25話 焦ったかな? 挿絵あり
割とすんなり寝れて快適な朝の目覚め。相変わらずうつ伏せでと言うか、猫みたいに縮こまって寝ているけど、それはそれで快適だし尻尾が温いのでよく眠れる。引っ越しと言うか住んでた部屋の解約は中身の整理がついてからだけど、今月中には終わる。そう言えば住所何処に移そう?
実家に移すと面倒だし1度先生達と話してみるかな。住み込みと言う形ならこの病院に移してしまっていいし。こう言う時持ち物が少ないと言うのは楽でいいな。それに、別れちゃったけど彼女とか居たら説明に苦労する。
今でも面会どうしようとか悩むし、両親や川端さんからの大丈夫かコールには文章で返すのが限界で、姿を見せると言うところまでは行き着いてないのよね・・・。
昨日現れた大麻は消えてないけど、また消えて騒がれるのも面倒なので手に持ち洗面所へ。歯を磨きつつ・・・、長めの犬歯って丁寧に磨いて顔を洗い、長くなった髪に櫛を入れる。おぉ〜、髪質がいいのか引っかからずにスルスル入る。
・・・、一応尻尾にも櫛いれる?いや、ブラシの方がいいのか?毛皮ってそれ用のブラシを使って手入れしたはずだけど、そもそもこの毛って髪と一緒なのか違うのか悩む。取り敢えずベッドに戻って尻尾を1つ片手で持ってモフモフ。尻尾の形のキーフォルダーよりも柔らかい。なんにしてももう1本櫛はいるな。
「マリちゃんいい朝ですけど、お腹は空いてますか〜?腹ペコでビーストモードになってませんか〜?」
「大丈夫ですよ〜って、鎮静剤構えながらお弁当持って来るのはどうなんですかね?」
「麻酔銃の方が良かったですか?」
「院内で銃声したら問題ですよ。お腹は普通くらい空いてますね。」
「ならこれどうぞ。朝から重くない様に茹でたササミなんかを中心とした献立です。」
そう言って並べられた朝食は結構ボリューミー。食べ切れないなら残そうかな。ただ、昨日の食べた量を考えると多分食べ切れる。
「そう言えば敷田さん、私って何時まで缶詰めなんですかね?住んでた部屋の解約とかはネットで手続き出来るんですけど、どうしても来て欲しいとか言われたら・・・。」
「外出したいと?う〜ん・・・、確かにマリちゃんは健康体で外出を拒否する理由はその姿だけなんですけど、その姿が最大のネックと言うか・・・。」
「それはまぁ、重々承知してますよ。なので私としても考えてみました。」
「ほう!どんな案です?」
「先ずはハロウィンが近いのでコスプレで押し通す。これはその日限定ですけどハードルは低いですね。」
「当日だけの外出なら私が三枝先生に予定がなければ可能ですけど、逆にマリちゃん1人での外出だと何があるか分からないので許可は出しづらいですね。仮に出先で倒れて運ばれるなんて話があると一気に話が広まりますし。」
「やっぱりですか。では次に着ぐるみ作戦はどうです?」
「着ぐるみって遊園地なんかの?」
「ええ。全身を着ぐるみで隠してしまえば大凡の問題は解決するでしょう?本人確認は既に生体データとして今の姿が登録されてますし、胴回りの太いキャラクターの着ぐるみなら尻尾も邪魔にならない。それにほら・・・。」
朝食を食べつつ尻尾を動かして見せる。肩に掛けたりお腹に回してみたりと結構自由に動いて自前の毛皮のコート感覚。肌に当たるものだしいいトリートメントとか買おうかな?ゴワゴワした尻尾が頬に当たると痒くなりそうだし。
「そこは一旦主任と相談してみましょうか。と、言うか体力ってどんな感じです?」
「さぁ〜・・・。学生の頃に何か運動してたわけでもないですし、社会人になってからスポーツに目覚めわけでもないないですからね。一般人程度の体力はあると思いますけど。」
「それだと着ぐるみはキツイかもしれないですね。大分涼しくなって来ましたけど着ぐるみの中は暑いし、想像しづらいかも知れないですけど剣道の防具付けて動いてる様なものですよ?」
「むむむ・・・。」
確かに尻尾がある分着ぐるみの中は熱くなる。試す前から諦めるのはよくないけど、流石に絶対に大分と見栄を張れるほど体力があるかも分からない。柔軟はいいんだけどなぁ~。立ったまま地面に両手の掌がつくし。
「しかしそれならどうやって体力のあるなしを見分けます?流石にこの病室で走り回るのはダメでしょうし、スクワットやらの筋トレをして見せても納得はしないでしょう?」
「その前にマリちゃんはどうしてそんなに外へ?言い方は悪いですけど、ここにいれば衣食住も保証されるしお給料も出ます。多少の窮屈に目を瞑れば悠々自適な隠居生活ですよ?」
「そこですよ、そこ!確かに不自由のない生活はしてますけど、それは何れ終りが来る。その終わりが来てもどうにかこうにか生きていかなきゃならないんです。それを考えると早めに外に出て出来る事を探しておきたい。流石に私が拾って下さいって書かれたダンボールに入って人待ちしてたら嫌でしょう?」
「えっ!?連れ帰って飼っていいんですか!?それなら私じゃなくても世の男性歓喜ですよ!」
「敷田さんの願望は聞かなかった事にして、愛玩動物やらモルモットじゃないって感じるなら外を出歩くに限ると思いません?」
被検体である事に忌避感はないけど、それでも先を考えるとどうも・・・。在宅ワーク専門で仕事を探すにしても面接には顔を出さないといけないし、リモートで面接するにしても狐耳を付けたと言うか狐耳生やして面接に望めば落とされる。回避するなら顔面ドアップとか?
