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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第4部 知勇兼備の生徒会長〜

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275 誓いを立てる


 その結果、こうしてまた、レオナルドを助けてもらうことになってしまった。


「それと、エリゼオは?」

「地上に上がった。ダヴィードのスキルを解除するように伝えさせたが、たったいま聖樹も本物に戻ったようだ」


 その言葉に、フランチェスカははっとする。


「よかった。……この国の聖樹、守れたね」


 フランチェスカたちを見下ろしているのは、根元に黒い穢れの生じた、数日前と変わらない聖樹の姿だ。


「ルキノの剣でついた傷、大丈夫だったかな?」

「単純な外傷は、聖樹の治癒力で戻るようになっているみたいだ。君が寝ている間、試しにナイフで切ってみたが、すぐに塞がった」

「さり気なくとんでもないことしてる!!」

「まあ、問題は無いさ」


 フランチェスカから身を離したレオナルドが、手のひらを見せてくれる。

 そこには、一粒の宝石が輝いていた。


「ミストレアルの輝石。持って来てたの?」

「さっさと儀式を終わらせて、君を暖かい場所に帰さないとな」


 その言葉に、フランチェスカは頷いた。


「ありがとう。レオナルド」


 レオナルドに助けてもらいながら立ち上がると、聖樹の前に向き直る。

 すると小さな光の欠片たちが、ゆっくりと舞うように降りてきた。聖樹の花だと教えられたそれは、やはりこうして見上げていると、淡く輝く雪にも見えるのだ。


「――聖樹を清めるための儀式には、どうして『花嫁』が必要なんだろう?」


 フランチェスカは白い息をひとつ吐き、光の雪を見上げた。

 すると、傍らに跪いたレオナルドが、ドレスの裾を綺麗に払ってくれる。


「俺が読んだことのある、いくつかの本には」


 レオナルドは立ち上がり、自身の膝も軽く払って、それからフランチェスカを見下ろした。


「愛を知る者しか、王になるべきではないからだと書かれていた」

「愛?」


 ぱちりとひとつ瞬きをして、フランチェスカは金色の瞳を見詰める。


「――自身が幸福でなくとも、他人の幸せを願える人間」


 レオナルドは上着の内側に手を差し入れると、そこから美しい短剣を取り出す。


「自身が満たされていなくとも、他人が満たされることを願える。それが妃や想い人でなくとも構わない、ともあれ愛を知っている者のみが、王になれと……」


 鞘を抜き、刃を聖樹の光に当てて確かめたレオナルドは、柄の方をフランチェスカに差し出した。


「かつて神とやらが、そう説いた。馬鹿馬鹿しいが、それが聖樹の言い伝えだ」

「……だからこの世界の人たちは、聖樹を清めるこの儀式に、結婚式を揃えたんだね」


 フランチェスカは短剣を受け取って、それを見下ろす。

 レオナルドはまるであやすように、フランチェスカへと笑い掛けた。


「聖樹を清める方法は、聖樹を穢す方法とよく似ているな」

「…………」


 彼はきっと、フランチェスカの緊張なんて、すべてお見通しなのだろう。


「俺の血を、ミストレアルの輝石に落とす。すると輝石はそれに反応して、一時的に剣の形へと変化するはずだ」

「……うん」

「その剣を、聖樹の穢れに突き立てる」


 誓約に血を用いることは、裏社会での約束にも使われる。

 ひょっとしたらそれも、聖夜の儀式が始まりなのかもしれない。


「君はこの儀式が始まる前に、一通りの祝福を受けたんだろう?」

「うん。聖夜の儀式に必要な司教さまのスキルだって、教えてもらったよ」

「なら、俺の花嫁」


 レオナルドが、フランチェスカの髪をやさしく撫でる。


「俺の手に口付けたあと、短剣で傷を付けてくれ」

「…………」


 フランチェスカが口を噤むと、レオナルドは宥めるように笑った。


「大丈夫だよ。フランチェスカ」


 レオナルドは、フランチェスカを宥めるように笑った。


「司教も言ってただろ? 指先のキスは、演技で良い――つまり、省略しても構わない。幸い、他には誰も見ていないしな」

「……キスの方が怖い訳じゃないって、分かってて言ってる……」

「ははっ」


 拗ねた口ぶりになってしまった所為か、レオナルドは可笑しそうに笑った。だが、フランチェスカにとっては一大事だ。


「儀式でも、司教さまの治癒スキルですぐに治せるんだとしても、レオナルドに怪我をさせたくないの」

「…………」


 ゲームの主人公は、短剣でエリゼオの指を傷付けることにひどく躊躇いを感じていた。だが、フランチェスカも同じ心境だ。


「いいよ。フランチェスカ」

「!」


 フランチェスカを、やさしい声が促した。


「君に傷を付けられたとしても、痛みなんか感じない。……どれほど痛くても、構わない」

「……レオナルド」


 レオナルドはそっと手を伸ばすと、フランチェスカの耳に揺れる飾りへと触れる。


「温かくて眩しい、俺のひかり」

「…………っ」


 滑り降りた指が、今度はおとがいを掴んで上げさせた。

 くちびるにキスをするときのように、フランチェスカのことを間近に見下ろして、レオナルドは目を細める。


「……俺の可愛い、フランチェスカ」


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