数が再生数の3%でもあれば成功ですよ?」
「登録数ですか?確か・・・、11人ですね。総再生数から考えると3%もないなぁ。」
そんな話をしながら敷田さんにデータを送る。11人はゲーム内のフレやら敷田さんに三枝先生なんかで、本当に全く知らない人の名はない。一応、配信管理者としてゲーム会社が提携と言うか、いくつかの配信サービスプラットフォームにまとめて投稿してくれてるんだけどなぁ・・・。
「初回配信で一気に何本か上げてしまったから、プラットフォーム別に視聴者が分散してしまったのかもしれませんね。ただ再生数自体があるならこれからでしょう。多分、昨日見た視聴者はマリちゃんが失踪しないかどうかを見極めてる段階なのかもです。」
「失踪って言うとアレですか?急に何の話もなく配信辞めるとかの?」
「それですよ、それ。私も配信動画は色々見ますけど楽しそうに配信してた人が急にパッタリと動画上げなくなって、そのまま失踪と言うか引退してしまったり・・・。ストックやら更新頻度は配信してる方次第ですけど、1つ言えるのは視聴者はとてもワガママなんです。現実で何かやる系は準備や企画立ち上げで時間食ったと納得出来ますけど、今のマリちゃんの配信方式だとゲーム、アテレコ、編集して配信なので準備と言うものが不要と言うか、ネタさえあれば毎日配信出来るだろうって思われますね。」
「なるほど・・・、確かに編集もアテレコもスマホがあればかなり簡単に出来ますもんね。動画の撮影と言うか、ゲーム配信だから基本的には編集っていらない部分をトリミングしたりするだけですし。」
「ええ。それにやってるゲーム的にも時間経過でどうこうするゲームじゃなくて、リアルタイムで進むゲームだから視聴者的には、遊んで切り良ければ辞めて編集して配信してるって考える人もいるんですよね。偉大な先駆者の中には毎日とか、1日置きとかの人もいますし。」
「その頻度はかなりキツイですね。そもそもそんなにネタがない。寧ろ私が上げた動画ってほぼ日常的なものですよ?」
「そうなんですけど・・・、マリちゃん的には今のままでもいいと思いますよ?完全に配信者として仕事をするなら登録者数も再生数も気を使わないといけないですけど、現段階だとウチに出向して来た他会社の社員さんで、私達としては医者と被検体として共に医学的な不備を究明するパートナーですからね。お給料や手当も出てますし、何より慰謝料も相当なんじゃないですか?」
「お給料はまぁ・・・。」
確かに元の会社からお給料は振り込まれたし東亜メディカル技研からはまだだけど、振り込みがある事を示す欄が増えている。昨日編集中に弁護士先生からも事故の慰謝料に付いての書類やら概算の数字が書かれたデータも来てたな。
払うのは事故を起こした本人と言うか保険会社だけど、対人対物無制限で契約していた様で支払いそのモノに支障はないらしい。ただ、裁判そのモノが始まっていないのでその結果がどうなるやら。まぁ東亜メディカル技研が選定した弁護士って事は、事故や医療系を専門にやってる人なんだろうし大丈夫だろう。
「ずっと働いていたなら有給バカンスだと思ってゆっくりして下さい。と、言うかマリちゃんは仕事命な人でした?」
「それはないですけど、大学出てずっと仕事してたから不意にその時間が開くと暇なんですよね。外に出ていいなら旅行とかも考えますけど、流石に動画上げた!認知度上がった!そうだ京都、行こう・・・。でもないでしょう?」
「なんでまた京都・・・、伏見稲荷ですか?」
「昔のCMのキャッチコピーですよ。それに行くなら祐徳稲荷かな?なんでも日本三大稲荷神社の1つらしいですし。」
「マリちゃんが本格的に狐巫女になろうと修行を・・・。」
「普通この姿だと崇められる方じゃありません?九尾の狐を越えて10本ですよ?尻尾。なんでも狐の妖怪的には尻尾の多さは力の象徴やら強い魔力の証しらしいですからね。」
「なら大妖怪で調伏対処ですね。陰陽師とかいたらどうします?」
「そりゃぁ・・・『よさぬか晴明!ワシは玉藻の前と違う!』って叫ぶとか?なんにしても今更陰陽師出て来ても占い師とか霊感商法してる人としか・・・。」
未だに占い師はいるしニュースバラエティーなんかで今日の1位は射手座の貴方!と言われたらラッキーアイテムは気になる。今のラッキーアイテムってなんだろう?大麻かな?フリフリしても手に馴染むカッコ良さげな棒だしって、子供か!
