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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

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294 遠回しな脅迫


 そのことに思い至ったのは、数ヶ月前にレオナルドにシナリオを説明するため、改めてゲームの情報を整理していたからだ。


『レオナルド。これ、ゲームに出て来た人たちの名前!』


 二枚の紙に、なるべく細かい内容を書き出した。そのうちの一枚が、主に人物周りの内容だ。


『イラストが出てないキャラクターのことも、出来る限り思い出してみたの。といっても、私が生きているうちに配信された五章までだけど……』


 ソファーの隣に座ったレオナルドは、フランチェスカが書いた字を愛おしそうに見詰める。


『カルロは名前が出ているだけで、まだ登場していなかったんだな』

『そうなの。ここに書いた通り、カルロさんはゲームでも、レオナルドの部下として登場するんだけど……』


 レオナルドと一緒にリストを覗き込み、下の方を指差した。


『この人たちも、ゲームのレオナルドの部下として名前が出てくるよ。知ってる人?』

『んー……』


 するとレオナルドは、ふっと柔らかな笑みを浮かべ、こう言ったのだ。


『……いずれ、紹介できる日が来るかもな』

(あのときの、レオナルドの表情……)


 クレスターニの屋敷で、実際の彼らを前にしたフランチェスカは、レオナルドが洗脳対策のために黙っていてくれたことに思い至る。


(カルロさんとは違って、この人たちはレオナルドの部下じゃなかったんだ。ゲーム通りの『黒幕』側で、レオナルドの敵……!)

「顔色も悪いし、心配ですね。部屋にお連れした方がいいのでは?」


 ここにいる三人の青年は、六章以降に登場するキャラクターなのだろう。

 それを認識するのと同時に、改めて不調を実感した。


(あたまいたい。きもちわるい。冷静に、ならなきゃ……)

「…………」


 思わずふらふらと近付いたのは、青年たちが下りてきた階段の方だ。

 折り返し式になっている階段は、吹き抜けとなっている空間に落ちないよう、手摺りが高く設けられている。フランチェスカはそこに身を伏せ、目を閉じた。


「ちょっと君、何やってんの。……大丈夫な訳?」

(クレスターニが、部下の情報を私に隠してない。記憶を消せるから平気だって思ってるだけ、なのかも、しれないけど)


 ルキノの問い掛けにもすぐに返せず、嫌な考えを押し殺そうとする。


(……まるで、私を『ここから逃がさない』っていう、遠回しな脅迫を受けてるみたい……)


 じわじわと首を絞められているような、そんな薄気味悪さを感じた。


(……駄目。これは当たり前に心理戦なんだって、覚悟しなきゃ)

「おーい。お嬢ちゃん?」

(だって相手は、レオナルドすら七年も追っていた黒幕だ)


 ゆっくりと目を開けると、フランチェスカの視界に入るのは、吹き抜けの空洞から見下ろせる下の階だ。その高さにも眩みそうになるものの、ぐっと両手に力を込める。


(クレスターニは、このまま私を追い詰めてくる。だから戦う。ひとつでも情報を手に入れて、レオナルドたちのところに帰る……)


 そう思いながらも、ふと目の前の光景に違和感を覚えた。


(あれ……この階段、なんだか)

「なあってば」

「!」


 不意に首根を掴まれて、手摺りから引き剥がされた。フランチェスカの顔を覗き込んできたのは、アロルドと呼ばれた、橙色の髪を持つ不良青年だ。


「ひょっとして、気絶しすぎて壊れたか?」

「…………っ」


 アロルドが笑うと、小さく尖った犬歯が見える。

 人懐っこいふりをしていても、瞳に宿る光は好戦的だ。そんなアロルドを見て顔を顰めたのは、緑髪の不機嫌そうな青年だった。


「ちっ、よくそんな子供に構っている暇があるものだ。時間の無駄だろうに」

「ひっでえ! ジュスト君は優しさってもんを知らなくて困るよなあ、ティーノ?」

「あはは。関わりたくないので、回答を拒否します」

(アロルドに、ジュスト。ティーノ)


 聞こえてくる名前を聞いて、やはりリストに書き出したキャラクターたちだと確信する。


(それぞれ自由な振る舞いをしているように見えても、この人たちの仕草は上品で、みんな高い教育を受けてるって分かる。絶対に、スキルを三つ持てる血筋の人だ)


 なるべく情報を集められるよう、警戒しながら注視する。


(みんな、カルロさんと同じくらいの年齢なのかな。……この国の人なら、カルロさんと学院の同級生だったり、するかも……)

「なあ。お嬢ちゃん」


 フランチェスカを揶揄うように、アロルドが笑った。


「脱出ならもう諦めな? このままクレスターニさまの物になるのが幸せだって、すぐに分かるよ」

「…………」

「ほら。親切なお兄さんたちが、部屋まで連れて帰ってやるから――」

「……大丈夫、です」


 フランチェスカはアロルドから目を逸らさず、なんとか言葉を振り絞った。


「だから、離して……」

「……ふーん?」


 にやっと笑ったアロルドが、フランチェスカから手を離す。彼から逃れたフランチェスカは、後ずさって再び手摺りを背にした。


「あはは、警戒する子猫みてえ。面白いな」

「子猫をいじめるのは良くないですよ、アロルド。……もっとも彼女は人間なので、ある程度の『教育』は可能ですよね」

「ちょっと、勝手な真似しないでくれる? 僕が監視してた子だ、横取りなんて……!」

「――待て」


 ジュストと呼ばれた緑髪の青年が、静かな声で制止する。


(……? どうしてみんな、静かに……)


 後ろ手に手摺りの柵を握ったフランチェスカは、浅く息をしながら顔を上げる。

 そして後ろを振り返り、上の階から下りて来た人物の姿に息を呑んだ。


「クレスターニ……」

「やあ。昨日ぶりだな」


 前髪で片目を隠した青年が、美しい笑顔で見下ろしてくる。


「下の階が賑やかだと思ったら、俺の『友人』と一緒だったのか」

「…………っ」

「君が退屈をしていたなら、ちょうどよかった」


 クレスターニはこちらに手を伸べて、底知れないまなざしを向けてくる。


「――俺とも遊ぼう。フランチェスカ」

(……逃げられない……)


 得体の知れない男を前に、フランチェスカは立ち尽くすのだった。




***

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― 新着の感想 ―
泣き顔マーク10個ぐらい付けたいぐらい泣きたい(フランチェスカが可哀想過ぎて)
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