262 たいせつ
本日4/3はレオナルドの誕生日、4/6はフランチェスカの誕生日です!
「レオナルドが守ってくれたから、あの地下でも寒くなかったよ。痛い思いも、怖い思いもしなかった」
「…………」
フランチェスカが怪我のひとつもなく、こうして呼吸をしていられるのも、レオナルドが傍に居たからこそだ。
「レオナルドは、私のことをずっと守ってくれる。どんなときも、私を一番に考えて、何よりも優先してくれて」
それはもちろん、今日だけではない。
燃え盛る屋敷の中でも、土砂降りの雨の中であっても、暴力と罵声のさなかでも。レオナルドは自身の犠牲を厭わずに、フランチェスカを助けてくれた。
「……君のことを大切にしたいから、そうしているだけだ」
「それなら」
彼から少し身を離して、フランチェスカは金色を見据える。
「――私がレオナルドを大切にすることも、許してくれる?」
「!」
満月の色をしたその瞳が、知らない言葉に触れたかのように見開かれた。
「レオナルドがとっても強い人だって、ちゃんと知ってる。……だからこそ目的のためになら、自分を傷付けながらでも、平気な顔をして進んで行くよね」
それがたとえ、茨で出来た道であろうとも、笑って踏み出してしまうのだろう。
「本当は、悲しいことも怖いことも、レオナルドにはたくさんあるのに」
「…………俺は」
幻覚の兄と対峙して、きっとそれでも笑ったはずだ。
そんなレオナルドの姿を想像するだけで、泣きたいくらいに苦しくなる。だから、想いを込めて口にした。
「レオナルドのことが、大切なの」
「……っ」
僅かに息を詰めたレオナルドの頬を、フランチェスカは両手でそうっと包む。
「だから、私もレオナルドを守りたいんだ」
「…………」
「寒いところから連れ出して、幸せな場所に居させてあげたい。この気持ちは、今はまだ、『恋』って言い切れないものかもしれないけれど……」
右手をレオナルドから離した代わりに、それを自らの左胸に当てる。
「これからどんどん、レオナルドが私に抱いてくれている感情と、近くなっていく気がするの」
「……フランチェスカ」
自身の鼓動を確かめながら、フランチェスカは目を眇めた。
「笑ってほしい。悲しませたくない。私がそれを手伝えるなら、なんだってしたいな」
金色の瞳を見上げながら、レオナルドに告げる。
「だから、レオナルドを大事にさせて」
微笑んで、それから少し首をかしげた。
「……この『愛おしい』は、レオナルドとおんなじ?」
「…………」
その瞬間、レオナルドが再びフランチェスカを抱き寄せて、その腕の中へと閉じ込める。
「っ、レオナルド……?」
強い力に驚いてしまう。
先ほどくれた抱擁とは違う、なんだか拘束にすら感じるほどのやり方で、それでも声音はとてもやさしい。
「ああ」
頬を擦り寄せるようにくっつけて、触れ方で『大切』を伝えるかのように、レオナルドが頷いてくれた。
「おんなじだよ。フランチェスカ」
「…………」
その言葉に、なんだか胸がいっぱいになる。
「『好き』の気持ちが分かるまで、もうちょっとだけ待っててね」
レオナルドの頭をもう一度撫でて、フランチェスカは誓いを告げた。
「その代わり、私はこの先の未来で絶対に、レオナルドの傍に居るから」
「――――……」
父が、かつて母に願ったことを思い出しながら、改めての約束を重ねる。
すると、レオナルドは柔らかに尋ねてきた。
「……やくそく?」
やはり幼な子のような問い掛けに、「うん」と小さく頷く。
「約束するよ。レオナルド」
「…………」
レオナルドが静かに目を閉じたのが、気配で分かった。
だからフランチェスカは、レオナルドの気が済むまでいつまでも、彼の腕の中に閉じ込められたままでいる。
「――俺の、フランチェスカ」
その言葉は、ひとつの祈りにすら似ているのだった。
***
レオナルドに手を繋いでもらいながら、一段ずつ螺旋階段を降りていく。昼間はひとつの観光地として賑わうこの場所も、真夜中は静まり返っていた。
「……だけど、どうして時計塔だったの?」
「ん?」
数段先を下っているレオナルドが、やさしくフランチェスカを振り返った。
「意外だなあって思って。レオナルドは、私と色んな場所に行ってくれるけれど……」
話しながら吐き出す息は、お互いに白い。
「いつものレオナルドなら、冬の夜中に、私を外に連れ出すことはしないから」
「…………」
レオナルドが、くちびるをそっと微笑ませる。
「さすがは俺のフランチェスカだ。……君にあの景色を見せたかったのは、本心だが」
「もちろん、それは分かってるよ! だけど、他にも理由があるんじゃない?」
最下段を降り切って、出口へと繋がる扉の前で、レオナルドを見上げた。
「――人目の無い所でしたいこと、とか」
「ははっ」
レオナルドは何故か嬉しそうに、人懐っこく見える笑みを浮かべる。
「愛おしいフランチェスカ。君と居ると、本当に退屈しないな」
「……この気配」
「君も聞きたいだろうと思って。今度は、ちゃんと暖かい場所で話そう」
レオナルドの大きな手が、木で出来た扉を押し開く。
冷たい風が吹き込んでくるも、レオナルドに守られて平気だった。ゆっくりと目を開けたフランチェスカは、そこに立っていた人物の姿に驚く。
「ルキノ……君」
「…………」
隣国の王子であり、ゲーム六章で行動を共にするキャラクターのルキノが、不機嫌そうな顔で雪道に立って居た。
だが、フランチェスカにとって想定外だったのは、ゲームでの味方キャラクターとなるルキノが、『フランチェスカ』の前に現れたことだけではない。
「あなたは……」
「……こんばんは」
さらさらとした茶髪を丸く切り揃えた男の子が、フランチェスカたちに挨拶をする。
ルキノの傍らで一礼したのは、今日の『予行練習』で司教ラディエルの傍に居た、小間使いの少年だった。
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