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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

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50 婚約者として!!

 リカルドの父ジェラルドが、渋面を作ってレオナルドを窘める。


「……アルディーニ。これは我々の会合だ」

「俺とフランチェスカの話だろ? こんな風にこそこそ話さなくとも、正面切って来ればいい」


 レオナルドの言葉に、父がふんと鼻を鳴らす。


「お前も座につくがいい。いま椅子を運ばせてやる」

「結構です。生憎、長居する気はないもので」


 レオナルドが肩を竦め、皮肉っぽく笑った。


「そう警戒しないでほしいな。両家が同盟を結ぶことに関して、他家の俺が口を出す筋合いはないんだから」


 フランチェスカはそんな彼を見上げ、きゅっとくちびるを結ぶ。


(……レオナルド、全然こっちを見ない……)


 彼は、フランチェスカの父だけを見遣って口を開いた。


「フランチェスカを、俺から自由にしてやりたいですか?」

(……!)


 フランチェスカの肩が跳ねたのを、父もレオナルドも見逃さなかっただろう。


「何をしてでも娘を幸せにすることが、私の責務だ」

「だとしたら、ここで俺から引き離す方がいいでしょうね。何しろ俺は確実に、フランチェスカを不幸にする」

「レオナルド……?」


 彼の名前をフランチェスカが呼んでも、レオナルドはやはりこちらを見なかった。

 俯き、くちびるをふっと綻ばせて、静かな声で言い放つのだ。


「――これはまた、都合の良い使い道があったものだな」

「なに……?」


 レオナルドの言葉に、父が不快そうに眉を動かした。


「カルヴィーノ当主の弱点は、可愛い可愛い愛娘。つまり、いずれフランチェスカの夫になるという俺の立場を利用すれば、あなたより優位に立てるということだ。『娘を幸せにしてほしければ、俺の言うことを聞け』と命じられる」

「……貴様」

(レオナルド……?)


 父の瞳に、色の濃い怒りが滲む。


「相応の覚悟はあるのだろうな?」

「あなたこそ慎重になった方が良いのでは? 娘を俺に嫁がせたくないのなら、抗争か俺に頭を垂れるかの二択。それくらいはお分かりのはずだ」

(レオナルド、一体何を言ってるの……!?)


 ここにいるレオナルドは、フランチェスカの知る彼とは別人のようだった。

 フランチェスカが彼を呼んでも、一切の反応が返ってこない。視界に入ることすらなく、興味のひとひらも向けられないのだ。


「これはあなたにも好機でしょう? 俺の要求を呑むのなら、カルヴィーノとセラノーヴァがうちを潰すために手を組むのは見逃すし……」


 レオナルドが、父だけを見て目をすがめる。


「――フランチェスカとの婚約を解消しても、構わない」

「……!」


 フランチェスカは、そこで思わず息を呑んだ。


(レオナルドが、私との婚約解消を受け入れてくれる……?)


 フランチェスカにとって、それは望んで来たことだ。

 けれども妙な胸騒ぎがして、心臓の鼓動が早くなった。レオナルドはあくまで軽い調子のまま、父たちと話を続ける。


「そうだな。カルヴィーノが持つ隣国との商流を、すべて我が家に委譲していただくのはどうです?」

「……」

「そしてセラノーヴァからは、南の縄張りを明け渡してもらう」

「なんだと……!?」


 ジェラルドがレオナルドを睨みつける。


「前から欲しかったんだよな、セラノーヴァ家ご自慢の煙草畑が。いまは単なる宝の持ち腐れだが、俺ならもっと有効活用して利益を上げられる」

「貴様……!」


 ジェラルドが怒るのも無理はない。なにしろレオナルドが口にした要求は、関係者にこそ重みが分かるものだった。


(うちとお隣の国との商流は、パパがママとの結婚で得た大切な商流……! そしてセラノーヴァが管理する南の領地は、上質な煙草の葉を育てられる農地と知識豊富な農家、それに大きな製造所が揃ってる。どっちもそれぞれの家にとって、最大かつ独自の収入源だ……)


 父は、レオナルドに重苦しく冷たいまなざしを向けたままだ。

 レオナルドは二本の指を立てると、小首をかしげてみせながら笑った。


「これはカルヴィーノ家にとって、俺とフランチェスカの婚約を穏便に解消できる唯一のチャンスだ。そしてセラノーヴァ家にとっては、俺とカルヴィーノ家が婚姻によって深く結びつくのを阻止できる最後の機会でもある」

「く……!」


 リカルドの父が、葛藤の滲んだ声を絞り出す。レオナルドは、それを見て楽しそうだ。


「俺を危険視してるんだろ? 国王陛下からの命令で、薬物事件……それから、夜会の一件の犯人も追ってるよな。俺ってことにしたいみたいだけど、セラノーヴァ如きには掴ませないぜ」

