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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

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42 甘やかに溶ける


「ひどいな、フランチェスカは。俺というものがありながら」


 そう言われてしまうと、なんだかとても悪いことをしているような気がしてきた。だが、騙されてはいけない。


「で、でも。レオナルドこそ、私以外にたくさん友達いるでしょ」

「他の連中なんて、利害が一致して一緒にいるだけだ。あいつら百人集まったって、君に並ぶことすら有り得ないさ」

(……どこまで冗談で言ってるのか、よく分かんないなあ……)


 むむむと悩みつつ、チョコレートミントのアイスクリームを食べ進める。

 元々が日本で作られたゲームの世界だからか、この世界に存在する食べ物やお菓子は、前世の日本とよく似ているのだ。


「……他の友達は欲しいけど、レオナルドが最初の友達っていうのは変わらないよ。だから、レオナルドは特別」

「君にとっての特別?」

「うん」


 そう言うと、レオナルドは満足そうに笑う。


「それじゃあ約束だ。……この先、もしも君に他の友達が出来ることがあっても、君にとっての一番は俺。な?」

「……それって、もしかして」


 アイスクリームコーンの端っこを齧り、飲み込んだあとで、フランチェスカはどきどきしながら尋ねた。


「つまりは親友ってこと……!?」

「……っ、ふ」


 レオナルドが小さく笑ったのを不思議に思うも、彼ははっきりと頷いてくれた。


「ああそうだ、我が親友。だからこれからもふたりっきりで遊んだり、食事をしたりしよう」

「ふへへ……」


 夢にまで見た友達に、思わず頬が緩む。そしてフランチェスカは、レオナルドが手に持っているアイスクリームの様子に気が付いた。


「レオナルド、アイスが溶けてるよ」

「おっと」


 溶けたアイスがコーンを伝い、レオナルドの指を汚した。彼がそれをぺろりと舐める、それだけの仕草がとても艶っぽい。


(本当に、綺麗な男の人だなあ)


 そう思いつつも、フランチェスカは尋ねた。


「そのアイス、私の知ってるチョコと違う。何味?」

「ん? ……ほら」


 溶けかけたアイスを口元に差し出される。これは、食べてみろということだろう。

 それに甘え、ぱくりと噛み付いた。柔らかくなっているアイスクリームは、フランチェスカの舌の上ですぐに溶ける。


「んむ、おいひ……」


 独特の甘い味だ。苦いような、反対に甘すぎるような、不可思議な感覚に苛まれる。


「なんか、大人っぽい味する……」


 フランチェスカが、そう呟いた瞬間だった。


「……あれ?」


 視界がふわりと柔らかく揺れて、ぱちりと瞬きをする。

 目の前にいるのはレオナルドだ。けれども彼は、これまでに一度も見たことのない、驚いた顔でフランチェスカを見下ろしていた。


「フランチェスカ? 君、まさか」

「なんか、ふわふわする……」


 そう呟いた瞬間、とろんとした眠気に襲われた。


「おい嘘だろ。アイスに入ってる程度の酒で酔うなんて、子供でも……フランチェスカ!」

(あれれれれ……?)


 気持ち悪くはない。頭も痛くないし、辛くもない。


(ただひたすら、ふわふわ気持ち良くてあったかくて、すごくねむい……)


 フランチェスカは、そのままとろんと目を閉じると、レオナルドの方にずるずると倒れ込んでしまったのだった。




***




 ゲームの主人公としてのフランチェスカが、どれほど酒に弱い体質であるのかを、ストーリーで語られた機会は一度もない。


 このゲーム世界で、お酒を飲めるのは十八歳になってからだ。


 フランチェスカは十七歳で、その解禁は来年であり、シナリオ上では一度も飲酒することはなかった。

 しかし、『アイスクリームに含まれた酒にも酔う』という体質は、ゲーム設定によって定められたものなのだろう。


(……んん……?)


 ふわふわした心地で目を開けたとき、そこにはよく知っている天蓋が見えていた。

 そしてフランチェスカの傍らでは、ふたりの青年が話しているようである。


「だから、あんたはさっさと帰れって言ってんでしょ」

(……グラツィアーノ?)


 弟分の声のあと、『友達』の声が返事をする。


「そういう訳にはいかないな。俺はきちんと責任を持って、フランチェスカが目を覚ますのを見届ける」

(レオナルド……)


 ぴりぴりしたグラツィアーノの声に対し、レオナルドは飄々とした余裕があった。恐らくは、わざとグラツィアーノのことを煽り、それを楽しんでいるのだろう。

 それを受け流せないグラツィアーノは、ますます不貞腐れたように言い返した。


「ここが誰の部屋だと思ってるんだ、早く出てけよ」

「番犬がおかしなことを言う。ここはフランチェスカの部屋なんだろ? だったら俺だけじゃなく、お前だってここに居座る権利はないはずだが」

「酒にやられて寝込んでるお嬢を、ひとりで放っておける訳がない」

「同感だ。俺が見てるから、お前はさっさと下っ端の仕事に戻りな」


 そう言われて、とうとうグラツィアーノが耐えかねたらしい。


「っ、大体! あんたがお嬢に妙なものを食わせたから……」

「んんん……」

「!!」


 グラツィアーノが慌てたように、フランチェスカの眠る寝台に手をついた。その前に、レオナルドが呼び掛けてくる。


「おはよう、俺のフランチェスカ。具合はどうだ?」

「……わたし……」

「お嬢!! 大丈夫ですか、すぐに医者を……!!」


 フランチェスカはぱちぱちと瞬きをしたあと、唯一はっきりと覚悟できる事態を口にする。


「……チョコレートミントのアイスクリーム、最後まで食べ損ねちゃった……?」

「………………」

「……っ、くく……!」


 グラツィアーノが顔を顰め、レオナルドが何かを堪えるように俯いた。だが、何も我慢できていない。

 まだどこかふわふわするような気がするものの、寝台から身を起こし、辺りの様子を確かめる。


「私の部屋……レオナルドが運んで来てくれたの?」

「すまなかった。まさか、君があんなにも酒が苦手だとは」


 そう言ってレオナルドは、まだ火照っているような気がするフランチェスカの頬に触れた。


「冷たくて気持ちいい……」

「そう? よかった」

「……お嬢に気安く触るな」

「おっと」


 グラツィアーノがむすっとして、レオナルドの手首を掴む。

 レオナルドは至って楽しそうに、けれども暗い目で見下ろしながら言った。


「ははっ! 本当に、躾がなってない番犬だな。主人にとっての客人が誰かも区別がつけられないとは」

「主人に危険が及んだときは、首輪を噛みちぎってでも敵を殺しに行けって躾けられてるんで」

(な、なんでこんなに対立しあってるの……!?)






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