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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

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303 物語の定番

 レオナルドは、あの日のことを思い出す。


(ジュストたちは、ゲームにおける俺の部下。この世界では、恐らくクレスターニの支配下にある人間)


 現時点では推測に過ぎないが、間違いはないだろう。


(……こいつらがフランチェスカの傍にいると思うだけで、臓腑の奥が煮えそうだ)

「…………」


 ついつい殺気が滲んでしまい、レオナルドはにこっと笑顔を作る。


「なあカルロ。たとえばここが、『物語の世界』なら」

「……?」


 平然とそう言ったレオナルドを、カルロが怪訝そうに見上げてくる。


「死体が見付かっていない人間は、実は生きているのが定番だ。そうだろ?」

「……回答不能。物語は読まない」

「俺はそれほど嫌いじゃないよ。社交の場でくだらない世間話を聞かされるくらいなら、付き合いで行くオペラの方がずっとマシだからな」


 レオナルドは人差し指を立て、それを口元に当てる。


「仮説を立てるとすれば、クレスターニが『賢者の書架』に立ち入れた理由は、お前の祖父さんの結界を無理やり破ったからじゃない。どう思う?」

「同意。労力に見合わない行動」

「うん。資格を持っていないのなら、わざわざ賢者の書架を選ぶ理由がないからな。資格があって容易に立ち入れる人物だからこそ、あの場所を利用した」


 賢者の書架に入る許可証は、所有者を識別する仕組みを持っている。

 ロンバルディの老当主ヴァレリオが、その血で所有者の名前を綴るのだ。結界は許可証に綴られた名前が所有者であるかを判別し、許可された本人でなければ弾く。


「なおかつ俺がクレスターニなら、もう少し用心をする所だ。自分の死くらいは偽装して、完全に世間から姿を眩ませた後でない限り、五大ファミリーの管轄する場所なんか使わない」


 無表情のまま俯いたカルロが、口元に手を軽く当てて呟く。


「賢者の書架に立ち入る資格を持った『死人』が、クレスターニ……」

(……条件だけで言うのならば、カルロも同じはずだった)


 考慮しておくべき事柄を、レオナルドは改めて思考した。


(ゲームの五章までは名前しか出てこない、『黒幕』側で暗躍する敵。カルロもジュストたち三人と同年代で、賢者の書架に立ち入る資格を持つ)


 この三人とカルロに関しては、血筋という意味でも同格だった。

 単なる身分の問題ではない。この世界における血の貴さは、スキルの保有上限数にも関わっており、戦略面でも影響が大きい。


(カルロは俺の物になり、他の三人は死を偽装されて、クレスターニの物になった。どちらも見方さえ変えてやれば、ゲームの大枠に沿っていると言えるんだろうが……)


 その結果には、大きな差がある。


(カルロと他の三人を分けたもの。それは恐らく)

「……アルディーニの弟」


 レオナルドのことを、いつも通りの遠回しな言い方で呼んだカルロは、白衣のポケットに手を入れながら言った。


「死の詳細は? アロルドと、ティーノについて」

「エリゼオに情報を集めさせている。調査結果が出てきたら、あいつと連携して信憑性を精査しろ」

「承知。ジュストについては」

「ちゃんとあそこで殺せていたなら、焼死か圧死か失血死かな。いずれにせよ死体を確かめられていないから、こいつは生存の可能性が高いと見ておこう」


 そう答え、レオナルドは肩を竦める。


「まったく、我ながら詰めが甘い。『あのとき』はジュストだけじゃなく、他の死体もろくに確認できていないからな」

「……そうか」

(あんなに多くの死体があったのに、スキルを奪う余裕もなかった。……親しいと呼べる人間はいなかったから、大したスキルも得られなかっただろうが)


 自身の手のひらを見下ろして、その手を軽く握り込んだ。


「あの日、この目ではっきりと死を確認したのは、セレーナの当主と自分の家族くらいだ」

「…………」


 初めて人を殺した日のことを、レオナルドは脳裏に思い描く。

 父に銃弾から庇わせ、兄に致命傷を移してしまった、愚かな子供を嘲笑った。


「……それにしても。こうして昔の話をしていると、自分から欠けている記憶があることを突き付けられるな」

「…………」

「運良く思い出せている状態のうちに、カルヴィーノの所に行ってくる。……それとセラノーヴァ、リカルドか」

「…………」

「なんてな。こうして声に出してみても、記憶が消されるときは消されるんだろうが」


 手帳などに文字にして書き留めても、いつのまにかそのメモごと見失ってしまう。レオナルドがそのまま診療所から出ようとした、そのときだった。


「……薬」

「ん?」


 診察机の振り返ると、背中を丸めて座ったカルロが、ぽつりと独白のように言う。


「効果。本物の休養には、到底及ばない」

「もちろん。ちゃんと休んでいるさ」


 平気な顔でついた嘘を、隠し通せているかはどうでもよかった。


(フランチェスカのためなら、壊れたってなんら構わないものだ。……俺の、唯一のひかり)


 心に焼き付いて消えない眩さを、レオナルドはいつも見詰めている。


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