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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第4部 知勇兼備の生徒会長〜

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279 「フランチェスカ」(第4部・完)




***




「――フランチェスカ?」


 賢者の書架を訪れたレオナルドは、こつりと靴音を鳴らして辺りを見回した。


(確かにここには、フランチェスカの気配がある)


 フランチェスカがここに来たらしきことは、とあるスキルによる情報収集で分かっていた。

 フランチェスカも同意の上で、彼女を守るために掛けているスキルだ。だからこそ、レオナルドが不在のときにここに来ていることが、レオナルドには少々意外だった。


(……俺に隠したいはずの調べ物を、どうして偽装せず行なっている?)


 王城への訪問を終えたレオナルドは、そのまま真っ直ぐにこちらへ足を運んだ。


(あの本を、目にしてしまったかな)


 約束の時間にはまだ早いが、フランチェスカを迎えに来るには十分な理由が、ここにある一冊に記載されている。


(やはり、この図書館ごと燃やし尽くせばよかった。まあ、それを試すだけ無駄なんだろうが)


 そんなことを考えながら、ふと気が付く。


「んん……」


 暖炉の前にある長椅子で、探していた女の子が眠り込んでいた。

 僅かに息を呑むものの、眠っているだけだと分かって息を吐く。見たところ、彼女の手近に本がある様子はない。


「……風邪を引くぞ。フランチェスカ」


 探し疲れて、ここで休んでいたのだろうか。

 レオナルドは彼女の傍らに膝を突き、そっと頬を撫でる。


「……レオナルド……?」

「ああ。おはよう」


 本当は、このままフランチェスカを連れ出したかった。

 ロンバルディ家に与えられた入館証は、一度限りの特例用だろう。とはいえ、そうした小手先でフランチェスカを阻もうとしても、きっと必ず破られる。


「探し物か? だったら俺も、手伝おう」

「…………わたし」

「君がこの場所に望むものを、俺に教えて」


 そうやさしく問い掛けながらも、本当は分かっていたのだ。


(俺は君から、その全てを――……)


 そのときだった。


(……これは)


