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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第2部 忠臣義士の番犬従者〜

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75 王からの命令

※昨日も更新しています。前話をお読みでない方は、ひとつ前のお話からご覧ください。





(ルカさまの持つスキルは、この国全土の守護と繁栄に関わるもの)


 まさしく王が持つにふさわしい、とても強力なスキルだそうだ。その内容は国家機密とされ、ゲームシナリオでも全貌は明かされていない。


 だが、その強力なスキルの効果と引き換えに、デメリットが存在する。


(ルカさまのスキルは発動中、使用者が年を取らないんだよね。だからルカさまは、十歳でスキルが覚醒して以降見た目の年齢が止まってる)


 それだけではなく、発動条件も設定されていた。


(このスキルは『最後の王』だけが使えるもので、この国の王家の血筋を引く人が他にいると使用不可。つまりこの国の王家の血を引く人は、ルカさまが最後のひとりな上に、スキルを使う限りは子孫を残せない……王さまにとっては致命的なデメリットだけれど、それでもルカさまはスキルを使って、この国や国民を守り続けることを選んだ)


 そんなルカのことを、フランチェスカは尊敬している。だからこそ、そんな国王から『孫』と呼ばれて可愛がられることは、少し恐れ多くもあるのだった。


「ありがとうございます陛下。お菓子は後ほど、是非いただきます」

「フランチェスカ。前にも言っただろう?」


 玉座の肘掛けに頬杖をついたルカは、優美に笑う。

 見た目は確かに幼い少年なのだが、ルカの所作や表情からは常に、長年生きた人の持つ威厳が滲んでいた。


「孫がじじいを『陛下』などと呼ぶのは、いかにも他人行儀でさびしいじゃないか。お前が小さかった頃のように、またルカと呼んでおくれ」

「ううう。ですが、その呼び方は……!」


 初めてルカに謁見したとき、つい口を滑らせてしまったことを思い出して恥ずかしくなる。あれはフランチェスカが記憶を取り戻してから一年ほどが経った、六歳の頃のことだ。


『お初にお目に掛かります、ルカさま。フランチェスカ・アメリア・カルヴィーノと申します』

『ルカさま? ……はははっ、それはいい! 我が名を呼ばれたのは随分と久々だ、なあエヴァルト?』


 よくよく考えてみたならば、一国の王を名前で呼ぶ国民はあまり居ない。そのことに気が付いたフランチェスカは、顔面蒼白になった。


(ゲームユーザーの間では、『ルカさま』呼びが定着しちゃってたから……!!)


 幸いにしてルカは面白がり、フランチェスカにそう呼ぶことを許してくれた。

 当時は安堵したものの、こうして十七歳になってもまだ幼い頃の呼び方をするように言われてしまうのは、中々に恥ずかしい。


 フランチェスカが慌てていると、レオナルドがひらっと手を挙げた。


「陛下。それでは俺もルカさまとお呼びしたく、いかがでしょう?」

「れ、レオナルド?」

「おお、もちろん構わぬぞ! 当主を継いだ身であろうと、お前も可愛い私の孫だ」

「では陛下、俺もよろしいですか?」

「グラツィアーノまで……!」

「当然だとも。ははは、こうして孫たちに懐かれるのは嬉しいものだな」


 レオナルドとグラツィアーノの申し出により、ルカは玉座でご機嫌だ。そんな様子を見た父が、小さく息を吐いてから進言する。


「陛下の寛大なお言葉、感謝致します」

「お前もそう畏まるなと言っただろう? エヴァルト。私から見れば、お前もまだまだ可愛い青二才だ」

(うちのパパを『青二才』なんて呼べるのは、世界中探してもルカさまだけだよね)


 フランチェスカはしみじみしつつ、レオナルドとグラツィアーノを見遣る。

 彼らはきっと、フランチェスカだけが違う呼び方をしなくてもいいように、自分たちも名乗りを上げてくれたに違いない。


「つきましては、陛下」


 ルカを見上げる父の声が、これまでと違った響きを帯びる。

 ルカも口元に笑みを宿したまま、華奢な足を組んで目を眇めた。


「うむ、役者は揃った。――始めよう」


 その場の空気がいきなり変わり、引き締まって張り詰めたものになる。それを肌で感じながら、フランチェスカはルカを見据えた。

 ルカは、その桜色の睫毛に縁取られた瞳を伏せて口を開く。


「とある侯爵家の当主である男が、殺し屋に命を狙われているようだ」


 この場に揃った面々は、顔色ひとつ変えはしない。ルカはそれを笑って眺めながら、命令を続けた。


「この国の民はみな、私の子であり孫である。おめおめと殺させてやる訳にはいかないのでな、手を打って貰いたい。……その侯爵の名は……」


 ルカのまなざしが、エヴァルトやレオナルドを素通りする。その後ろにいるフランチェスカを超え、最後部にいるグラツィアーノが注視された。


「ジェネジオ・アルバーノ・サヴィーニだ」

「…………」


 グラツィアーノが息を呑んだ気配がする。フランチェスカは胸が痛くなり、俯いた。


(グラツィアーノは驚くよね。だって)


 思い出すのは幼い頃、この家に来たばかりのときに、傷だらけで泣いていたグラツィアーノの姿だ。


(……狙われているサヴィーニ侯爵は、グラツィアーノのお父さん……)


 娼婦だったグラツィアーノの母を捨て、再会した小さなグラツィアーノを手酷い手段で追放した、そんな人物だ。




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