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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第4部 知勇兼備の生徒会長〜

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273 覆る


 エリゼオが予知をし、レオナルドが攻撃を防ぐ度に、フランチェスカはエリゼオのスキルを強化する。

 ドレスを彩る宝石が砕け散る中、それをルキノ側には気付かれないように振る舞いながら、フランチェスカは動きを注視した。


「くそ……」

(ルキノが消耗してる。だけどこっちも、スキル強化は十段階まで)


 ルキノが自身を傷付けたことで、やはり氷の制御が乱れているようだ。エリゼオとしても何度か未来視を重ねたいようだが、そうはいかない。


(レオナルドからの合図がない。『時間稼ぎ』はまだ必要……ルキノに、攻撃を休ませるには)


 フランチェスカの考えを読んでいたかのように、エリゼオが口を開いた。


「君がなんだかおかしいことは、最初から気が付いていたんだよ。ルキノ君」


 その言葉に、ルキノが眉根を寄せる。


「隣国からの王子殿下が留学してくるのは、次の春だとお聞きしていた」

(春。ゲーム六章のシナリオ設定と、同じ季節だ)

「それなのに、こんなにも予定が変わるなんてね。クレスターニは君のお父君――ヴェントリカントの国王陛下に、一体何を吹き込んだのかな」


 ルキノが露骨な舌打ちをして、ますます顔を歪めた。


「人の父親について、考えてる場合? 自分の祖父に冤罪を背負わせて、策略のために牢獄にぶち込んだ癖に……その策略に、国王すらも巻き込んで」

「だって、そのくらいはしておかないと」


 エリゼオは、軽く握った手を口元に当ててくすくすと笑う。

 その上で目を細め、何処か妖艶な笑顔を浮かべて、ぞくりとするほど美しく言い放った。


「――隣国の王族たちを、洗脳無しで丸ごと信奉者にしてしまっているクレスターニには、とても勝てないよね」

「……うるさい……」


 俯いたルキノが、ぐっと両手を握り締める。


「クレスターニさまのことを、詐欺師のように言うな……!!」


 そして血まみれの右手を挙げ、手にしていた小瓶を頭上に掲げた。

 その中に揺れる赤い液体に、フランチェスカは身構える。


(あの小瓶。やっぱり、中身は血が入ってる……!)

「この聖樹がクレスターニさまへの献上品だからって、最低限の傷だけで済ませる必要はなかったんだ。再起不能にならない程度に、ずたずたに壊してしまえばいい」


 中にあるのは、恐らくルキノの血ではない。


(ルキノの目的は、ただ聖樹を傷付けることじゃない。聖樹に付けた傷に、あの血を……)

「……来るよ」


 エリゼオが少しだけ低い声で、レオナルドに伝えようとした。


「レオナルド君。次の一撃は、防ぐのが少し難しいかもしれない」

(どうしよう)


 エリゼオは、レオナルドのスキルについて正確な情報を持っている訳ではない。

 そのためレオナルドの弱点は、フランチェスカだけが知っている。彼の『奪う』スキルは、死者のスキルを使用できる代償として、高い負荷が掛かるのだ。


(レオナルドは弱味を見せようとしない。だけど、ルキノを通してクレスターニにバレちゃう可能性もある。レオナルドにも、これ以上は……)


