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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第2部 忠臣義士の番犬従者〜

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87 当主からのお招き

【3章】



 ラニエーリ家の当主である彼女は、ソフィア・パトリツィア・ラニエーリという名前の美しい女性だった。


 凛としていて豪胆で、男性ばかりが集まる荒事の現場でも物怖じすることはない。むしろ誰よりも勇敢なソフィアは、真っ先に前線に飛び込むのだそうだ。


 とある港で起きた争いの際、土砂降りの中で戦ったソフィアのエピソードは、ゲームでも回想で触れられていた。


『あんたたち、私についてきな! この美しい王都を汚したんだ、あいつらの血で洗い流してもらおうじゃないか!』


 ソフィアに鼓舞された構成員たちは、勇ましく戦ったのだという。


(ソフィアさんは九年前に、二十歳で当主になった人。家を継ぐ年齢には相当若いし、この世界で女性が当主を継ぐのはとても珍しいのに……この世界では女性が結婚して当たり前の風潮だけど、ソフィアさんは未婚を貫いてるし)


 女性がひとりで一家を率いるには、男性とはまったく違った苦労があるはずだ。

 それだけでも尊敬してしまうのに、そんなソフィアがやさしくしてくれたら、もっと好きになるに決まっている。


「怖い思いをさせてしまったね。お嬢さん」

「い、いえ!!」


 苦笑しながら謝罪されたフランチェスカは、ぶんぶんと首を横に振った。

 ここはバーベキューをした森の中にある、ソフィアのための邸宅だそうだ。たくさんある別荘のひとつであり、構成員は出入りしていないらしい。


 フランチェスカはそこに招かれ、直々のもてなしを受けているのだった。

 ふかふかの椅子に座って脚を組んだソフィアは、煙草をふかしながらくすっと微笑む。


「カルヴィーノ家のお嬢さんには、前々からお会いしてみたかったんだ。病弱で社交界には出て来ないとのことだったが、あのエヴァルトが娘を大層溺愛していると聞いてね」

「こ、光栄です……!」

「あはは。そんなに緊張しなくて構わないよ? といってもあまり裏社会に詳しくないお嬢さんには、他のファミリーの当主なんて怖いよね。ごめんね?」

「いえ! そんなこと、まったく微塵も怖くありません!!」


 フランチェスカがかちこちに固まっているのは、ソフィアが言っているような理由ではないのだ。


「うふふ。お姉さんたちとお友達になりましょお? フランチェスカちゃん」

「っ、『お友達』……!」


 フランチェスカの隣には、ふたりの女性が座っている。ふたりともラフなドレスを纏い、髪も緩く編んで結んでいるだけだが、双方とびきりの美女だ。


 恐らくはラニエーリ家配下の娼婦であり、いまは出勤前の寛ぎ時間だったのだろう。

 彼女たちはフランチェスカの左右を陣取ると、にこにこしながらフランチェスカを褒め称えてくれた。


「見れば見るほどとーっても可愛い。髪の毛さらさら、睫毛ばさばさ、お目々ぱっちり」

「お肌はどうやってお手入れしてるの? 普段お化粧してない所為もあるんでしょうけど、きっとそれだけじゃないはずよね?」

「その髪の赤色も、すごく素敵ねえ。あなたのお父さま、遠目からしか見たことがないけれどお、おんなじ色をしていたわあ」


 女性たちはくすくすと笑いながら、「可愛い」「可愛い」とフランチェスカを撫でる。ソフィアはふうっと煙を吐き出したあと、苦笑しながら窘めた。


「あんたたち、いたいけなお嬢さんを困らせるんじゃないよ」

「あらあ、困らせてませんよう当主さま。私たちはただ、この子のお友達になりたいだけなんですもの」

「あ、あの!」


 先ほどから出てくる『友達』という単語に、フランチェスカは心臓がどきどきと高鳴っていた。


「ほ、本当ですか? おふたりとも本当に、私のお友達に……っ」

「フランチェスカ」

「わ!」


 そんなフランチェスカの口元を、大きな手のひらが塞ぐ。

 フランチェスカはもごもごしながら、ソファーの後ろに立ったレオナルドを見上げた。


「んむむ?」


 当初ソフィアの屋敷に呼ばれたのは、フランチェスカひとりだけだったのだ。


『遊びを邪魔した償いをしなくては。ご学友にも後ほどお詫びをするが、まずは主催者のお嬢さんへの謝罪をしたいな。お嬢さん、私の別荘に来ないかい』


 そのときレオナルドが肩を竦め、それから名乗りを上げたのである。


『ラニエーリ殿、会合でもない場所でお会い出来るのも珍しいことです。可愛い婚約者の供として、俺もお招きに預かっても?』


 見上げると、これまで黙って静観していたはずのレオナルドは、とてもやさしいまなざしを向けてくる。


「はは、ごめんな。男相手じゃないから我慢しようかとも考えたが、やっぱり許せない」

「?」

「悪い大人に誑かされては駄目だ。出会ってすぐ、子供相手に『友達』なんて言い出す相手のことは信じない方がいい」


 フランチェスカは目線だけで、レオナルドにこう尋ねた。


(信じない方がって、どうして?)


 彼はきっと、フランチェスカの疑問を正確に掬い取っただろう。月の色をしたその瞳が、僅かに暗い光を帯びる。


「……君のことは、俺だけが」

「……?」


 レオナルドはくすっと微笑んだあと、諭すような柔らかい声音でこう続けた。


「ではなくて。――彼女たちのお目当てが、君のお父君に対しての営業だから」

「!!」


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