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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

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286 捧げたもの

 頭の混乱を抑え込むべく、目を閉じて静かに切り替える。


(何が起きたか分からないなら、予測して対策を立てるしかない。きっと私は洗脳されて、クレスターニの傍にいる……クレスターニのスキルを、咄嗟に『変化』させた上で)


 まずは状況をそう仮定し、次に考えるべきことに移る。


(最優先は、無事に皆の所に帰ること。レオナルドの迎えが来ていない理由で、思い付くのは……)


 フランチェスカは、先程まで座っていたソファーに戻ると、ふかふかの座面に腰を下ろした。


(ひとつめ、『私が洗脳されてから、まだ数十分くらいしか時間が経っていない』こと……これは考えにくいかも。だって、知らないドレスと靴に着替えまでしてるし)


 せめて誰かに着替えさせられたのではなく、自分で着替えたことを祈るばかりだ。そうでなければすべてが解決した後、レオナルドや父が何をするか分からない。


(でも、私の爪の伸び具合……ここに来てから切った訳じゃないのなら、記憶にある長さと変わってない。日数が経っていたとしても、一日か二日くらいかも)


 そのことに、ひとまずはほっとする。


(ふたつめ、『私が結界の中に居るせいで、レオナルドから探せなくなっている』。これは十分に有り得そうだよね? それと最後は……)


 少々困った気分になって、フランチェスカは浅く息をついた。


(――洗脳中の私が、レオナルドのスキルを解除した可能性)


 レオナルドたちは、フランチェスカが洗脳された状況を、果たして察知しているだろうか。

 知られていても、知られていなくても、ひどく心配を掛けていることに変わりはないはずだ。


「ごめんね、レオナルド。……ごめんなさい、パパ。グラツィアーノ」


 前世の記憶を取り戻したあとも、届かない謝罪を祖父に紡いだ。


(お祖父ちゃんに、死んじゃったことを謝った日を思い出すな。……それでも、あの時よりはずっと良い)


 元気を出して、自分自身にそう言い聞かせる。


(今世の私はまだ生きてる。取り返しのつかない結果になる前に、今度こそ帰らなきゃ!)


 レオナルドが掛けてくれたスキルについて、フランチェスカはおおよそ聞いている。

 監視や追跡、特定の条件下で音声を届けるものなど、十数個のスキルが守ってくれていた。フランチェスカからそれを解除する方法も知っているのだが、問題があるのだ。


(私自身からは、レオナルドのスキルが今も有効なのか、無効になっているのかも分からない。洗脳中の私が解除しちゃってるかどうか、確かめようがないんだよね……)


 追跡スキルが有効なら、無理やり結界を突破すれば、レオナルドに居場所を届けられる。

 だが、もしもそれが無駄足に終わる場合、事態は悪化するだろう。


(だけど、私にはもうひとつ希望がある)


 それを思い、ソファーの肘掛けをぎゅっと握り込んだ。


(レオナルドが私に掛けたのは、レオナルドが洗脳されたときの危険を考えて、私から解除できるものばかり。……でも、レオナルドのことだもの)


 俯いて、見知らぬ靴を履いた自分の足先を見据える。


(きっと他にも、私にスキルを掛けてくれてる。私も存在を知らないけれど、レオナルドと私のどっちが洗脳されたとしても有効な、そんなスキルを)


 そうやって、心からレオナルドを信じられるのだ。


(……すごいなあ。レオナルドは)


 やさしい声と微笑みを思い出し、フランチェスカもくちびるを綻ばせた。


(思い出すだけで、心がじんわり暖かい。……よし、頑張ろう!!)


 両手の拳をぐっと握り、気合を入れて頭上に掲げた。


(まずは『話し合い』かな。窓硝子を割ろうとしたんだもん、そろそろ……)


 フランチェスカが推測した、ちょうどそのときだ。


「――入るよ」


 おざなりなノックのすぐ後に、返事も待たず扉が開く。

 そこに立っていたのは、水色掛かった銀の髪を持ち、不機嫌そうな顔をした少年だ。


「ルキノ!」

「…………」


 フランチェスカが大きな声でそう呼べば、美しい少年は顔を顰め、ますます不快感を露わにする。

 この少年は、隣国の王子『ルチアーノ』であり、洗脳とは無関係にクレスターニを崇拝する信奉者だ。


「やっぱりここは、クレスターニの拠点なんだね」


 フランチェスカがそう確かめると、ルキノはそれに答えるのではなく、なんだか不思議なことを言った。


「……君、戻ったんだ」

「もどった?」


 これは一体、どういう意味だろうか。


「あ……もしかして、自分の意思が? 戻ったよ、戻った! ほら」


 両手でガッツポーズを作って主張するものの、内心では警戒を続けている。


(とはいっても、私が自分の意思を取り戻していられるのは、きっと一時的なものだ)


 そのことを、フランチェスカは理解していた。


(これまで洗脳されていた人たちもみんな、クレスターニに支配されていない時間は、その人の意思に戻って行動してたもの。私はまだ、洗脳状態から逃げられた訳じゃない)

「可哀想だね。クレスターニさまの駒で居られる時間の方が、きっと幸せだったのに」


 表情を曇らせたフランチェスカには言及せず、ルキノはふっと暗い笑みを浮かべる。


「もっとも、あのお方に自ら人生を捧げた僕の幸福には、到底及ばないだろうけれど」

「……幸福……」


 大聖堂の地下で尋ねられなかったことを、フランチェスカは切り出した。


「ヴェントリカントの王太子であるあなたが、どうしてクレスターニに聖樹を渡したの? それが国を明け渡すことになるって、分かっているはずなのに」

「聞きたい?」


 フランチェスカを見下すように笑ったルキノが、人差し指をくちびるの前に立てる。


「教えてあげない」

「…………」


 明確な拒絶を示したルキノが、続いて窓へと目を向けた。


「そんなことよりも君、何やったの? 結界がすごい反応したって」

「窓硝子、靴の踵で割れないか試したの。こういうときの弁償用に、日頃からお小遣いを貯めてるのになあ」

「は?」

「誘拐されるの、ずーっと前から慣れてるから……」


 訳が分からないという顔をしたルキノが、はあっと深く息を吐いた。


「まあいいや。それじゃ、連れて行くからさっさと立って」

「? 行くって、まさか」


 瞬きをしたフランチェスカを見下ろして、ルキノがふっと嘲笑を浮かべる。


「お待ちかね。――クレスターニさまへの、お目通りだよ」



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― 新着の感想 ―
「監視」とか「追跡」とか、普通だったら守るためだとしても抵抗あるのに、フランチェスカちゃんはレオナルドを信頼して当然のように受け入れてるの、とても好き。
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