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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

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326 父と息子


「そうだ」


 エヴァルトは何本目かの煙草に火をつけて、深く煙を吸い込んだ。


「そうした経緯や、妻が生前どのようなスキルを持っていたかを、あの子はまったく知らないが」


 この煙草も、セラフィーナを亡くした数ヶ月後、自暴自棄の中で吸い始めたものである。

 アルディーニはソファーに深く腰掛けたまま、表情を作ることはなく、何かを考えるように目を伏せる。そんな若者に、エヴァルトは続けた。


「私は弱かった。……フランチェスカは奇跡的に産声を上げたが、存在を視界に入れる度、どうしてもセラフィーナを思い出す」

「…………」

「その癖に、セラフィーナとの約束が頭から離れない」


 フランチェスカを守ってくれと、それが最期の願いだった。


「娘を遠ざけては、約束に背くことになる。かといって傍に置いたままでは、私自身の振る舞いがフランチェスカを悲しませる。どうあっても、セラフィーナへの裏切りだ」

「……裏切り」

「フランチェスカが私を許してくれなければ、今でも向き合えていなかっただろうな」


 愛おしい妻を失ってから、呆れるほどに弱くなったと自覚している。セラフィーナは最期まで強かったのに、生きている人間がこの有り様だ。


「フランチェスカが真実を知れば、あの子はますます自分を責める」

「…………」


 アルディーニも同じ意見なのか、否定の言葉は出てこない。エヴァルトは灰皿に灰を落とし、細い紫煙をくゆらせる。


「一方で、母の死の詳細を知らない事実が、深いわだかまりになっているのかもしれない」


 フランチェスカは昔から、度々セラフィーナの話をねだる。

 けれどもそれは決まって、温かで幸せな思い出の話ばかりだ。それ以上のことを尋ねようとしないのは、無意識にでも避けているのだろう。


「俺が、フランチェスカなら」


 そんな前置きをひとつ落として、アルディーニは率直な意見を述べた。


「すべてを聞いた上だとしても、母の死は自分の所為だと考えます。あなたや大人が、どのような言葉を掛けようとも」

「…………」

「ですが」


 アルディーニは引き続き思案しているらしく、緩やかなまばたきをひとつ刻んだ。


「たったひとり。……俺による言葉であれば、フランチェスカの自責を突き崩せる糸口はある」


 その物言いが意味することは、エヴァルトが想像した通りだろうか。

 それを敢えて尋ねることはせず、エヴァルトは煙草をゆっくりと吸う。アルディーニは、天井に立ち上る煙を見上げながら、不意に言った。


「俺の父さんも、あなたと似た心境だったと思いますか?」

「……さあな」


 簡潔な返答を投げたのは、不明瞭な質問だったからだ。間違いなく、意図的に曖昧な問い掛けである。

 だからこそ、代わりにこんなことを答えた。


「先代アルディーニ当主は、私たちにとって少し先の人生を歩く、ひとつの道標となる存在だった」

「はは。いわゆる『先輩』というやつだ」

「だが、私がお前の父君を思い出す際、浮かんでくるのはあの背ではない」


 首を傾げたアルディーニを前に、再び煙草の灰を落として告げる。


「幼いお前の小さな頭を、随分とやさしく撫でていた。……そうして幸福そうに笑う、父親としての姿だ」

「…………」


 アルディーニは、もう一度緩やかに瞬きをした。


「……ふうん」


 どんな心情の相槌なのか、感情が読めない返りごとだ。

 アルディーニは、表情を淡い微笑みに変えた。その上で膝の上に頬杖をつき、人懐っこく見える仕草で言う。


「煙草って、気分を変えるのに何かと良さそうですよね。俺が二十歳くらいになったら、あなたと同じものを吸ってみようかな?」

「………………やめておけ」


 エヴァルトはげんなりした気分になり、それを煙にして吐き出した。吸い殻を灰皿に押し付けて、馬鹿げた提案を却下する。


「お前が体を壊すことがあれば、フランチェスカを泣かせてしまう」

「……えー」


 アルディーニは少し拗ねたようなふりをして、エヴァルトがテーブルに置いたドライフラワーのうち、赤薔薇の方を手に取った。


「それなら、あなたも禁煙してくださいよ」

「考えておく」

「はは。心にも無さそう」


 微笑みをすぐに消したアルディーニが、ソファーに深く座り直す。赤薔薇を口元に寄せながら、いつもよりも穏やかな声音を紡いだ。


「……あなたが時々俺にする、不思議な対応」

「なんだ?」

「俺が当主を継いだばかりの頃は、真っ先に大人として扱ってきた癖に。一方で未だに、妙なところで子供扱いをしてくる……」


 アルディーニの双眸が、ゆっくりと閉じられる。


「あれが、あなたなりに細君との約束を守ろうとした結果なのは、よく分かりました」

「…………」


 この子供を気に掛けてやることも、セラフィーナの願いのひとつだった。

 彼女がどんな運命を見ていたのか、今となっては分からない。遺された人間に出来ることは、本当に僅かでしかないのだ。


(……ようやく寝たか)


 本当は寝台に寝かせたかったが、それこそ相手は幼な子ではない。起こさずに対処することは、難しいだろう。


挿絵(By みてみん)


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◆ドラマCDキャストの皆さま◆


【悪党一家の愛娘】フランチェスカ: 戸松遥さん

【極悪非道の婚約者】レオナルド: 内田雄馬さん

【忠臣義士の番犬従者】グラツィアーノ: 大塚剛央さん

【継往開来の風紀委員】リカルド:梅原裕一郎さん

【狷介孤高の同級生】ダヴィード:松岡禎丞さん

【過保護な冷徹パパ】エヴァルト: 浪川大輔さん

【少年国王】ルカ:釘宮理恵さん

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― 新着の感想 ―
流石のレオナルドも疲れて眠っちゃったね。エヴァルトのフランチェスカに対するあの溺愛っぷりはセラフィーナとの約束を守ろうとして、だから本心ではないのかな?けど、フランチェスカが許してくれたからエヴァルト…
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