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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

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60 治癒の力

 思わず涙腺が緩みそうになるが、なんら安心できる状況ではない。ジェラルドはその銃口を、今度は彼に向けている。


「レオナルド、後ろ!!」

「分かってる」


 そしてレオナルドは、すぐさま指先をジェラルドに向けた。


「っ、があ……!!」


 なんらかのスキルが発動して、ジェラルドが蹲るように身を丸める。

 レオナルドはゆっくりとした声で、彼に告げた。


「――さあ、俺に従え」

(レオナルドの、他人を操るスキル……!)


 この屋敷に張られた結界の中で、攻撃のスキルは発動できない。

 精神関与のスキルは、攻撃スキルとして判定されなかったということだ。おまけにこれは物理攻撃でもないため、防御力が上がるジェラルドのスキルでも防げない。


「ぐ、う……」

「銃を捨てて、こっちに投げろ」

「……くそ……!」


 ジェラルドの手から、弱々しく銃が離れた。レオナルドはそれを黒い革靴で蹴り飛ばし、冷たい目でジェラルドを見下ろす。


「上出来。さあ、頭を垂れて跪け」

「……っ」


 レオナルドの声は、決して荒々しいものではない。それなのに、異様な迫力があった。

 スキルなんて使われていなくたって、思わず無条件に平伏してしまいそうな声音だ。レオナルドはジェラルドから視線を外さず、後ろにいるフランチェスカに尋ねた。


「フランチェスカ。当主を連れて逃げられるか?」

「絶対に出来る、何がなんでも私がパパを抱える!」


 一気に血を失った所為か、父の意識が朦朧としているのが分かる。フランチェスカは父を支え、歩き出そうとして声を掛けた。


「待っててね、パパ……!」


 フランチェスカの腕力で、成人男性である父を抱えられるはずがない。それは分かり切っているものの、諦める気もなかった。

 けれど、そのときのことだ。


「があああっ!!」

「!!」


 ばちんと爆ぜるような音がする。存在していたはずの見えない鎖が、無惨にも千切れたかのような音だ。


「まさか、レオナルドのスキルを破った!?」

「……へえ」


 ジェラルドは、一度フランチェスカのことを睨み付ける。


「くそ。……くそ、くそ、貴様らさえ居なければ……!!」


 そのあとにすぐさま、前のめりに転がるような形で部屋を飛び出した。


「逃げた、追い掛けなきゃ……! おじさまのあの様子じゃ、外に出て何をするか分からない!!」

「上の階に行った。すぐに外に出ないところを見ると、上に持ち逃げしたい何かがあるな」

「……く……」

「パパ!!」


 唸るような声に、フランチェスカは青褪める。


(パパを助けなきゃ。でもおじさまを追わないと、外で普通に生きている人たちに危害を加えるかもしれない。どっちも一刻を争う、それなのに……!!)

「大丈夫だ。フランチェスカ」

「!」


 レオナルドはやさしく笑い、フランチェスカの傍に跪いた。


「お父君は、俺が治せる」

「本当……!?」


 レオナルドは頷き、父の腹部に手を翳す。光が滲み、赤く染まった傷口を覆い始めた。

 レオナルドは真剣な横顔で、フランチェスカに告げる。


「セラノーヴァ当主も逃さない。あいつは外に出たら、秘密を知った人間をなりふり構わず狙ってくるだろう。君や俺に罪をなすり付けることも、それが出来ないならと殺しに来ることも、容易に想像できる」

「……どうやったって、取り繕えるはずがないのに……」

「それを正常に判断してくれそうには見えなかった。そうだろ?」


 フランチェスカは父の手を握り締める。すると、レオナルドの手から溢れる光が一際強くなった。


「……パパ!!」

「――――……」


 乱れていた父の呼吸が穏やかになる。表情から険しさが消えたのを見て、フランチェスカは泣きそうなほどに安心した。


「ありがとう、レオナルド……!!」

「……まだ、早い。父君を、引っ叩いてでも起こして、君たちはまずこの屋敷から出ろ」


 その言葉に、フランチェスカは驚いた。


「まさか、ひとりでおじさまを追う気なの!?」

「お父君の傷は消えたが、失った血や消耗した体力が戻った訳じゃない。治療は必要だ、分かった?」

「……っ」

「良い子だ。……早く行け」


 レオナルドはそう言って、ジェラルドが出ていった扉へと歩き始める。


「――血の署名に背いたあの男は、俺が粛清する」

「……!」


 冷えて張り詰めたその空気に、フランチェスカは息を呑んだ。

 けれどもレオナルドは、もう一度こちらを振り返ると、いつもの余裕ある軽やかな笑みを浮かべてみせる。


「どうか俺に任せてくれ、フランチェスカ。……君は、君の大切な人を守れ」

「レオナルド……!!」


 そう言って部屋を出たレオナルドに、フランチェスカはぐっと両手を握り締めた。

 それでも、ぼんやりしていられないのは間違いない。レオナルドに言われた通り、フランチェスカは父を揺さぶって起こす。


「パパ! パパ、起きて! すぐに治療してもらわないと!!」

「――――……」


 親子で同じ水色の目が、フランチェスカを見上げる。


「フランチェスカ……? 無事、なのか」

「私のことはいいの! 早く行こう、立てる!?」

「っ、ああ……」


 フランチェスカが手を引くと、父はすぐに立ち上がろうとしてくれた。

 しかし次の瞬間、その表情が僅かに歪む。


「っ」

「パパ!?」


 痛みを堪えるような声を聞いて、フランチェスカは声が震えた。


「どうして!? お腹の傷はレオナルドが治してくれたのに。まさか失敗して……」

「……そうでは、ない。……痛むのは、腹部ではなく……」


 父は顔を顰めたまま、自身の足首に手をやった。


「足首に、まるで捻ったような妙な感覚がある」

「え……?」

「驚いただけだ、それほど強い痛みではない。むしろ、治り掛けのような」

「え……」


 その言葉に、フランチェスカは目を丸くする。


 父の足を見ると、確かにそこは、どす黒いのを通り越して黄色に変色していた。

 内出血をしてから数日は経たないと、こんな色にならない。どうやら、先ほど撃たれた際に捻ったものというわけではないようだ。


(……足の捻挫。左足首。何日も経過したもの……?)


 ここ最近で、父がそんな怪我をしたことはない。


 父の怪我は、腹を銃で撃たれた傷だけだったはずだ。

 けれど、それをレオナルドに治癒してもらった今になって、引き換えのように別の負傷が生じている。


(パパはこんな怪我をしてないはず。……だけど私は、心当たりがある)


 それは、他ならぬフランチェスカ自身が、会合の際に負った傷だ。


 レオナルドを追いかけて、慣れない靴の所為で派手に転んだ。痛くて立てなくなったところを、引き返してくれたレオナルドに治癒されたのだ。


 先ほどの父と同じように、レオナルドのスキルによって。


(違ったのかもしれない)


 そのことに気が付いて、息を呑む。


(レオナルドのスキルは、怪我を治療するものじゃない。そうじゃなくて、あれは)

「フランチェスカ?」


 フランチェスカは、必死に思考を動かした。


(――レオナルドと、対象の体の傷を、入れ替えるスキルなんだ)


 そう考えて、これまでの状況を振り返る。


(無傷のレオナルドと、私が左足首を捻った怪我を入れ替えたの? だから私はどこも痛くなくなったけれど、あのときレオナルドは、私の怪我を引き受けてくれてる)


 そして、頭の中に浮かんだ言葉をぽつりと呟いた。


「それじゃあ、撃たれたパパを治してくれたいまのレオナルドの、状態は……」





***


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