 フランチェスカがくちびるを結んだ、そのときだった。


「フランチェスカ。それとエリゼオ」


 いつもと変わらない軽やかな声音で、レオナルドが笑う。


「準備は成った。――後はもう、王子さまの好きにさせてやろう」

「!」


 そのとき、宙に出現した無数の剣が、一斉に聖樹へと襲い掛かった。


「フランチェスカ、こっちへ」


 レオナルドがフランチェスカを抱き寄せる。けれども目を逸らしたくはなくて、その腕の中で聖樹を振り返った。

 そして、飛び込んできた光景に息を呑む。


「…………っ」


 ほのかに光る大樹の幹に、いくつもの氷が突き刺さっていた。


「っ、はは……」


 その中央で砕けた瓶から、ゆっくりと血が伝ってゆく。木の傷口に染み込んだそれは赤黒く、とても嫌な色をしていた。


「やった」


 ルキノが嬉しそうに、顔を歪める。


「いいぞ、クレスターニさまの血を吸え、ファレンツィオーネ国の聖樹……!」

「…………」

「あはっ、ははは、見たかお前たち!! この国の聖樹はこれで、あのお方の物になるんだ!!」


 血まみれの両手を広げたルキノを前に、フランチェスカは眉根を寄せた。


「聖樹の性質を発動させろ!! 僕たちの国の聖樹のように、クレスターニさまに従……っ」


 違和感に気が付いたらしきルキノが、そこでぴたりと声を止める。


「……なんでだ?」


 改めて、やはりルキノは洗脳されていない。

 こんなとき、すぐさま冷静さを取り戻し、状況に疑問を持てるからだ。けれども今はそのことが、却って虚しく感じられた。


「どうして静まり返っている? 聖樹は人の血に反応して、強制的に穢せるはず……」

「教えてやろうか。王子さま」

「!!」


 小さく笑ったレオナルドが、次のスキルを発動させた。


「うあ……!」


 地面から飛び出した無数の蔦が、ルキノの手足に絡み付く。それによって引き倒されたルキノが、苦しそうに地面へと膝をついた。


「捕、まえ、た。……っと!」

「……っ」


 軽い足取りで踏み出したレオナルドが、その靴の先でルキノの顎を上げさせる。


「はは」


 そして、絶対的な強者の微笑みを浮かべて告げるのだ。


「王族を足元に這いつくばらせるって、こんな気分なのか」

「触るな……!」


 ルキノの言葉など聞く素振りもなく、レオナルドは少し首を傾ける。


「生憎、お前が見ている聖樹は『偽物』だ」

「っ、はあ……!?」


 レオナルドの言葉が信じられないとでも言うように、ルキノが声を上げた。


「有り得ない。大聖堂の地下空間に、聖樹の偽物なんて生成できる訳が……」

「ここにある聖樹は、穢れひとつない美しいものだろう?」


 レオナルドは何処か楽しそうな様子で、ルキノへ念入りに言い聞かせた。


「だが、この国にある『本物』の聖樹はちゃんと穢れている。それを清めるための、聖夜の儀式だ」

「……っ」

「そんな最低限すら習っていないのか? 王子さま」


 聖樹については、まさしくレオナルドの言う通りだ。


(私たちが地下に落ちたあと、ここで本物の聖樹を見た。根っこのところが黒く澱んだ、この国の聖樹)


 もっともレオナルドの言葉にも、いくつかの嘘が紛れ込んでいる。


(この聖樹はまるっきり偽物な訳じゃない。ルキノの言う通り、地下にある本物の聖樹を隠して、偽物とすり替えるなんて出来ないから)


 フランチェスカがこの作戦を提案したとき、レオナルドはいつも通りに笑っていて、エリゼオはとても驚いていた。


(ここにあるのは、『本物から少し性質を変えて、一時的に偽物化した』聖樹だ。……ミストレアルの輝石みたいに、ダヴィードのスキルで作り出した……)


 フランチェスカはいつだって、たくさんの人に助けられている。

 いつも守ってくれるレオナルドや、協力してくれたダヴィードだけではない。大聖堂のスキル使用制限を、数日前に密かに解除してくれたルカにも、もっと多くの人にもだ。


(私は、ひとりじゃ戦えない)


 だからこそ、心から願っている。

 レオナルドにも、他の誰であろうとも、たったひとりで戦わないでほしかった。


「聖夜の儀式で大人数が出入りする中、聖樹の周りに警備すらいないなんて、おかしいと思わなかったのか?」

「……神聖な儀式を穢さないよう、聖樹の傍には武力を持ち込まないのが、慣例だろ……!」

「ああ、他国はそうかもな。だがこの国は、そんな慣例なんて素知らぬ顔で破ってしまえる『悪党』が、国王の臣下として裏に居る」

「…………っ」


 フランチェスカは最後の望みを掛けて、ルキノに告げる。


「ルキノ。私たちと、話をしてほしい」

「…………」


 けれどもそれは、あっさりと拒絶されるのだ。


「……あんたたちみんな、気持ち悪いんだよ……」


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挿絵(By みてみん)


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