「……その発言は、認めたとも受け取れるぞ」

「馬鹿を言えよ、証拠がなきゃどうにもならない。そしてあんたがそれを得るには、力のある他家の協力が必要だ」


 そう言って、レオナルドは笑う。


「俺の条件を受け入れれば、フランチェスカが自由になる。セラノーヴァは、カルヴィーノとの結びつきを強くすることで協力体制が出来上がる。すると俺を追い詰められる可能性がゼロではなくなり――俺は、欲しかった領地と商流が手に入る」


 レオナルドの挑発するような視線と、フランチェスカの父の冷たい視線が重なった。


 だが、父がすぐに言葉を発さないことこそが、レオナルドにとって満足のいく結果だったらしい。


「隣国との商流は、これまであなたが誰にも手出しさせなかった領分です。その移譲について検討を始めてもらっただけでも、今日は大収穫かな」

「――……」

「『たったこれだけ』の犠牲で、娘を不本意な婚約から解放してやるんだ。その上に、あなたがた二家が俺を抑えつけるために同盟を組もうとするのを容認するのだから、破格の条件だと思いますけどね」


 そしてレオナルドは、くるりと踵を返す。


「二週間後、三家で話し合いでもしましょうか。それまでに結論を出しておいてもらえると、こっちも面倒が無くて助かります」

「待て、アルディーニ!」


 リカルドの父が呼び止めたところで、レオナルドは振り返りもしない。


「参加者は今ここにいる全員。時刻は夜八時、場所は第十七地区の屋敷で」

(……ゲーム一章の最終局面、主人公とリカルドがレオナルドと戦闘になる場所……)


 結局のところ、大枠はゲームの通りに動いてしまうのだろうか。


(婚約者のままでも、友達になれても、レオナルドと『フランチェスカ』は敵対するの?)


 そんな心境になって、フランチェスカは途方に暮れた。


「くそ……!! なんという男だ、あの若造」


 どんっとテーブルを殴りつける音が響く。ジェラルドは忌々しそうに、レオナルドが出て行った扉を睨み付けた。


「カルヴィーノ。お前の娘はこの先もずっと、青二才の目論見に利用されるだけだぞ! 俺の言った通りだっただろう。奴を潰すために動くなら、一刻も早い方がいい……!」

(レオナルドが、私を利用する)


 そんなものは、前世の記憶を取り戻したときから考えていたことだ。


(ここは前世で遊んだゲームの世界で、シナリオ上の黒幕はレオナルド。私は主人公に生まれて来て、レオナルドの策略のために裏社会に巻き込まれる――だからこそそれを回避するために、ずっと頑張ってきたけれど)

「婚約解消をするかどうか娘に選ばせるなどと、悠長に考えない方がいい。これは我々だけでなく、残り二家も巻き込む問題だ!」

(この世界で実際にレオナルドに出会って、ゲームのシナリオには裏があるかもしれないって思い始めた。それに反してさっきのレオナルドは、私を利用して裏社会で有利に動きたいのを、まったく隠しもしない態度で)


 そのことを思い出して、フランチェスカは俯く。


(リカルドのお父さんの言う通り、これは五大ファミリーすべてを巻き込みかねない問題。単純に、『私の将来の結婚相手が誰になるか』なんて問題じゃないって、分かってるけど……)

「……おい」


 聞こえて来たその声は、フランチェスカを呼ぶものだった。

 顔を上げる。フランチェスカを呼んだのは、しばらくのあいだ沈黙していたリカルドだ。


 リカルドはいつのまにか自身の席を立ち、フランチェスカの傍らに膝をついて、父たちに聞こえない声で囁いた。


「言いたいことは、はっきりと口にした方がいい」

「……リカルド」


 すぐ隣では、父たちの会話が続いている。リカルドはそちらを一瞥したあと、再びフランチェスカを見据えた。


「本来ならば俺たちは、当主たちの話し合いに口を出せる立場ではない。――だが、お前はこの問題においてだけは、発言する権利があるだろう?」

「!!」


 そう言われて、フランチェスカはぎゅっと両手を握り締める。


「ごめん、リカルド。……私もリカルドとおんなじで、いまのパパたちに何か言える立場じゃない」

「だが……」

「……私が出来ることは……」


 フランチェスカは気合を入れ、勢い良く席を立ちあがった。


「ごめんなさいパパ、おじさま!」

「!」


 会話をぴたりと止めた父たちが、驚いてフランチェスカを見上げている。


「私としたことが、淑女の作法を失敗してしまいました!! これは大変、一大事です! いますぐ挽回したいので、ちょっとだけ中座させていただきますね!!」

「ま、待ちなさいお嬢さん。一体どこに……」

「それはもちろん!」


 フランチェスカはふわふわドレスの裾を掴み、走るための準備をしてから声を上げた。


「レオナルドのお見送りに! だって私、いまはまだ」


 父たちに向け、はっきりと告げる。


「――レオナルドの、婚約者だから!!」

「……!」


 そう言い切って、フランチェスカは駆け出した。

 微笑んで頷いてくれたリカルドに、心の中でお礼を言う。目指すのは、レオナルドの背中だ。



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