表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

338/342

334 父と娘


「……怪我は無いか?」


 尋ねる声は、僅かに掠れていた。


「平気。レオナルドのスキルが、ずうっと守っていてくれたの」


 父の腕の中で感じるのは、子供の頃から知っている煙草の香りだ。


「それに私は、パパの娘だから」

「……!」


 フランチェスカの父は強い。

 傷付けることが出来るとすれば、それは母と、娘であるフランチェスカだけなのだ。


「私、きっとパパにひどいことを言ったよね? 本当に、本当にごめんなさい……」

「いいんだ」


 小さな頃、初めて父に抱き締められたときと同じ声音が、フランチェスカの耳元で紡がれる。


「お前が責を負う必要など、なにひとつ無い」

「…………っ」


 父はきっと、本心からそう言ってくれている。


「……私ね、パパ」


 やはり、必要なのは謝罪ではない。

 フランチェスカが伝えるべきなのは、先ほど誓った通りの言葉だ。


「パパとママの娘になれて、本当によかった」

「……フランチェスカ」


 いっそう父に縋り付く。

 そうしなければ、子供のように泣きじゃくってしまいそうだ。


「ママが私を愛してくれていたって、会ったことがなくても知ってるの。……パパがいつも、本当にやさしい顔をして、ママの話をしてくれるから」

「…………」


 父の手が、レオナルドとは違った触れ方で、フランチェスカの頭を撫でてくれる。


「私がママに愛されていた理由は、パパとママがお互いを大事にしあっていたから。……私のパパが、ママにとって世界一の旦那さまだったからだよ」


 母がいまでも生きていたなら、きっと毎日そう言って笑った。


「この世界に、ふたりの娘として生まれて来られて幸せ。私は、この世界が大好き」

「フランチェスカ……」

「だからね」


 顔を上げ、父のことを見上げて笑う。


「ありがとう。……私の、世界一のパパとママ」

「――――――……」


 フランチェスカと同じ色の瞳が、見開かれて揺れた。

 そうして父は、静かに首を横に振る。


「……礼を言うのは、私たちの方だ」


 小さな頃、父に抱き上げられて眠った日のように、とんとんと背中を撫でられた。


「生まれて来てくれてありがとう。……私たちの、フランチェスカ」

「……うん……」


 笑顔を作ろうと頑張ったのに、涙の雫が零れてしまった。


「……ごめんね。いくら敵の気配がないからって、危ないのに!」


 恥ずかしくて拭おうとするけれど、本当は泣いている時間も無い。フランチェスカは急いで振り返り、見守ってくれていた婚約者を呼ぶ。


「レオナルド。パパに言えたよ、ありがとう」

「ああ」


 銃声は静まりつつあるが、いつ敵が来るとも限らない。ずっと周囲を守ってくれていたレオナルドに微笑んで、それから父のことを見上げる。


「パパ。――私、レオナルドのことが好きになったの」

「!」


 父がひとつだけ瞬きをした。

 レオナルドも驚いたようだったが、これを告げたのにも理由があるのだ。


「だからね。お祖父ちゃん同士が決めた婚約でも、心配しなくて大丈夫」

「……そう、だったか」

「へへ。……安心してね!」


 少しの気恥ずかしさもありながら、はにかんで告げた。


「私もいつかのママみたいに、ずっと傍に居たい人の花嫁になるよ」

「…………!」


 父が息を呑んだのと同時に、レオナルドがフランチェスカの名前を呼ぶ。


「フランチェスカ……」

「あ……ひょっとして、まだ言ったら駄目だった!?」


 こういうときの作法が分からず、フランチェスカは慌ててしまう。どうしてか何も言ってくれないレオナルドを見て、エヴァルトが珍しくふっと笑った。


「……その男を大事にしてやれ。フランチェスカ」

「!」


 思わぬ形の肯定が嬉しくて、フランチェスカは大きく頷く。


「うん!」

「……おとーさま……」


 物言いたげなレオナルドが、諦めたようにフランチェスカを見る。その上で、穏やかなまなざしを向けてくれた。


「つくづく君には敵わないな。俺のフランチェスカ」

「……レオナルド」

「だが……」


 そのくちびるから、微笑みが消える。


「未来の話は後にしよう。――お父君、フランチェスカを」

「!」


 レオナルドは、エントランスホールから伸びる階段を見上げた。


「他の連中にも、フランチェスカの顔を見せてやってください。撤退を含めた、後始末をお願いします」

「待って、レオナルド!」


 レオナルドの考えが分かってしまい、フランチェスカは彼の手を掴む。


「クレスターニの所へ、ひとりで行こうとしているの? 駄目だよ、そんなことさせられない!」

「…………」

「……だって」


 月の色をした瞳を見上げて、無性に不安な気持ちになった。


(私がここでクレスターニの話をする度に、見たことのない目をしてる)


 双眸の奥で静かに揺れるのは、殺気とすら呼べないほどの暗い光だ。


「私も行く。一緒に……」


 フランチェスカが言い募ろうとした、そのときだった。


「――――え」


 体の周囲に、ふわりと淡い光が湧く。


(見たことがある。この光……)

「フランチェスカ!!」


 レオナルドの左手と父の右手が、それぞれフランチェスカに伸ばされた。

 次の瞬間、フランチェスカの傍に影が過ぎる。咄嗟に戦闘に切り替えた父が、すぐさまスキルの剣を掴んだ。


(クレスターニの、転移の光……!!)


 それに考えが至ったのは、レオナルドがフランチェスカを捉えた瞬間だ。


「うあ……っ!!」

「――――っ」


 転移による揺らぎを感じた数秒後、ほんの一拍の間隔を置いて、フランチェスカはゆっくりと目を開けた。


「大丈夫か? フランチェスカ」

「レオナルド……」


 どうやら、レオナルドと一緒に強制転送をされたらしい。

 心強い状況のはずなのに、心臓が嫌な鼓動を立て始める。転移させられたこの部屋を、フランチェスカは知っている。


「――――やあ」

「!!」


 その部屋の奥にある執務椅子に、男は悠然と座していた。


「すまないな。急に呼び立てることになって」


 雪の上に舞い落ちた灰のように、淡く濁った色合いの髪。

 片目が前髪で隠れているのに、誰が見ても明白なほどの美しい顔立ち。はっきりとした二重で切れ長な目元に、それを縁取る長い睫毛。


「そろそろ来ると思っていた。想像よりは少し遅かったが、及第点かな」

「…………」


 何も言わないレオナルドが、フランチェスカを庇うように前に出る。

 深い緑のネクタイを結び、革の手袋を嵌めた手で頬杖をつく人物は、逆光の中で楽しそうに笑った。


「歓迎するよ。――レオナルド」

(……クレスターニ……!!)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あぁぁ!せっかくみんなの元に帰れそうだったのに!どうしてぇぇ!クレスターニぃ!けど、レオンルドが一緒でよかった!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