 赤い絨毯に、同じく赤い宝石の破片が落ちていた。

 レオナルドがそれに気が付くのと同時、ゆっくりと身を起こしたフランチェスカが、レオナルドの(おとがい)を手で掬う。


「……レオナルド」

「――――!」


 そして、レオナルドに口付けをしようとした。


「…………っ」


 思わず目を見開いて、フランチェスカの華奢な手首を掴む。強い力で引き剥がすと、キスを止められたフランチェスカが、ほんの小さな声を上げた。


「あ……」


 空の色をしたフランチェスカの双眸が、傷付いたように揺れる。


「ご……ごめん、レオナルド」

「……フランチェスカ」

「ごめんね。……いきなりキスをするなんて、嫌だったよね……」

「…………」


 泣きそうな声で告げられた謝罪に、レオナルドは微笑んだ。


「フランチェスカから贈られるものを、俺が拒むはずもないだろう?」


 レオナルドの耳元に輝くのは、漆黒の中に星のような光を放つ、美しい石のピアスだった。


 フランチェスカに贈った耳飾りの黒薔薇と、同じ原石を使ったものだ。

 そしてフランチェスカの愛らしい耳には、赤と黒の薔薇がそれぞれに据えられた、レオナルドの独占欲の象徴が揺れている。


「レオナルド。なら、どうして……」

「その相手が、間違いなく俺のフランチェスカなのであればな。……生憎だが」


 手首を掴む力を緩めないまま、けれども決して痣にはしないように、レオナルドは笑った。


「――クレスターニに洗脳された状態の『お前』は、フランチェスカじゃない」

「…………ふ」


 目の前にいる『フランチェスカ』は、レオナルドが見たことがないほど妖艶で、心底から楽しそうな表情を作る。


「ふふふ。……ふふっ、ふふふ、あはは!」


 ころころと笑い、小首を傾げて、レオナルドの顔を覗き込んで。

 けれどもそこに、あの透き通った光のような明るさは、存在しない。


「……レオナルドって、本当に『私』のことを好きでいてくれるんだね」


 レオナルドが離してやった手を、フランチェスカは優雅に引いた。


「たとえ洗脳に気付いていたって、何も言わなければ良かったのに」


 その上で、仕草だけは可愛らしく首を傾げ、悪女そのものの美しい笑みを絶やさない。


「そうすれば、あなたの可愛いフランチェスカとして、なんでもしてあげたかもしれないんだよ?」

「へえ。なるほどな」


 本物のフランチェスカであれば、絶対に口にしない言葉だった。


「たとえ同じ外見と声であっても、精神がフランチェスカではないというだけで、こうまで別物になるらしい」


 すると、フランチェスカは長椅子から立ち上がる。


「もうお終い。私、クレスターニさまの所に行かないといけないの」

「…………」

「ふふ。私のこと、今のうちにここで殺しておく?」


 太陽のような微笑みを浮かべて、何処か無邪気な声が言う。


「あなたとこうして敵対している時点で、それはあなたの可愛い『私』じゃないもんね」

「……まったく。記憶だけは本物を使っているんだから、性質が悪いな」

「たとえこう告げたって、あなたがそれを遂行することはない。私がどれだけあなたのことを、すごく上手に傷付けて、壊すことが出来たとしても、あなたは私を殺せな……」


 レオナルドは彼女に手を伸ばし、先ほどとは反対におとがいを掴んだ。


「――『お前』の計画は、上手くいかない」

「……っ?」


 フランチェスカが、ほんの僅かに顔を顰める。


「俺は、フランチェスカではない人間に、傷付けられたりはしないよ」

「……うそつき」

「ははっ」


 声と見た目だけは可愛らしい彼女に、レオナルドはやさしく微笑みを向けた。


「殺そうとしてあげられなくてごめんな。『フランチェスカ』」

「…………」


 レオナルドは、世界で唯一の美しい光が、どんな少女であるかを知っている。


「なにしろ『君』が、黙ってクレスターニに洗脳されるはずがない」


 フランチェスカに、これとまったく同様のことを告げられた。


『――レオナルドが、黙ってクレスターニに洗脳されるはずがないよ!』

『だって、レオナルドだもん。誰にも負けない』


 あのときの彼女が、どんな想いでこれを口にしたのか、いまのレオナルドにはよく分かった。


『もしもレオナルドが洗脳されたとしたら、それは何か作戦があって、敢えてそうしてる時だけじゃないかな?』


 レオナルドのことを、真っ直ぐに信じてくれている声が、いまもはっきりと思い出せる。


「君は、その気高い精神を黙って明け渡すような女の子じゃない。何か目的があって、これを選んだ」

「何言ってるの。そんな訳、ないでしょ……」

「俺が、君を諦めることはない。君の強さが、クレスターニに負けるはずはないんだからな」


 口付けが出来そうなほどに覗き込んで、その空色の瞳を見詰める。


「そうだろう?」


 こうして今、レオナルドを睨み付けている彼女にではない。

 その奥に眠っているはずのフランチェスカに向けて、レオナルドは告げた。


「――俺の、可愛いフランチェスカ」

「…………っ」


 ぱしっと手を払い除けられて、レオナルドはくくっと喉を鳴らす。


「俺は必ずフランチェスカを取り戻す。それまでは、そうだな」


 本物のフランチェスカには見せたことのない表情で、笑って告げた。


「敵同士。……ゲームとやらの再現で、遊んでみようか?」

「…………」


 少女の強い瞳が、レオナルドを真っ直ぐに見据えていた。


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『悪党一家の愛娘』第4部:完


           →第5部へ続く

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― 新着の感想 ―
どういうこと?!と、頭が真っ白になりました! 予想してなかった展開すぎる!!! まさか、まさか! とりあえず、四章をもう一回最初から読んできます!
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