「私は占い好きですけどね。と、今日も撮影するなら頭から目の辺りまでの露出で収めて下さい。そう言えばLIVE配信は特にやめろとは言いませんけど、下手するとそれが楽だからってそればかりやる事になりますよ?」
「そんなに楽なもんなんでんすか?LIVE配信って。」
「アバターとワイプが有れば後はゲーム背景を使って座ったまま対談とかでもいいですからね。要はラジオパーソナリティーをしながら視聴者とお喋りする様なものです。人見知りとかがあるならハードルは爆上がりですけど、それがないなら視聴者はマリちゃん目当で来るから質問に答えるだけでもOK的な?」
「ラジオは聞かないから分からないですけど、なんとなく転校初日的なイメージですね。」
「まぁ、そんなイメージで丈夫です。昼から検査があるかもしれませんけど、それまではゆっくりしておいて下さい。では!」
敷田さんは朝ご飯を置いて出て行ったけどネタかぁ〜。基本ソロだし行動範囲も現実では病室内とそもそもネタがない。と、言うか外を出歩く為に配信しているのであって面白い人に成ろうとはしてないのよね・・・。
そう考えると多少は気が楽かな?切羽詰まった感じに絶対売れる!何がなんでも売れる!バンバン配信して楽しんで貰って売れっ子になる!なんて事ではなくて日常的なモノを見てもらった方がいい?
「そもそもキャラ付けとかする前に配信しちゃったし、今更キャラ付けしても・・・。いや、キャラ付けか。そういう人と見てもらうなら相手にキャラ付けしてもらった方がいいのかも。俺は俺だけど、それを代えずに無理なくやるならそれしかないかなぁ・・・。」
アバターとしてのツキ=現実としての俺。容姿は完コピと言うかそのままだから、変に性格やらキャラ付けを自分ですると本物は違うと言われそう。まぁ、俳優なんかはそれでいいんだろうけど俺の場合はちと違う。なら素の自分で日常配信して、外を出歩いた時も『あっ!ツキだ。』と言ってもらった方がいい。と、言うかそれが成功?
「なんにしても配信材料を集めるか。」
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「マリちゃんはどうでした?」
「普通と言えば普通ですね。配信してネットに動画が上がったと言う気負いもなければ、これからどうしようか?って言う迷走もないみたいです。やっぱりお金あると心に余裕も出た来るんですかね?」
「出るでしょう。野山に放り出されて食うも寝るも困るのなら神経は張り、精神は摩耗していきますが衣食住揃って給料も振り込まれている。それは現代人にとって普通の生活を送り、生活基盤が確かにあると思わせます。」
人とは現金なもので大量に料理を注文しても満腹なら残す。それがあと一口なのか半分なのかは別として。しかし、1度本当に飢餓や極限状態を味わえば残すと言う選択肢は取りづらくなり、場合によっては持ち帰りや備蓄を考える。
マリちゃんの場合、生きているとは分かっていても外には出られず、自身の日常と強制的に切り離されそこへ戻る術も失った。本人が書いた企画書的なモノはどれを読んでも誰かと関わりを持つ様な物が多い。
そこへ給料と言う・・・、人が生活する上で必要なモノが目に見える数字として現れたなら、本人が本人として何かをしていると感じ取れる事だろう。
「再生数やチャンネル登録者数は少ないですけど、それもマリちゃんの支えとして一役買ってるのかもしれませんね。専念すれば変な事もしないでしょうし。ただ、のめり込んで早く顔出したいとかは言うかも。」
「顔出しですか・・・、ハロウィンは明後日でしたよね?」
「そうですけど何かありました?」
