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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

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327 夫婦の宝

※昨日も更新しています。前話をお読みでない方は、ひとつ前のお話からご覧ください。





(フランチェスカ)


 フランチェスカが口にしたのは、妻が襲撃された際、自分を責めたものと同じ言葉だ。


『……私の、所為で……』


 妻に似てほしいと望みはした。しかし、同じ苦しみを負って欲しいとは思わない。幼い頃から今日までの日々に、自責を続けていたのだろうか。


(セラフィーナは、お前を深く愛していた)


 命など惜しくなかったのだと、今のエヴァルトにはよく分かる。


(お前が笑って、幸せになることだけを望んでいたんだ。……だから)


 フランチェスカを、必ず無事に取り戻す。

 その鍵となり得る青年は、枯れた赤薔薇を胸に抱いたまま、静かに寝息を立てていた。


(分かっている。セラフィーナ)


 アルディーニを眺めたエヴァルトは、やがて自身も瞑目した。


(壊れてしまうような真似は看過しない。『子供たち』は、私が引き続き見守ろう)


 最期の微笑みを思い出し、祈るように告げる。


(――君との約束も、私の宝だ)




***




「…………」


 目を覚ましてからしばらく経った頃、レオナルドは軽い身支度を整えて、外套を手にしつつ立ち上がった。


 向かいのソファーでは、エヴァルトが肘掛けに頬杖をついている。

 眠ったところを見るのは初めてなので、少しの間それを観察した。あまり隙がなさそうなのを確かめたあと、持っていたドライフラワーをその膝に置いて、レオナルドは扉の方に向かう。


(……この気配)


 ゆっくりと開けてみれば、廊下の隅に蹲っていた青年が、ぴくりと肩を跳ねさせて顔を上げた。


「番犬」

「……あ」


 フランチェスカの従者は、少しばつが悪そうな顔をして、ふいっと顔を向こうに向けた。


(なるほど。俺が一晩中、カルヴィーノと応接室に居た所為で……)


 恐らくは、主人が出てくるのを待っていたのだ。


「ふはっ」

「!?」


 レオナルドが思わず素直に笑えば、青年は驚いて目を丸くする。


「まるで、本物の犬みたいだな」

「うるさいな……」


 レオナルドが扉を閉めてやると、青年は立ち上がり、懸命に皮肉を言おうとした。


「お帰りはあちらです」

「見送りご苦労。ついでに上着を着せてくれ」

「嫌ですよ、なんで俺が」


 レオナルドに笑われて悔しそうな青年に、応接室での会話は聞こえていなかったはずだ。


「……あの」


 それでも彼は、思い切ったような様子で口を開き、レオナルドのことを呼び止めた。


「ありがとう、ございました」

「…………」


 心当たりのない礼に、レオナルドは青年を振り返る。


「フランチェスカ救出の礼だったら、残念ながらまだ早いぞ」

「っ、そうじゃなくて……! ああ、くそ」


 レオナルドがこの青年なら、ここでそれほど悔しそうにするくらいなら、最初から礼など言いはしない。

 興味深く観察していると、青年は振り絞るように言った。


「当主のこと。あんたがきっと、色々助けてくれてますよね?」

「…………」


 そのとき、レオナルドはあることに思い至る。


「だから、ありがとうございます。俺たちの当主を、その」

(……そうか)


 この青年は、エヴァルトを待っていたのではない。

 レオナルドにこれを言うために、冬の廊下で蹲っていたのだ。それが分かり、レオナルドは敢えて笑みを作る。


「本当に感謝しているなら、言葉よりも利になる何かが欲しいな」

「!? あんた、こっちが下手(したて)に出ていれば……!」

「冗談だよ」


 揶揄い甲斐のある反応を楽しみながら、カルヴィーノ家のエントランスに歩き出す。


「どうやら俺も、それなりに気遣われていたようだしな」

「…………? それって」

「第一に」


 もう一度青年を振り返り、わざと挑発を口にした。


「配慮をするのは当然だ。カルヴィーノは近々俺にとって、『義理の父親』になる相手だろ?」

「…………」


 青年は思いきり嫌そうな顔をしたあと、いつも通りの生意気な反論をしてくる。


「あんたみたいなのに礼言って損しました。お嬢と結婚するつもりなら、俺と当主を倒してからですから」

「ありがとう。その程度の条件で構わないなら、明日にでも婚儀を挙げられる」

「はああ?」

「……そのためにも」


 笑みを消して、廊下の窓越しの朝陽を見遣った。


「抗争だ。――五大ファミリーの総力を持って、フランチェスカを奪還する」

「!」




***





 聖樹を前にして告げられたことを、ルチアーノは幾度も思い出す。


『――ルキノ君が何を背負っているのか、私には分からない』


 ファレンツィオーネの大聖堂、その地下にある空間で、赤い薔薇色の少女はこう言ったのだ。


『分かる訳がない。だけど国ひとつ、たとえ一族や家だって、誰かがひとりで背負うべきものじゃないよ』


 美しい水色のその瞳は、真っ直ぐにルチアーノを見据えていた。


『世界も未来も。たったひとりが、汚れながら変えるべきものなんて、存在しない……!』


 世間知らずの令嬢に、一体何が分かるのだろう。

 ルチアーノには、どんなに自分が汚れても、変えなくてはいけないものがある。こんな少女の言葉など、なんの意味もないはずだった。


(……そうだ)


 敬愛する人物に招かれた屋敷で、ルチアーノは苛立ちを抱えている。


(あんな女の子の言うことなんか、話にならない。わざわざ思考を割く価値すらも存在しない。……そのはずだ、それなのに)


 美しい深緑に揃えられた色調の廊下で、ゆっくりと足を止めた。


(あの子が、危なっかし過ぎる所為で……)




挿絵(By みてみん)


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◆ドラマCDキャストの皆さま◆


【悪党一家の愛娘】フランチェスカ: 戸松遥さん

【極悪非道の婚約者】レオナルド: 内田雄馬さん

【忠臣義士の番犬従者】グラツィアーノ: 大塚剛央さん

【継往開来の風紀委員】リカルド:梅原裕一郎さん

【狷介孤高の同級生】ダヴィード:松岡禎丞さん

【過保護な冷徹パパ】エヴァルト: 浪川大輔さん

【少年国王】ルカ:釘宮理恵さん

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