表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

328/342

324 幸福な運命


 エヴァルトとセラフィーナの婚約は、互いの国の王家を巻き込んだ交渉になった。

 聖樹に干渉するスキルを失ったとはいえ、そうした研究に関わってきたセラフィーナの婚姻は、隣国にとっても注視するべきものだったためだ。


 特に隣国の王室は、ロンバルディ家の研究を欲していた。そこに仲裁に入ったのが、ファレンツィオーネ国王のルカだ。


 ルカはいくつかの材料を用意し、隣国に条件を提示することで、セラフィーナとエヴァルトの婚約を後押しした。


 ロンバルディ家が、隣国の王室からの要請に応じ、留学生を受け入れているのもそのひとつだ。それがルカの命令であるからこそ、ロンバルディは隣国の王室に、聖樹の研究結果すらも共有している。


『陛下。私のような人間のために、なんとお礼を申し上げたらよいか……』

『構わぬ。言っただろう? 私にとって、お前たちは子や孫のようなものだと』


 エヴァルトがそれまで、本当の意味での忠誠心など持ち合わせていなかったことを、ルカは見抜いていたはずだ。

 忠誠の家に生まれた使命に従い、ただ無気力に命を捧げてきた。そのエヴァルトを責めもせず、ルカは心から嬉しそうに笑う。


『可愛い「子」であるお前が、たったひとりの愛する者を見付けた。ならばそれを祝福し、背中を押してやりたいのが親心というもの』

『親心……』

『実はな。多くの民を愛おしく思う中でも、カルヴィーノ家は私にとって特別なのだ。……他の者には内緒だぞ?』


 人差し指をくちびるの前に立てて、玉座に座った王は言った。


『幸せにおなり。可愛い可愛い、カルヴィーノの子よ』

『――お言葉、有り難く賜ります』


 エヴァルトの『忠誠』が、こうして本物の忠誠心となったのも、セラフィーナが傍に居たからだ。

 その後にエヴァルトの父が亡くなったこともあり、実際にセラフィーナとの婚姻を結ぶまでには、出会ってから二年が経っていた。


 それからさらに一年の月日が過ぎた頃、運命の転換は、春の陽射しが降り注ぐ暖かな季節に訪れる。


『……アルディーニ家の第二子は、男児だったそうだ』

『まあ!』


 帰宅したエヴァルトを出迎えたセラフィーナは、鮮やかな赤の瞳を輝かせる。

 二日前、アルディーニ家に生まれた赤子のことを、セラフィーナはいたく案じていたのだ。早く報告してやりたかったエヴァルトは、セラフィーナの喜ぶ顔を見て安堵しつつ、部屋のソファーに腰を下ろした。


『ミネルヴァさんは? ご体調は大丈夫なのかしら』

『……ああ。今はまだ、休んでおられるそうだが』

『ご出産の直後ですものね。だけど、お元気ならよかった!』

『…………』


 実際の所、アルディーニ当主夫人であるその女性は、容態が思わしくないらしい。

 エヴァルトがその事実を伏せたのは、セラフィーナ自身も身重であり、数日以内には生まれるだろうと予想されていたからだ。


 そんな彼女に、不安を抱かせたくなかった。


『ねえ、エヴァルト』


 セラフィーナはエヴァルトの隣に座ると、わくわくした様子で尋ねてくる。


『赤ちゃんのお名前は、ひょっとしてレオナルド君?』

『? なぜ知っている』

『生まれて来るのが弟だったら、そう付けるって聞いていたの』


 そうして自身の腹部を撫でながら、聞こえるはずのない言葉を掛けた。


『聞こえたかしら? フランチェスカ。あなたの婚約者のお名前は、やっぱりレオナルド君ですって』

『……私たちの子は、まだ娘だと決まった訳ではないぞ』

『女の子よ。だって、そういう運命だから!』


 セラフィーナは運命変化のスキルを持っている所為か、度々そんな言い回しをする。エヴァルトの肩に頭を乗せて、いたく機嫌が良さそうだ。


『今年は六大ファミリーのうち、五つの家に赤ちゃんが生まれるのね。同じ学年になるみんなは、この子と友達になってくれるかしら?』

『……どうだろうな』


 セラフィーナに似れば、さぞかし社交的な子に育つのだろう。それを敢えて口にはしないまま、エヴァルトは彼女の髪を撫でる。


『少なくともアルディーニ殿のご子息に関しては、幼い頃からある程度の交流を持たせるべきだろうが。……本当に、この子が娘ならな』

『ふふ。うちがこのままひとりっ子か、次の子供たちも女の子だったら、レオナルド君が婿入りしてくれるのかしら』


 思わぬことを尋ねられ、エヴァルトは眉を顰めた。


『…………』

『エヴァルト?』


 正直なところ、数日以内に子供が生まれて、自分が父親になることすらも現実味がないのだ。

 セラフィーナに似た女児が生まれ、その娘が成長して誰かと結婚をするなど、なおさら想像できるはずもない。


『…………婿養子なら』


 エヴァルトは渋面を作ったまま、なんとかそれだけを絞り出した。


『当家の方針を、厳しく教育する必要が、あるだろうな……』

『…………っ、あはは!』


 真面目に答えたつもりだが、セラフィーナはころころと愛らしく笑う。

 何がそんなに可笑しいのかは分からないが、彼女が幸せに笑っているのならば、それを止めるような理由はない。


『ああ、幸せ!』

『…………』


 ひとしきり笑ったその後で、セラフィーナはエヴァルトに微笑んだ。


『あなたは素敵なパパになるわ。きっと誰よりも娘思いで、甘々のお父さんに』

『……どうだろうな』

『まだ自信がないのね。どうしてそんなに心配なのかしら?』


 そう言ってエヴァルトの頭を撫でてくる。セラフィーナは、自分の方が一歳年上である所為か、エヴァルトを子供扱いして満足そうにすることがあった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そっか、父親になる実感がなかったなだね。でも、セラフィーナの言う通り、めっちゃ娘想いで超甘々な父親になってるよ笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