表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/342

44 弟分として

「……」


 口を閉ざしたグラツィアーノは、レオナルドを静かに睨み付けていた。レオナルドは軽く肩を竦め、立ち上がる。


「フランチェスカも目を覚ましたことだし、俺はそろそろ帰るかな。『来客』の邪魔をして、悪かった」

(来客?)


 首を傾げるフランチェスカをよそに、グラツィアーノが低い声音で告げる。


「当主は、あんたのために予定を変えたわけじゃない。――すべてはお嬢のためだ、忘れるな」

「はは! 丁寧な念押しをどうも」


 レオナルドは最後にもう一度、ベッドにいるフランチェスカを見下ろした。


「また一緒にデートをしよう、フランチェスカ。今度は、君の苦手なものを抜きにして」

「う、うん……」


 実際はデートではなく、友達として遊ぶ約束をしてくれているはずなのだが、その言い回しの所為でなんとなく気恥ずかしい。

 とはいえ、フランチェスカのために嘘をついてくれたレオナルドに合わせ、こくこく頷いた。


「じゃあな」

「ばいばい。また明日ね、レオナルド」


 そう言うと、レオナルドは少し驚いた後、どうしてか嬉しそうに微笑んだのだった。

 部屋の扉が閉まったあと、フランチェスカはぽつりと呟く。


「レオナルドのこと、玄関まで見送らなくて大丈夫かな?」

「お嬢、まだ立てないでしょ。顔真っ赤」

「そ、そんなに?」


 どかっと椅子に座り直したグラツィアーノにそう言われ、自分の頬を触ってみる。

 これは確かにぽかぽかだ。いくらなんでもお酒に弱すぎるが、眠たくなるまでで具合が悪くなったりしないのは、ゲーム設定として使いやすいように調整されているのだろうか。


「シモーヌさんが廊下に控えてるんで、きっちり外まで追い出してくれるはずです。お嬢は寝ててください、水は?」

「平気。いまは体があったかくて、なんかぽかぽかするだけだし」


 そう答えても、グラツィアーノは納得していない顔だ。心配の気持ちを受け取って、フランチェスカはふにゃりと笑う。


「ありがと。グラツィアーノ」

「……っ」


 するとグラツィアーノは、ぐっと眉根を寄せて溜め息をつく。


「……やっぱり飲んで下さい。お嬢、さっきからふわふわしすぎです」

「んん、それは否定しないけど……」


 そのとき、ベッドサイドに一輪の黒薔薇が置かれていることに気が付いた。

 恐らくは、フランチェスカの髪に挿してもらったあの薔薇だ。フランチェスカは、棘の処理された黒薔薇を手に取って、ふわりと甘やかな香りを確かめる。


(……レオナルド)


 たくさんの気遣いを思い出し、改めて嬉しい。

 黒薔薇を大事に手で包み、その花びらをちょんちょんと指でつついた。漆黒の花びらは、レオナルドの髪色とそっくりだ。


「元気がなくなっちゃう前に、早く花瓶に生けてあげなきゃ。ねえグラツィア……」

「――黒薔薇の花言葉」


 その声音は、拗ねていてとても冷ややかだ。


「知ってます? 複数ありますが、どんなものが代表的か」

「え? し、知らない……」


 突然そんなことをグラツィアーノに言われて、フランチェスカは戸惑った。


(花言葉って、それを唱える人や本によって全然違うって聞いたことあるし。カーネーションは『母への愛情』とかだった気がするけど、白いのしか買ったことがないから自信が無いや……。そもそも、この世界と前世の花言葉って同じなのかな?)


 そんな風に考えていると、グラツィアーノが静かに口を開く。


「『憎悪』」

「――!」


 フランチェスカは、ぱちりと瞬きをした。


「黒薔薇の花言葉は他にもあって、『恨み』とか、『死ぬまで許さない』だったはずです」


 そう告げられて、思わずこくりと喉を鳴らす。グラツィアーノは皮肉めいた笑みを浮かべ、不機嫌を隠さない声音で続けた。


「各ファミリーを象徴する家紋の花は、王家が授けたものですよね。『アルディーニ家が黒薔薇なのは、力で何もかも塗り潰してきたあの家に対する皮肉だ』って噂もあるらしいですよ」

「……そんなこと」

「あの男は当主ですから、自分の家紋に付けられた花言葉を知らないなんて有り得ない。……その上で、そんな意味の込められた花をお嬢に贈るなんて、宣戦布告としか思えません」

「……」


 フランチェスカは、手の中に包み込んだ薔薇をそっと見下ろした。


「……お水と花瓶を持ってきて。グラツィアーノ」

「お嬢……」


 そのあとで、顔を顰めたグラツィアーノに手を伸ばす。

 そしてフランチェスカは、茶色い頭をわしわしと撫でた。


「っ、うわ!?」


 グラツィアーノが悲鳴を上げる。それでも構わずに撫で回すと、グラツィアーノは完全に狼狽し、とうとう椅子からひっくり返った。


「わあ! グラツィアーノ、大丈夫!?」

「なに、するんですか……!」


 ベッドから身を乗り出して見下ろすと、失態が恥ずかしかったのか、グラツィアーノは耳まで真っ赤になっている。

 そんな表情を見るのは久しぶりだったので、フランチェスカはくすっと笑った。


「心配してくれてありがとうの気持ち。でも、大丈夫だよ」

「……っ、なにを根拠に」

「レオナルドは確かに底知れなくて、何考えてるか分かんないし、物騒な噂もたくさんある。大抵のことなら出来る実力があるから、みんな怖がって警戒するよね。……それでも」


 黒い薔薇に鼻先で触れ、目を瞑る。

 先ほどの墓地で、父と兄の話をしたレオナルドが、少しだけ寄る辺ないまなざしを向けてくれたことを思い出した。


「レオナルドは案外、普通の男の子だと思うんだ」

「……」


 裏社会に産み落とされて、その世界にふさわしく振る舞って生きてきた、ただそれだけにも思えるのだった。


「私にどういう意図で近付いてきてるとしても、根はそんなに悪い人じゃないよ。だから、大丈夫」

「……あんたは……」


 ぐっと顔を顰めたグラツィアーノが、溜め息をついて立ち上がる。


「いつもいつも、誰にだってそうなんですよ。どんな下劣な奴でもクズ相手でも、人間として良い所ばっかり探して受け入れようとする。悪党相手にもかかわらず」

(別に、そういうつもりはないんだけど……)


 ただ、たまたま周囲に『悪党』と呼ばれる職業の人間しかいないだけなのだ。

 それは前世からずうっとなので、慣れっこだとも言えるかもしれない。


 グラツィアーノは拗ねたように、それでも先ほどよりはずっと険しさの取れた表情で言った。


「悪癖ですからね。……ちゃんとそれは、自覚していてください」

「うん。ありがとう」


 もう一度お礼を言うと、やはり大きな溜め息を吐かれてしまった。


「それと、グラツィアーノ。さっき言ってた『来客』って……」

「……あー」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読み始めたばかりですが、確かにレオナルドは俗に言う「普通の男の子」だと私も思う。
[一言] いつも更新ありがとうございますm(*_ _)m 読み直したくなったので読み直してて思ったのですが、、、、 黒薔薇の花言葉って確かに怖い意味もあるんですけど、「永遠の愛」とか「決して滅びること…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