22話 コイツ、動くぞ!
「マリちゃん終了ですよ〜。」
『ようやくですが、なにか分かりました?』
溶液が排出されて蓋が開く中、片手でゴーグルとマスクを外し反対の手を見るとやはり大麻がある。最初と違って色付いたと言うか木目っぽくなっている。しかし、コレが俺の背中を掻いてくれたと。取り敢えず1度振ってみるけど結構しっくり来る。
でも邪魔と言えば邪魔かな?いつも棒を持ち歩いている人なんて多分いない。コレがゴルフ場のキャディーさんならゴルフクラブを持ち歩いてるんだろうけど、生憎とゴルフはした事ないし野球なんかも大人になってからはやってない。そんな事を考えていると敷田さんがバスタオルを差し出しながら元気よく声を上げた。
「身長体重、血圧にスリーサイズ!」
「それは知れて良かったと言うか、なんと言うか・・・。因みにお胸は?」
「Bカップですね。大きい方が良かったですか?お尻も安産型ですよ!」
「いやぁ〜、合ってもなくても?あと、人の子など孕みとうない。」
「ちょっとそこ!何の話をしているんですか?人の価値は胸や尻で決まるものではないですよ!」
三枝先生が怒ってると言うか睨んでる?先生に対して胸の話は禁句なのかな?スラッとしてるし。と、言ってもあるものは仕方ないし、今日日サラシとか売ってるかも怪しい。前の彼女が下着はいいもの付けないとダメ!とか形が崩れるとか言ってたし、今以上に形が崩れたら狐娘から狐婆にクラスチェンジしそうなので割と重要だと思う。
「まぁまぁ三枝主任、身体データが取れたなら目算で衣類を買わなくていいですし、下着も本人の希望に沿ったものが買えるじゃないですか。マリちゃんは可愛い下着とか欲しいですか?」
バインと擬音が付きそうな勢いで敷田さんが胸を張るけど、可愛い下着は欲しいと言うか脱がしたい。動ける様になったし取り敢えず部屋に帰ったら自分で試してみようかな?
「可愛いかは別として落ち着く下着は欲しいですね。上はスポブラ下はトランクスで陸上スタイルでもいいですけど。いや、ランパンって直穿きだから割と落ち着く?尻尾も裾から垂らせば結構・・・。」
「女子陸上スタイルでローライズなレーシングブルマを大量に買っておきましょう。」
「三枝先生、それは既にただのパンツなのでは?」
「マリちゃん、下着の話をしてたからパンツを買うのは間違いじゃないですよ!陸上のレーシングブルマも直穿きですけど、パンツじゃないから恥ずかしくないわけじゃないですからね!」
「恥ずかしいとか以前に全力で頑張ってる人をそんな目で見るのは人としてちょっと・・・。」
「話は一旦終わりにして病室へ戻りましょう。」
「そう言えば検査衣貰っていいですか?よくよく考えると本当に下着が1着もないもので。」
「新しいのが脱衣所の棚にあるのでそちらを使って下さい。」
脱衣所に入って大麻を置いて着替えるけど、なんかはぐらかされたような気もする。かと言って身体に異常があるわけでもないし、結果を話さないなら多分すぐにどうこうなる事はなかったのだろう。考え込んでも分からない事は分からないし、動く身体があれば今は満足かな?