「いえ。嘘を付くならエイプリルフール、コスプレするならハロウィンでしょう?夏と冬の祭典もありますが、それは現地だから許されるものであってマリちゃんに外出許可を出すにしても、参加させるにはまだ早い。それなら、そこを狙って姿出しまで済ませれば本人の憂いもかなり緩和されると。」
「確かにそこを逃すと姿を見せた時になんでコスプレ?と言う疑問符も付きまといますからね・・・。そうなるとハロウィンで姿出し解禁?」
「年一度のチャンスを活かすならそうなるでしょう。幸い登録者数も視聴者数も少ないなら、口コミで広まろうと本人が姿を出さないと言えば済む話です。それこそ、ハロウィンの時にしか姿を出さないと言えば免罪符にもキャラ付けとしてもしやすい。」
「外を出歩く為の布石ですね。しかし、病室での撮影だとここがバレません?」
「だからこそハロウィンの飾り付けをする。本人がリハビリを公言しているので病室にいる違和感はないですし、ここだとバレる様なモノは飾り付けをして隠してしまえばいい。そして、敷田さんは適当な名前でプロデューサーと名乗る。そうすれば配信者とプロデューサー、それの指示によるコスプレ配信としての面目が立つ。」
「おぉ〜。確かに粗を探そうとしても、それしか見せなければそう言う設定で押し切れますからね。うわぁ〜、名前なんにしよう?」
「普通にピーでは?」
「三枝主任!それじゃ面白くないですよ。と、言ってもツキの方の設定って取り憑かれたくらいしかないですし、管狐名乗るか・・・、宮司として・・・。」
「それなら晴海さんの名前を文字ってハルくんでいいでしょう。声はスマホで変えてしまえばいいですし、敷田さん自体は動画には写り込まない。それに男性プロデューサーがいると思わせておけば一定の効果も見込めます。」
「なら私は本名もじりではなく、安倍晴明からもじったハルくんとでもしましょうか。」
「それがいいならそれで構いません。それよりも昼からの検査ですが、ヒールを試してみようかと思います。」
「回復魔法の?」
「ええ。トラブルオンラインと言うゲームを調べましたが、一般的なファンタジー魔法は全て揃えていると言う印象でした。そして、その中には蘇生魔法もある。仮にマリちゃんの魔法が本当に回復魔法として使えていて、更に嫌ですが白波先生の研究論文を元に他人にも作用する様なら・・・。」
「えっ?人体蘇生?」
「私達は既に雁木 真利と言う人物を蘇生しました。そのノウハウはクラウドにもありますし、何より蘇生されたマリちゃんの心臓は止まらなかった。人を健康な状態にすると言う話でマリちゃんがナノマシンを操作しだせば・・・。」
「止まった心臓も動き出すし、欠損や脳さえ元に戻す?」
「私はその可能性が高いと感じています。私達の身体にはまだナノマシンを生成するデバイスは投与されていませんが、マリちゃんが生還したと言うデータを国は持っている。そして、前回マリちゃんはクラウドからデータを吸収し、クラウド側はマリちゃんが健康であると確証を得た。」
「それってかなりヤバいんじゃ・・・。」
「医院長からバイオナノマシンとデバイスの増産に付いて昨日の昼、私に話がありました。今は経過観察中として増産の件は先送りにしていますがAIによるバイオナノマシンとデバイスの評価はオールSです。」
「それって既存のナノマシンを一新する評価ですよね?でも、その評価か本当かは・・・。」
「分かりません。他の方に同じ様に投薬した場合、同じ様に治療を行うのか?それともゲームデータと言う、現実に近くても架空のモノを前提としたから成果が出たのか?判断したくても判断するだけの被検体も何もかもいません。」




