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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

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307 嫌いなもの

 ルキノに連れて来てもらった食堂は、二階にある大きな部屋だった。

 何度目かの探索の際にも訪れて、フランチェスカの頭の中に記憶されている場所だ。暖炉には既に火が焚べられており、部屋の中は暖かい。


 中央に据えられている長方形のテーブルは、艶やかに磨かれたマホガニー製だ。彫り込み細工は繊細で、長年よく手入れされているのか、深みのある飴色をしている。


 冬らしい緑色のカーテンに、それと統一された緑の絨毯で、全体的に落ち着いた印象の食堂だ。

 それでも華やかな空間に見えるのは、壁や窓枠に金の装飾があることに加え、天井の一面に花々が描かれているためだった。


(どこもぴかぴかにお掃除されてるけど、新しく建てられたお屋敷じゃない。ここがファレンツィオーネ国の敷地内なら、長く続いている有力貴族の領地だけど……)


 椅子の後ろに立ったルキノが、面倒臭そうな顔でフランチェスカを呼ぶ。


「何してるの? 早く来なよ」

「ルキノこそ、そんな所に立ってどうしたの?」

「はあ?」


 ルキノは顔を顰めると、重い椅子を少し後ろに引きながら言った。


「座って」

「…………」


 その振る舞いに、フランチェスカははっとする。


(…………エスコートだ!!)


 男性が女性のために椅子を引くのは、社交界の流儀のひとつだった。

 レオナルドも父もグラツィアーノも、フランチェスカのためにそうしてくれる。だから初めての経験ではないのだが、ルキノと結び付かなかった所為で、反応するのが遅れてしまった。


「ごめんね、ありがとう!!」

「ふん」


 むすっとしたままのルキノに感謝しつつ、フランチェスカは着席した。


(気のせいじゃなかったら、照れ臭そうに見えるような……)

「じゃあね。大人しくしてなよ」

「え……」


 ルキノがその場を去ろうとするので、驚いて彼を呼び止めた。


「ルキノはここで食べないの?」

「はっ、君も物好きだね。ひとりでのんびり食事をする機会をあげようとしてるのに、わざわざ呼び止めるなんて」

「…………」


 どうやらルキノは、フランチェスカをひとりで行動させてくれるつもりのようだ。フランチェスカの動きを把握できる自信があるということは、この食堂にも盗聴スキルを仕掛けてあるのかもしれない。


(私ひとりにならないと調べられないことも、きっとたくさんある……だけど)


 フランチェスカは微笑んで、ルキノに告げた。


「物好きでもいいよ。ルキノ、一緒に食べよう?」

「……君、本気で言ってるの?」

「もちろん!」


 まとまった時間で単独行動をするためにも、いまは信頼してもらう段階だ。

 過去の誘拐の経験からも、誘拐犯側の隙が生まれる瞬間が必ずあることを、フランチェスカは知っている。


(だけど)


 それだけが、ルキノを引き留めた理由ではなかった。


「私はもっと、ルキノの話が聞きたい。……駄目かな」

「…………」


 ルキノがひとつ溜め息をついた。

 その上で随分と不機嫌そうに、フランチェスカから見て真向かいの、一番遠い席へと座る。


「まったく理解できないな」

「ふふ! 相互理解の甲斐がある、ということだね」

「全然そういう話はしてない」


 そんな皮肉を向けられながらも、食事の時間が始まった。


「…………」


 フランチェスカが最初に息を呑んだのは、配膳に出てきた黒服の男性が、何処か虚ろな目をしていたことだ。


(……この人たちも、洗脳されてる)


 優雅な微笑みや、皿を出すときの一挙一動に至るまで、彼らの動きはそつがない。

 けれども明らかにおかしいのだ。統制された人形のように、余計な物音はひとつも立てないままで、芸術品のような食事が運ばれてくる。


(この屋敷で、自分の意思に沿って動けるのは、クレスターニの信奉者だけ)


 そんな状況下で、フランチェスカは明らかな異物だった。


(私が自分の意識を取り戻せているのも、クレスターニのスキルを『変化』させたから?)


 ソースの掛けられたチキンを切り分けながら、フランチェスカは眉根を寄せる。


(……いまだって。もしかしたら、私自身の意思なんか何処にもなくて、こうしてルキノとご飯を食べているのもクレスターニの支配下で……)


 そんなことを考えて、一度目を閉じる。


(――そうだとしても、関係ない!)


 振り切って、フランチェスカは顔を上げ、微笑んだ。


「これ、すごく美味しいね! ルキノも美味しい?」

「クレスターニさまのお慈悲だ。極上の味に決まってるだろ」


 実際の味の感想というよりも、決定事項を述べるかのような物言いだ。


「ルキノは本当に、クレスターニが大好きなんだ」

「……文句でも?」

「ううん。ただ、知りたいの」


 フランチェスカはお皿の端へ、ナイフとフォークをゆっくりと置いた。


「私がルキノについて知っているのは、ママが生まれた隣国の王子さまだっていうこと。クレスターニを信奉していて、反対に……」


 以前ルキノが口にしていたのは、とある人物への禍根の言葉だ。


「私たちの国王、ルカさまのことを嫌っている」

「――――……」


 ルキノの赤い瞳が、静かにフランチェスカを見据える。


「この国ファレンツィオーネを、壊したいの?」


 ファレンツィオーネを守る家、カルヴィーノ家のひとり娘として、隣国の王子に問い掛けた。

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