26話 ダンジョンへ
「領地戦に参加するとして、ユニット増産しても間に合わないし取り敢えず練兵か。」
本気で領地防衛戦が好きな人は領地防衛戦が終わった時に、次の領地防衛戦へ向けて準備をする。それはもう、勝てる勝てないではなく自軍の数字が上がっていくのが楽しいとか、理路騒然と並んだユニットを見るのが好きだとか色々ある。
それを一騎打ち仕掛けて薙ぎ倒す人もいるし、疲弊した領地に奇襲仕掛けて根こそぎ強奪する人もいる。ただこのイベントが毎月あると言う事は人気コンテンツでもあるのだろう。
現在の兵力で言えば飛行ユニットが20、歩兵が38、バリスタが3文のビーム砲に守備ガーダーゴーレム。特攻ゴーレムを20追加するのはどうにか間に合いそうだけど、燃料になる備蓄の野菜がやはり少ない。今回は資材抜き取って空領地戦法で参加賞だけ貰おうか・・・。
社会人なんかの貼り付けない人は参加賞狙いでユニットも野菜も1にしてしまい、さっさと蹂躙されて他の事をする人も多い。3日待てば金塊が貰えるし、被害を考えると最小被害で課金ガチャが引けると言う、ベテランから初心者まで幅広くやる戦法の1つである。
コレがチームなら役割分担やら時間分担も出来るんだろうけど、急な仕事で不在にったり家族サービスで引っ張られたりと、運営も参加しやすい様に週末に設定してくれてるけど中々上手くいかないのが現実なのよね・・・。寧ろ社会人の週末って平日よりも仕事次第では忙しいかも。
「一旦練兵とユニット増産と野菜に肥料蒔いてから考えるか。開催予定は週末でもう少し時間があるし。」
サブスクプランで課金すればオートで生産管理してくれるけど、そこに課金するくらいなら自分で操作するかな?高級肥料やらも付いてきてお得と言えばお得なんだろうけどさ。必要なのはプレー時間でバクや一時的なLUCKじゃない。
ガチャならLUCKは欲しいけど、配信して多数がプレーするゲームでひたくらバクとLUCKで解決されたら上位プレーヤーは間違いなく辞める。初期ならいいよ、うん。でもリアルマネーと時間を注ぎ込んで育ててるキャラクターがそれに負けたらどうだろう?
負け方も色々あるけど、PVPで負けた。それはまだプレーヤースキルが相手に負けたと納得出来るけど、そこに例えば20近いレベル差があれば炎上ものだ。ゲームはゲームで数値が可視化されてるからこそ、埋められるレベル差もやり込んだ時間差も出て来るし、相性が悪いからと一方的に負けたらそれはバランスブレーカーと言うか、強くなろうとプレーしている顧客を蔑ろにして青田買いで続けるかも分からないプレーヤーを優遇していると見られる。
はっきり言ってしまえばリハビリに重点を置いたVRMMOでも、続けて貰ったり収益を上げるには課金やらコマーシャルなんかのスポンサーは必須だし、無課金で出来るゲームには課金していいと思わせるだけの魅力がいる。
トラブルオンラインの場合、それが一定の不自由であり、今俺が足りないと言っている領地戦での資源枯渇やら新武器追加のガチャとか?まぁ、微課金には痛くないけどガチ勢なら初日に覚醒させて使ってみてから評価するとか、運営側が数日間のお試し使用期間を設けるというのも分かる。
そんな事を思いつつ領地を出て街へ。朝イチログインなので人はまばらでNPCの方が多いし、家の煙突からは煙が上がっている。
「フレは全員入ってないし、ちょっと遠征して種と肥料の材料でも集めるか。」
ポータルまで行き街の名前一覧を見つつ考える。基本的にポータルがあるのは中から大都市で、小さな街や何々の隠れ家なんかにポータルはない。個人用ポータルなんかも売ってるけど、そこそこ値は張るし何よりフィールドボスが小さな街なんかは壊して回っていると言う設定もあるので、アプデやら襲撃やらでなくなったりするのよね・・・。
「行き先は・・・、森林帝国ジャイロでいいか。あそこなら採取するにしても買うにしても植物系は揃いやすいし、肥料になる骨も集めやすい。」
ポータルを使ってジャイロへひとっ飛び。オーランドが和洋折衷な街だとするならジャイロは部族的な街とか?いるのはエルフなんかの神族やら亜人が多い。まぁ、人と亜人NPCはどこにでもいるからあんまり関係ないかな?
