表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

323/342

319 名前を


 フランチェスカ以外の何者にも、こんなことを願ったりはしない。


「…………」


 腕の中に閉じ込めたフランチェスカは、震える声でこう言った。


「……私は、あなたが嫌い……」

「へえ」


 あまりにも弱々しい言葉に、レオナルドは笑う。


「平凡で、平穏な人生を生きたかったのに」

「…………」


 彼女のくちびるから、吐息と共に言葉が零れる。


「『この世界に生まれた所為で、全部台無し』」


 告げられたことに、レオナルドはひとつ瞬きをした。


「『あなたが、いなければ』」

「……フランチェスカ?」

「『私は、こんな世界に生まれずに、済んだかもしれないのに』」

「…………」


 エヴァルトが、戸惑いを見せた気配がする。

 その反応も当然だ。フランチェスカが話すことは、この世界に生きている人間が思い付くはずもない。


(洗脳されたフランチェスカから、前世の記憶は欠けているはずだ)


 けれども彼女は間違いなく、転生についてを口にしていた。


「『あのとき、あなたを、見付けていなければ……』」


 レオナルドは、静かに瞑目する。


「……ごめんな。『フランチェスカ』」


 前世でレオナルドを見い出したのだと、フランチェスカは教えてくれた。

 駅と呼ばれる雑踏の中、そこに掲げられたレオナルドの姿を見て、この世界のゲームを選んだという。


「こんな世界に君を引き摺り込んだのは、確かに俺だったのかもしれない。平穏を願っていた君の運命に、棘だらけの薔薇を這わせてしまった」


 本当は、憎まれて当然の存在なのだ。


「その上に、俺は」


 美しい赤色の髪を撫でながら、愛おしい女の子に罪を(のたま)う。


「……君をこの世界に堕とすことが出来て、心から幸福だと感じている」

「…………っ!!」


 そのお陰で、たったひとつの光に出会えたのだ。


「……さいてい……」

「ああ」


 心の底から同意して、レオナルドは自嘲の笑みを浮かべる。


「俺もそう思うよ。だからこそ俺の全てを懸けて、この世界で君を幸せにする」

「……離して」


 洗脳されたフランチェスカの両手が、レオナルドの体を押しやろうとした。それに従うことなどせず、ますます強く抱き締める。


「君の幸せを望まない運命は、俺が必ず変えてあげるから」

「嫌……!! 私は、クレスターニさまの居ない場所で、幸せになんかならない……」

「フランチェスカ」


 抗おうとする彼女の耳に、もう一度いつかの言葉を重ねた。


「俺は、君のことが好きだよ」

「…………っ」


 レオナルドの腕から逃れようとしながら、フランチェスカの手が上着を掴んでくる。


「やめて。お願いだから、私を諦めて。もう嫌……!!」


 そうして矛盾する言動の中、透き通った音が紡がれた。



「……『レオ、ナルド』……!!」

「――――!!」



 泣き出すのを我慢するかのような、小さく震える声がする。

 それと同時に、レオナルドの頭の奥で痛みが響いた。これまでのものとは全く違う、殴り潰されたような衝撃に、レオナルドは短く息を吐く。


(くそ。……これは、まずいな)


 同時に、フランチェスカが呟いた。


「――でも。でもね、レオナルド」

「!」


 レオナルドを拒もうとしていた腕が、今度は背中に回される。


「あなたが……」


 レオナルドの胸に頬を擦り寄せ、フランチェスカが愛らしく言った。


「――こうやって私に裏切られて死ぬのは、面白そう!」

「…………」


 背後に立った神父たちが、一斉に銃口をこちらへ向けた。


(馬鹿だな)


 レオナルドは静かにそう考える。強い痛みの中、何処か朦朧と思考を回す感覚は、いつかの炎の中と似ていた。


(俺が『お前』に裏切られるなんて、そんなことは有り得ない。……こうした隙を狙っていることなんて、最初から分かっていたんだから)


 敵を殺さずに防御できるようなスキルの類は、すべて持続時間が切れている。それでもレオナルドは、銃撃を避けるつもりはなかった。


(回避すれば『君』に当たる。俺が施した結界に守らせて、結界を壊す可能性を増やしたくもない)


 結界スキルは完璧ではなく、一定の確率で解除される。


「あはははははっ!!」


 レオナルドに出来る選択は、ただひとつだ。


「このままここで、死んでほしいな。お願い、レオ……」

(フランチェスカ)


 その瞬間に響いたのは、金属が爆ぜる高い音だ。


「…………え?」


 フランチェスカが瞬きをしたのは、神父たちが倒れ込んだからだろう。

 銃声は起きない。その代わりに、剣が鞘へと仕舞われる音がする。


(君は、自分の父親が頻繁に煙草を吸うことも、敵とどのように戦うかも知らない)


 だからこそ、洗脳されたフランチェスカが、この展開を予想することはなかったはずだ。


(――銃でさえ、斬り壊してしまうということも)


 フランチェスカを深く愛する父親が、娘をどう大切にするかを考えて、徹底的に守り育ててきた結果なのである。


「……私は、お前にどれほど謝っても足りないことをした」

「パパ……?」


 雪の上に、斬り裂かれた銃の破片が落ちる。

 銃にすら勝る剣術を持つ男も、たったひとりの娘には、なにひとつ敵わないのだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
早く元に戻って!フランチェスカ!なんで、転生した事自体は覚えてるけど、その詳細は覚えてないの?!早く思い出して!あったかい場所へ戻ろうよ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