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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

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57 煙に巻く

 フランチェスカの言葉に、ジェラルドは表情を消す。


「……いきなり何を言い出すのかと思えば」


 その声はあくまで冷静だ。だから、フランチェスカは淡々と言った。


「私は、おじさまが黒幕だと考えます。……おじさまも、あの夜会の会場にいたうちのおひとりですよね」

「だからなんだと言うんだい」


 ジェラルドはそう言って、穏やかな笑みすら浮かべてみせる。


「それほどまでにアルディーニを守りたいのかね? 随分と優しいお嬢さんだ」

「セラノーヴァ。娘を侮辱するのであれば、対話の余地すら設けるつもりはないぞ」

「パパ。大丈夫だから」


 いつもの父ならば、有無を言わさずジェラルドと敵対していたはずだ。けれども父は、フランチェスカの願いを聞き入れてくれた。

 一方で、ジェラルドは不快そうな態度を隠すこともない。


「侮辱というならば、お前の娘の方だろう。事もあろうに、伝統を重んじるセラノーヴァ家の当主を指して、古くより禁じられてきた薬物を王都に流しているだと? 何故そのような真似を」

「動機はすぐに想像できます。セラノーヴァ家は、伝統を重んじる家風の元で、経済的に苦しい状況だとお聞きしました」

「……リカルドか」


 ジェラルドが、息子の名を呼んで溜め息をついた。


「確かに我が家の状況は、裕福で余裕があるとは言い難いがね。それでも五大ファミリーの一員だ、見縊ってもらっては困る」


 前髪を後ろに撫で付けているジェラルドは、額を抑えながら肩を竦める。


「我が家の主な収入源として、安定した煙草産業がある。広大なタバコ畑と工場を持ち、熟練の職人を抱えていて、最近は更に手を広げたばかりだ。農地には、君も先日遊びに来たと聞いているよ」

「……パパ」

「ああ」


 隣を見上げると、父は上着の内ポケットから、預けていた一枚の紙を取り出してくれた。それを受け取り、広げてからジェラルドの前に差し出す。

 ジェラルドは、霧の中で目を凝らすかのように眉根を寄せた。


「これは……」

「レオナルドが欲しがるふりをした、隣国の商流。その中でも、煙草の輸入に関する数字だけを抜き出して、年代別に並べたものです」


 そのグラフを見れば、状況は一目瞭然だ。


「いまこの国で吸われている煙草の銘柄は、大半が隣国で作られたもの。それはこの輸入額が証明していますし、実際にいくつかのお店を見て回りました。――たとえばうちの父が吸っている煙草も、隣国のものです」


 セラノーヴァ家のタバコ農園で、フランチェスカはリカルドと話している。


『うちのパパが吸ってる煙草の葉っぱもこれなのかなあ』

『……以前の会合で吸っていらした煙草は、隣国で作られている銘柄だ。その銘柄の葉は、ここで育てている我が国伝統のタバコとは異なるが』


 あのときは隣国という言葉を聞いて、隣国出身の亡き母にまつわる理由なのかもしれないと考えていた。

 恐らくはそれも間違ってはいないのだろうが、そもそもが現在の主流の煙草は、この国で作られたものではないのだ。


「お隣の国の煙草は、この国で伝統的に育てられてきたタバコの葉とは違うものなんですよね。つまりセラノーヴァ家の農園で育てている葉は、隣国に輸出する需要も少ないはず。そして、この国で作られる国産の煙草も……」

「……」


 ジェラルドは、そこで大きく息をついた。


「……ははは、参ったな。見栄を張ったことが知られてしまうのは、これほど気恥ずかしいものだったのか」


 そして背凭れに身を預け、これまでより幾分寛いだ雰囲気を滲ませる。


「先ほどついた嘘を詫びよう。確かに我が家は、少しばかり商売の雲行きが怪しくなっているところだ。事業を広げようとしたのは好成績によるものではなく、損失を少しでも埋めるためのものだよ」

「……おじさま」

「カルヴィーノ。お前とは学生時代からの付き合いだが、現実主義で面白みの無い男だった。しかし、フランチェスカ嬢はどうやら奥方似のようだな。想像力が豊かで素晴らしい」


 ジェラルドの言葉に、父は不快そうに眉根を寄せるだけだ。だから、フランチェスカが代わりに口を開いた。


「父は、私と同じことを疑っていました」

「……何?」


 ジェラルドが、低い呟きを漏らす。


「私が資料を見ていて気付くことなんて、父ならそれより先に見抜くに決まっています。だからあの会合で、わざと煙草を吸ってみせた」

「……機嫌が悪いときに煙草を吸うのは、君の父上の癖だよ」

「おじさまはご存知ないですよね」


 学生時代からの旧知であろうと、当主同士で顔を合わせる機会が多かろうと、これまでに知ることはなかっただろう。


「父が、あれほど私の近くにいるときに煙草を吸うなんて、普段なら絶対に有り得ません」

「――……」


 この父は、いつだってフランチェスカを守ろうとする。

 雨に濡れないようにすら、殊更に気遣ってくれるのだ。それなのに、あのときばかりはフランチェスカの方へ煙がいかないよう配慮してまで、フランチェスカの隣で煙草に火を着けた。


「あれは、父からおじさまへの遠回しなメッセージです。……そうだよね、パパ」

「……」


 父は何も言わなかったが、それは無言の肯定だろう。


「おじさま」


 フランチェスカはジェラルドを見据え、ゆっくりと尋ねる。


「おじさまが、タバコ農園の新区画で育てさせているものは、一体なんですか?」

「――――……」




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