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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

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293 青年たち



***




 それから、しばらく時間が経った頃。


「……気絶しすぎて、気持ち悪くなってきた……」

「馬鹿じゃないの?」


 何度目かの『罰則』を受けたフランチェスカは、口元を右手で押さえながらも、ふらふらと廊下に出た。

 ルキノは呆れた顔をして、それでもついてきてくれる。フランチェスカを部屋に留めておこうとしないのは、クレスターニの命令があるからなのだろう。


「逃げ道なんて無いって言ってるだろ。愚民って、学習しない生き物なのかな……ああ! ひょっとしてファレンツィオーネの国民性だったりして」

「ルキノ……」


 フランチェスカは吐き気に耐えつつ、なんとか隣国の王子を見遣った。


「そういうの、負けるフラグみたいになっちゃうから、よくないと思う……」

「は? フラグ……ってなに?」

「そんな言い方をしてると、立派な王さまになれないよってこと。うう、ふらふらする……」


 恐らくは、気絶してその前後の記憶が飛ぶだけの、単純な罰則ではないのだろう。


(それはそうだよね。クレスターニの支配に、無理やり逆らってるんだから)


 それでも今のフランチェスカに出来ることは、こうした地道な探索しかない。


(レオナルドやパパ、グラツィアーノもみんなも絶対に、私を探してくれてるもの。私はここで、私にしか出来ないことをする)


 深呼吸をして、背筋を正す。


(ぼんやりとだけど、この屋敷の全貌も見えてきたはず。結界自体は、すごく強力な物理スキルさえあれば、内側から壊せそうな気もするけど……とはいえ、クレスターニに逆らわない人か、洗脳で逆らえない人しか出入りしないんだもんね)


 フランチェスカは一度だけ窓を見遣り、すぐに視線を逸らした。


(ここはきっと四階建て、私の部屋があるのは二階だ。私が連れて行かれたクレスターニの執務室は一階で、エントランスに近付くと気を失う)


 出入り口に向かうと罰を受けるのは、単純な脱走対策だろう。強固な結界を張り続けている窓に比べて、扉にはある程度の緩みがあるらしい。


(扉に近付けないようにされてるのは、私以外の人がそこを使って出入りしてるからだ。クレスターニ側には転移スキルを持った人がいるはずだけど、全員がいつもそれを使ってここに来る訳じゃないみたい)


 そうなるとクレスターニ側の転移スキルは、複数人の転移が出来ないか、移動距離が限られているものかもしれない。


(とはいっても、そもそもここにやってくるのは、本当に少人数みたいだけど……)


 そんなことを言っている間に、ちょうどすぐ傍にある階段から、三人の青年たちが下りてきた。


(……あのお兄さんたち)


 顔触れの中に、クレスターニは居ない。

 けれども彼らは、先ほどクレスターニと対峙した際、フランチェスカに銃弾を撃ち込んできた面々である。それぞれに違う系統の美貌を持ち、二十代前半くらいの見た目をしていた。


「っ、はは!」


 揶揄うように笑ったのは、オレンジ色の長い髪を後ろに結った、少し柄の悪そうな青年だ。


「マジかよ、本当にずっとうろうろしてるんだな。お散歩が大好きなのか? お嬢ちゃん」

(元気な不良っぽい、怖いお兄さんだ!)


 続いて、ぴりぴりとした雰囲気を纏った緑髪の青年が、フランチェスカを静かに睨む。


「お前、くれぐれもあまり勝手な真似をするんじゃないぞ。……まったく、ボスの気まぐれにも困ったものだ」

(こっちは、神経質そうな怖いお兄さん……)


 じりっと後ずさったフランチェスカを前に、ふわふわしたクリーム色の髪の青年が、こんな風に微笑んだ。


「怯えさせてしまいましたよね? 彼らのことは私が叱っておきますので、どうかお許しを」

(優しく謝ってくれてるけど、この人さっき私の心臓を狙って撃ってきた、すっごく怖いお兄さんだ……!)


 クレスターニとの対面時は、そちらにばかり気を取られていた。

 けれどもここにいる青年たちは、明らかに幹部のような振る舞いだ。恐らくはルキノと同じく、クレスターニに洗脳された犠牲者ではなく、自ら望んで忠誠を誓った者たちだろう。


(クレスターニの信奉者。それが一気に三人も、登場するなんて……)


 オレンジ髪の青年が、面白そうに目を眇めてルキノに言う。


「ルチアーノ『さま』もご苦労なこったなあ。お前、自主的にお嬢ちゃんを見張ってくれてるんだって?」


 フランチェスカは驚いて、思わずルキノを振り返った。


(クレスターニの命令で、仕方なく付き合ってくれてるんじゃないの?)

「……クレスターニさまのお役に立つためなら、なんでもするさ」


 ルキノは物凄く不本意そうだ。

 あまり仲が良い訳ではないのか、青年たちをライバル視しているらしい。ルキノはオレンジ髪の青年を睨み付けて、挑発するように名前呼んだ。


「あんた達だってそうだろ? アロルド」

(…………あ)


 その瞬間、フランチェスカは思い出す。


「ああーーーーっ!!」

「!?」


 思わず叫んでしまった所為で、ルキノがますます嫌そうな顔をした。


「ちょっと、何!?」

「あははっ、お嬢さまの癖に声でっかい。どしたの?」


 アロルドと呼ばれた青年に見下ろされながら、フランチェスカは頭を抱える。


(この人たち……! 多分ゲームに名前だけ出てきた、『黒幕』側のキャラクターだ……!!)





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