一応、何族が多い街と言うのはあるけど、単純にその系統のNPCが多いという話で種族差別はない。あるのは貢献度に寄るNPCの対応変化とか?貢献度=NPCからの信用度なので、あんまり低いと発生クエストが引けなかったり、かなり話し込まないと依頼してもらえなかったりと様々。
デイリーはマスト!貢献度も上がるし無料ガチャも引ける。最悪ウィークリークエストは逃してもデイリーは簡単な物が多いからやった方がいい。
「いつ来ても変わった街だよなぁ〜。」
街のど真ん中にはマヤ風の神殿があり、そこが領地の家と言うなの総合施設。周りのフィールドが森林なのでか街の中にも大木が生えていたり木の根が隆起して歩きづらかったりする。そして何より、見上げると街の空には2個のデカい球体が街の周りを回っている。
有志と言うか初期の開拓プレーヤー達はあそこにもダンジョンがあると言って、どうにか辿り着こうとしていたが辿り着けず、1周年イベンた辺りでようやくマップ解禁となったんだったかな?
「採取するにしてもダンジョンとフィールドどっちにするかなぁ〜・・・。フィールドだと次々モンスターが出てくるけど逃げやすい。逆に洞窟なんかのダンジョンだと強いモンスターは多いけど、フィールドよりは連続して湧きづらい・・・。よし、ダンジョンにしよう。と、その前に・・・。」
神殿に向かって大麻をフリフリしつつ要請掲示板を見る。フレが少ない時や、助っ人を依頼したい人は幾らかのお金やアイテムを提示して野良パーティーを組む事がある。時間帯的には多分そういった人がいるはず!
「海外の人は今がゴールデンタイムかな?翻訳してくれるおかげで何書いてるか分かるけど、サポートメインの日本人を欲しがってるのが多いなぁ〜。他には決闘要請?勝てば賞金ってコロシアム出やった方がいい様な・・・。おっ、4人パーティーか。要請人数は1人Lv180以上で行き先は神秘洞窟か。」
3000ゴールド提示で撮影OK、アイテムの使用は任意で役割は遊撃希望。パーティーは神族で固まってるけどレベルも低くないし後はパーティーの雰囲気かな。一期一会だとしてもやるなら楽しかやらないとね。要請を受諾して待ち合わせ場所へ。
「眠い・・・。」
「領地戦向け周回キツイ・・・、しかし物資が!あーちゃん寝るな!」
「前回大損こいたしね・・・。なんでゲームでまで農業してるのかと・・・。ほのか兄さんや、あたしゃ疲れたよ。」
「そうはいってもなあ〜、。嬉野がシモン説得しろよ。俺はあーちゃん起こすので忙しい。」
「言うな。我々No民は大地と共に生き、森と共に暮らし、肥やしに帰る定め。運営の売る高級肥料より自前肥料が優れていると知らしめる為に!」
「いや、シモンそれ数値で決まってるから・・・。サブスク解禁の方が多分更に優れてるよ?」
「そうそう、手動でタイマー設置して狩り入れやらするよりもサブスク使って自動化農法を・・・。普段忙しいからゲームでくらい楽しない?って、あーちゃん寝るな!寝落ちするな!」
「寝ますた・・・、起こすには周回パーティーから外すか、助っ人が今すぐ現れる事を願って下さい。残り10秒・・・。」
「シモン、あーちゃんが寝る!」
「ほのか、そいつ起こせ!要請は受諾されてる!」
「あの〜、助っ人要請したNo民のメンバーさん達でいいですよね?」
エルフ4人で漫才?でもしているのか、1人は肩を持って揺さぶられ、1人はしゃがみ込んで飯を食い、残る1人は起こせと叫びつつインベントリを見ている様だ。う〜む・・・、取り込み中なら他を当たるかな?