色々とネットで出来る事は多いけど、それでも外に出て・・・。いや、多分存在証明がしたいのかな?事故に合ってそれでも生きてて、元気にやっていると言う証明が。
「なるほど・・・、心理的なモノも加味して主任と話してみましょう。マリちゃんは目覚めてまだ1週間も経ってないんです。では、朗報待っといて下さい!」
敷田さんは出て行き自分が焦っていいたと気づく。確かに目覚めて1週間も経ってないし、これからばかり考えてしまって足元がとざなりだったなぁ〜。配信の方は取り敢えずやるとして、外に出るのはもう少し様子見てからがいいかも。でも、朗報って何か敷田さんに策でもあるのだろうか?
________________________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「三枝主任ちょっと・・・。」
「どうしました敷田さん、またマリちゃんがビーストにでもなっていましたか?それなら食事量を・・・。」
「違いますよ。心的ストレスと言うかマリちゃん本人が外に出たがってるんですよ。」
「それは・・・、確かに問題ですね。流石に我思う、ゆえに我ありでは納得しないでしょうし。」
「ええ。特に今の人はその我の部分が希薄ですからね。人との繋がり自体は多いんでしょうけど、それもVRだったりしますからね。その中で我がどれかと言われると迷う人は多いですよ。なにせ、現実でなくてバーチャルなら好きな自分が好きな様に動きまさから。」
「しかし、その自己が揺らぐのも問題ですね。寝て起きて別人になって周りも国も認めるのに、その中に我がない。流石に身体と精神が乖離し出せば変調をきたしますね。」
「ええ。精神疾患もないから過去のパーソナルデータがあるわけでもないですし、今のマリちゃんが元の真利と言う人物と同じ精神状態なのかも私には分かりません。もしかしたら、ゲーム中のツキと言うアバターをそのまま演じているのかも・・・。」
「マリちゃんがツキを演じているなら、それはマリちゃんで間違いありませんよ。鶏と卵の話で言うならマリちゃんは鶏でツキは卵です。そして、鶏が卵を演じたとしてもそこには鶏の意志がある。少なくともマリちゃんはゲームとは言え、人との関わりを絶とうともせずにフレンドを増やしたり、フレンドを呼んでも遊んでいます。今のマリちゃんの行動はどちらかと言えば自己の確立に近いのではないですか?」
「ふむ・・・、大多数に認識されているから自己があると言う話ですね。まぁ、観測していた自己が丸っと変わっちゃいましたからねぇ。それで、外に出たいって話はどうします?本人は着ぐるみとかハロウィンならって言ってましたけど。」
「それは何処まで奇異の目に晒される覚悟があるのでしょう?1度の外出なら、そこまで話題になるとも考えづらいですが、平時の日常でマリちゃんが外出すればある程度人の目を引く。」
「だからハロウィンと着ぐるみだったんでしょうね。と、言うか普通に美少女だからガッツリ人目を引きますよ?」
「ある意味電子の妖精が現実に現れた様なものですからね。全身整形と言う高いハードルを越えても、その美しさを維持するのは難しい。なにせ人の細胞は1ヶ月もあれば総入れ替えされてしまいます。ただ、外に出さないと言うのもマズイ。ちょっと上に掛け合ってみましょう。」
________________________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
特に検査の予定も聞かされてないからネットで選んだ業者に部屋の事を依頼。メッセージを三枝先生に送ると長期療養の人なんかは一時的に病院に住所を移す人もいるそうなので、すんなりと許可が出た。ネットで櫛やら日用品を買いつつ、フロムさんに現実基準と言ったのでコスプレっぽい巫女服も注文しておく。
尻尾や耳が違うとは言え、身長体重スリーサイズは分かるから服選びに難儀しなくて済む。しかし袴かぁ〜。ゲームでしか履いた事ないけどスカートじゃなくてズボンだから、これからズボン履きたくなったら全部袴かな?ジーパンやらスラックスと違ってピッチリしてないから尻尾分の余裕がありそうだし。
「もしかして・・・、袴って本当に尻尾のある人向けの民族衣装だった?ってバカ。そんなわけはないと思うけど、ならなんで袴ってあんなに余裕があって広がるんだろ?」
そんな事を考えつつやる事も終わったのでゲームにログイン。デイリーをこなしつつパン屋に報告に行って金塊と秘伝書ゲット。今回のシナリオは当たりかな?でも、秘伝書が銃系統だから死蔵コース。
運営からのお知らせに目を通すと領地戦のお知らせが来ている。参加するにしても今までガチでやってなかったしどうしようかな?個人勢として流す程度だと動画として面白くないし、かと言って単騎でどうにかなるとも考えづらい。
アク抜きと言うわけじゃないけど、強豪プレーヤーが抜けるのは4月なんかの新生活が始まる時だし、今時期になるとある程度上も固まってくる。まぁ、固まったからと言ってどうにかならない事もないのがこのゲームなんだけどさ・・・。