また頭からシーツを被り三枝先生に手を引かれて廊下を歩いて病室へ。途中で子供と出会したが変に思われなかっただろうか?ハロウィンのコスプレと言う話だから一応うめき声っぽい声を上げて見たが、声が子供っぽくてイマイチ脅しにはならないな。
「帰ってきた〜。と、言っても寝てばかりで身体は訛ってる気も・・・。」
「訛ってる・・・、尻尾や耳はどの程度自分の意思で今は動きますか?」
「耳って動かすのに耳筋とかいるんですかね?」
「今もピコピコ動いてますけど無意識ですか?」
「尻尾は邪魔にならない様にって考えてますけど耳は多分無意識ですかね?よく聞こえると言うかなんと言うか・・・。」
「狐や猫の耳には20以上の筋肉があり、その形状から前方の前方からの音はよく聞こえても後方からの音は集音しづらい。耳が動くのは無意識にでも辺りの様子を探ろうとしているのかもそれませんね。」
「なるほど。」
「因みに今は耳がピンと立って私の方を向いているので、話をよく聞こうとしていると伺えます。」
「えっ!耳で感情丸わかり!?」
「動物としての感情表現は耳や尾が大半ですから、自分である程度制御出来るようになる方がいいですね。試しにその大麻を尻尾で持ってみたらどうです?」
「尻尾・・・、おぉ〜。結構・・・、と言うか凄い動く!」
ゲームの時も動かせたけど、それと同じぐらいよく動く。本当に昔の火星人スタイルでGスタイルでも歩けるかも。何事も練習してみるもんだな。なら、もっと練習したら更に動くのかな?
「器用なものですね。そう言えばマリちゃんが今後に不安を覚えているのはあの企画書の様な物で分かりました。」
「それはまぁ、ずっとここにいるわけにもいかないし、引き籠もって暮らすのもそれはそれでしんどいですからね。先生の言う様にこう言う人として認知されればだいぶマシかなと。」
「姿を出すのはまだ時期尚早ですが、声出し配信から始めてみたらどうですか?」
「いいんですか?」
「暇な人間ほど思いもよらぬ行動を取るものです。それこそ、暇だからとギャンブルで大金をスル人もいれば、慣れない料理に挑戦すると言って使うかもわからないスパイスや調理器具を大量に買い込む等。それを考えるならこの部屋でも出来る事をしてもらうのはコチラとしても把握しやすい。」
「分かりました。撮影は簡単ですけど編集とかは初体験ですし、先ずは声だけの配信とかをして反応を見てみましょう。」
「うちの敷田はよくその手の配信を見ている様なので、なにかの際は相談するといいでしょう。それでは、今日はここまでとしてなにか疑問点はありますか?」
先生がそう聞いてくるけど流石にそろそろ目を逸らせない話もあるのよね・・・。本当に大丈夫と言うか異常が出ないか心配する所でもあるし、何より身体に悪い事。
「その〜・・・、トイレに行きたくならないんですけど大丈夫ですかね?流石に水飲んで食事してとしているから出るモノもそろそろ出るんじゃないかなぁ〜と・・・。」
流石に起きてから今まで大も小もしないのはおかしい。でも、お腹が出ているわけでもないし、胃もたれしているわけでもない。大体の時間には空腹を感じるし結構食う量も増えてると思う。
「あぁ、それはバイオナノマシンのおかげですよ。排泄と言う行為をゼロにした訳ではありませんが、限りなく少なくなっています。」
「ナノマシンで?わざわざ?」
「肥満治療や生活習慣病の治療、腸や痔によりストーマを使われる方へのアプローチです。取り込んだ栄養を出来る限り効率的に分解して使用する。そして、排泄方式を例えば水分なら肌の潤いに回して蒸発させたり、食べカスは抜け毛や爪と言った形で脱落しさせる。その様なプログラムも仕込まれています。」
「ほへ〜、扱っていたとは言えそこまでは知りませんでした。さすが最新式、かなり発達してるんですね。」
「ええ。デバイスは心臓に癒着する。それは心臓記憶と言う面からもそこが最適であると過程したからです。脳と心臓の関係は最後まで動くと言う事を考えると脳が上位となるのでしょう。仮に脳波でそれさえも制御できれば・・・。」
「脳波で心臓を動かせると?」
「既に脳の指示で心臓が動いているとも言えますね。仮説の段階なので、そこはすぐにそうだと断定は出来ませんが、マリちゃんは出来るかもしれませんよ?」