「おっ?助っ人さん?」
「ええ。受諾したツキです。大丈夫ですか?」
「助かった!俺はシモン番号は割愛させてもらうが、神秘洞窟攻略を手伝ってもらいたい。」
「いいですけど、取り込み中なんじゃ・・・。」
「あぁ、気にしなくていい。領地防衛戦のお知らせが来て寝ずに周回してただけだ。本当ならもう1人いてソイツが周回メンバーだったんだが、用事で抜けてしまってな。」
「あ〜、用事なら仕方ありませんね。それで、すぐに出発します?」
「最後の周回予定で多少買い足しがいるんだが・・・、あーちゃん起きてるか?寝る前の時間には助っ人が来たぞ。」
「そのフヨフヨ動く尻尾って催眠術のコイン的なものだよね・・・?あぁ〜・・・、尻尾が10本見える・・・。」
「ちゃん10本あるから大丈夫ですよあーちゃんさん。」
「あーちゃんでいいぞ。俺はリーダーのシモンであーちゃんの横にいるのが佐賀ほのか、座って飯食ってるのが嬉野だ。」
「がばよほ〜。データでも食ってる感あるのはダイエットにいいよね。」
「がばよほ?」
「気にしなくていいよツキさん。俺達佐賀県出身で、がばはがばいの略。意味的にはすごくよろしくとかです。改めて、佐賀ほのかです。面倒なら佐賀かほのか呼びで。」
「なら佐賀で。私も呼び捨てでいいですからね。」
「さてと、若干あーちゃんが怪しいが自己紹介はこんなもんだろう。要請内容通り撮影ば自由でいいが、ツキさんのLvは?」
「250の見ての通り亜人です。プレースタイル的にはオールラウンダーで、あんまり魔法持ってないですけど補助や回復も出来ますよ。」
「それは助かる。俺達は見ての通りエルフで前衛的なスキルやアーツはあんまり取ってないんだ。」
「単純にシモンの秘伝書の引きが悪いからだろ?」
「お前が言うなほのか。お前だってこの前発生クエストで出た秘伝書は魔法被りだっただろう?」
「まぁまぁお二人さん、本当にあーちゃんが寝そうだから早く行こう。」
「あぁ〜、この尻尾枕に欲しい・・・。見てるだけなのは辛い、ツキ触っていい?」
「了承しますけど触ったら寝ません?結構これってふかふかですよ。」
あーちゃんと嬉野が女性アバターで佐賀とシモンが男性アバター。それぞれスラッとしたオーソドックスなエルフだけど、ピアスやらで個性を出している。武器は杖とか銃かかな?サクラさんも弓使ってたけど、やはりエルフには弓が合う。
銃系統で弓は両手持ち武器に分類され、矢を番える必要はないもののマシンガンなんかよりも連射性は低く、その代わりに静かでクリティカルが出やすいと言う特性がある。接近されたら矢で刺したり弓で殴ったりも出来るけど、威力はお察しと言う他ない。まぁ、弓アーツは多彩だからそこでバランス取ってるのかな?
「寝る・・・、この優しさに包まれて私は夢の世界へ・・・。」
「あーちゃん買い出し行って来い。ポーションやらが足りない。それとツキさん、パーティー申請送ったら承諾頼む。モンスターモンスターはパーティー回収となるが、なにか優先して欲しいものはあるか?」
「離れたくないけど行ってくる、ほのか行こ〜。」
「はいはい。」
「了承しました。欲しい物は多分被ってるから均等分配でいいですよ。私も骨やら種やら狙いでしたからね。あっ!でもボスから出る妖精の髪飾り出たら貰っていいですか?その場合骨やら種を3割減にしていいので。」
「妖精の髪飾りか・・・、嬉野、誰かウチに集めてるやついたか?」
「いんや?中々出ないし集めてる奴はいなかったよ。それに、どうせ来月もここ周回するから出たらその話であげちゃいなよ。」
「それもそうだな。ツキの話を飲もう。」
パーティー申請が来たので承諾っと。リーダーはシモンさんで間違いなかったな。後はそれぞれの名前とHPバーなんかが表示される。回復魔法とポーションどっちが凄いのかと言えば甲乙付け難い。最初はポーションすげーと思う。固定回復で握り潰しても飲んでも、とにかく使えば規定量回復するし速攻性もある。ただ、使えば使うだけ金が減る。
逆に回復魔法は武器の性能やアバターの能力に左右されるので、ただのヒールでポーションを超える事もあれば、すっぴんだとハイヒールがポーションと同等と言う事も・・・。それに攻撃にMP回しだすと急な補助や回復は結構鬼門になる。
なんにしてもプレーヤー側のキャラクター構築とスキルやアーツの揃い方によって変わってくるよのね。俺みたいに高速回復に頼って魔法連発しつつ走り回る人もいれば、ハヤトさんみたいに格闘全振りな人もいるし。
「買ってきたよ〜。パーティー共有アイテム欄にポーションとかはセットした。」
「よし、なら行こうか。」




