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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

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63 黒幕の考え




***




 階段を、ゆっくりと登り切る。

 その直後、腹の傷口からどぷりと血の滲む感覚がして、レオナルドは口の端を上げた。


「……あー、くそ……」


 いっそのこと、笑えるほどの激痛だ。

 腹部を押さえると、それだけでぬるついた感触がある。傷口周辺は熱を帯び、燃えるように熱かった。


 それなのに、肌には冷たい汗が滲んでいる。


(……フランチェスカの大切な父親に、これを負わせずに済んでいる)


 ふ、と息を吐き出した。


(彼女を泣かせずに済んでいるなら、なんでもいい)


 そして扉を開け放す。

 何度も転んだらしく、髪も乱れて無様な姿になったセラノーヴァ家当主ジェラルドが、チェストの引き出しを引っ掻き回していた。


 決して呼吸が乱れないようにしながら、レオナルドは微笑む。


「探し物は見付かったか? セラノーヴァ」

「……!!」


 ジェラルドの肩が跳ね、必死の形相でこちらを振り返った。


 当主の会合では、いつも余裕のある態度を取っていたはずの男だ。けれどもいまは見る影もなく、焦燥と怒りによる揺らぎが見えた。


 ジェラルドは銃口をこちらに向けると、激昂して叫ぶ。


「死ね!!」

「おっと」


 照準が定まっていない、馬鹿げた乱射だ。最小限に身を引くだけで、十分にかわすことが出来る。


 無駄に動くことによる出血の方が、いまのレオナルドにはよほど脅威だ。

 そんなことを思いながら、ふっと笑った。


「仕事が雑だな。そんな有り様だから、俺だけじゃなくフランチェスカにも見破られる」

「うるさい……!!」


 レオナルドは目を細め、殊更ゆっくりと尋ねる。


「……『黒幕』に繋がる証拠は、隠滅できそうか?」

「……っ!!」


 再びの銃声と共に、弾丸がレオナルドの顔の横を掠めた。


「なんのことだ……!」

「シラを切るつもりならやめておけよ、おっさん。いくら困窮していたといえど、あれほど頭の固かったあんたが、こんな大仰な筋書きをひとりで用意出来たはずもない」


 レオナルドの知るジェラルドとは、心から『伝統』を重んじる、そんな人物だったはずだ。

 リカルドは、ある意味で父親によく似ている。親子揃ってそっくりだったはずの考え方が、父親の方だけいつのまにか大きく捻じ曲がってしまっているのだ。


「それだけ様子がおかしくて、誰にも洗脳されてないなんて言い分は通らないぜ。分かったら観念して、俺とゆっくりお話ししようじゃないか」

「貴様……」


 レオナルドの足元に伝う血のことに、ジェラルドは確実に気が付いていない。そのことを確信しながら、レオナルドは微笑む。


「この国におかしな動きが出ているのは、今回の薬物事件だけじゃない」


 もっと前から、何かが少しずつ歪んでいっている。裏社会が起因なのか、王族を始めとした表の人間によるものなのか、それすらも今は不透明なままだ。


「あんたの手に握られているその銃も、ある意味で異常の証明だろ? この屋敷に銃は持ち込めない掟で、それを取り締まる『管理人』は王家の所属だ。家業に関わっていない女の子のフランチェスカならまだしも、当主が銃を所有していることを見逃すなんて、普通に考えれば有り得ない」

「黙れ……」

「何年も前から、この国はどこかおかしくなりつつあった。だからわざわざ、『黒幕』にとって都合のいい動きを取ってやっていたのに――……俺じゃなくてあんたに接触するとは、フラれてしまって残念だ」

「黙れ……!!」

「ああ。そうだな」


 軽い口調で答えながらも、気取られないように短く呼吸をした。


(――これ以上時間を稼いでも、それほど意味は無さそうだ)


 諦めて、目を伏せるように笑った。

 先ほど使用したスキルは、まだ使えるようになっていない。それも当然で、スキルを一度使用したあとは、一定以上の時間が経たなければ再使用出来ないのだ。


(俺が知る限り、短時間で同じスキルを立て続けに使う方法は、ただひとつ……)


 ひとりの少女の姿を思い出し、ふっと柔らかく自嘲する。

 レオナルドは、静かに呼吸をしながら顔を上げ、余裕のある笑みを浮かべたまま告げた。


「……あんたを操る黒幕は、どうやら精神操作系のスキルの中でも、かなり優秀な使い手のようだな」


 夜会のホールに居たうちの、大多数を一気に洗脳したのだ。

 ジェラルドの様子を見ているだけでも、その技術の高度さが窺える。常に支配するのではなく、普段は本人そのものの言動を取らせておいて、行動原理の根幹だけを操作しているのだろう。


「俺がそれほどの力を持った『黒幕』なら、あんたの頭に罠を仕掛ける」

「罠……?」

「まずは第三者にバレたとき、何よりも『自分と繋がっている証拠を隠滅する』ことを最優先するように仕込むな。たとえば、いまのあんたがそうさせられているように」


 ジェラルドが、心底不快そうに顔を歪めた。


「それともうひとつ、次なる優先事項はこれだ。特に、黒幕の証拠隠滅に失敗したときは、こちらが重要になってくる」

「……ぐ……?」

「つまりは――……」


 両手で頭を押さえたジェラルドを見て、レオナルドは戦闘態勢に入る。


「――秘密を知った人間を、どんな手段を使ってでも殺させること」

「っ、ああああああああああ!!」


 その瞬間、目の焦点が合わなくなったジェラルドが、再び構えた銃の引き金を引いた。





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