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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第4部 知勇兼備の生徒会長〜

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261 いい子

「全然お見通しなんかじゃないよ。地下でレオナルドが戻ってきてくれたとき、もっとしっかり話を聞いておけばよかった……」

「ははっ。大丈夫、どれほど精巧な『兄貴』が出てきたところで……」


 レオナルドは、フランチェスカの耳元にくちびるを寄せる。


「――また同じ手を使われても、ちゃんと殺せる」

「…………っ」


 それは、誓いに似た響きを帯びていた。


「……そんなこと、平気にならなくて良いんだよ……」


 亡くしてしまった人の幻覚に、一体どんな想いの中で、レオナルドは武器を向けたのだろう。


「君が居てくれればそれでいいんだ。フランチェスカ」


 少しだけ体が離されて、レオナルドがフランチェスカを見下ろした。


「俺の、唯一のひかり」

「……レオナルド……」


 レオナルドの大きな手が、大切そうに頬を撫でてくれる。

 だから、フランチェスカは口を開いた。


「あのね、レオナルド」

「!」


 今度はフランチェスカ自身の意思で、レオナルドの手を頬へと押し当てる。


「今あなたの前に居る私は、ちゃんとあったかいよ」

「……フランチェスカ?」


 ずっと前、夏休みに訪れた森の中で、フランチェスカはレオナルドを不安にさせてしまった。

 危険なことに身を投じて、崖から落ち、彼に助けてもらったのだ。


 あのとき雨の降るさなか、フランチェスカを抱き締めてレオナルドが確かめたことを、口にする。


「自分の意思で動いてる。ここで生きてて、息をしてる」

「…………」


 今度はレオナルドの手をくるんで、はあっと温かい息を吐き掛ける。

 その指をフランチェスカの両手で閉じ込めて、冷たい世界から断絶するように、やさしく包んでレオナルドを見上げた。


 そうすると、真っ直ぐに視線が交わるのだ。


(満月みたいな、やさしい色の瞳)


 それを間近に見上げたフランチェスカは、もっとその金色の瞳が見たくて、レオナルドの後ろ頭に手を添えた。


「レオナルドの傍に、いるからね」

「…………」


 そのまま、少し背伸びをしようとしてみる。

 少しでも、レオナルドに近付きたかったからだ。レオナルドの顔を覗き込むようにして、触れそうな距離でじっと見詰める。


 すると、レオナルドがフランチェスカのおとがいを掬い、彼の方へと引き寄せた。


「…………!」


 お互いのくちびるが、触れそうになる。


「……っ、レオ……」

「…………」


 きっと、レオナルドはキスをしようとしていた。

 それでも寸前でそれが止まる。お互いのくちびるが触れそうな距離で、レオナルドは自分の行動に驚いたかのように、ひとつ瞬きをした。


「………………今のは」

「?」


 フランチェスカが首を傾げると、レオナルドは僅かに眉を顰めた。

 そのあとにフランチェスカから離れると、自身の目元に手の甲を押し当てて、深く息をつく。


「……ごめん」

「ど、どうしたの? レオナルド」

「…………」


 レオナルドは、珍しい溜め息をついたあとに、ばつが悪そうな声音で言うのだ。


「…………君へのキスを我慢するのを、失敗してしまう所だった」

「――――……」


 考えてもみなかった発言に、フランチェスカは目を丸くする。

 そのあとで、なんだか可笑しくなってきて、口元に手を当てて身を震わせた。


「……ふふっ」


 けれど、どうしても抑え込めそうもない。


「ふふふ。……ふ、あははっ!」

「……君なあ」

「ご、ごめん! だけど、レオナルドがそんな風に恥ずかしそうにしてる顔、初めて見たから」


 悪戯心が湧いてしまい、フランチェスカは頬を綻ばせる。


「……ちょっとだけ、お耳が赤いね」

「…………っ」


 つん、とその耳を触ってみると、レオナルドはくすぐったそうに片目を眇めた。


「……お気に召したなら何よりだ。これ以上無様なところを見せないように、もう一度抱き締めて塞いでしまおう」

「あはははっ、ごめんってば!」


 ぎゅうぎゅうと抱き寄せてくるレオナルドから逃げながらも、フランチェスカは何処かで安堵する。


(よかった。幻覚を、少しでも忘れさせることが出来たみたい)


 そのことが、彼の声音から察せられた。


「レオナルドはいつも、私を可愛いって言ってくれるけど……」


 まだくすくすと笑いながら、レオナルドを見上げる。


「レオナルドだって、すごく可愛いよ?」

「……本当に、君には、敵わないな……」


 こんなレオナルドは、やっぱりすごく珍しい。

 だから、フランチェスカは両手を伸ばし、ぎゅうっと彼を抱き締めた。


「可愛いレオナルド。……いい子、いい子」

「……フランチェスカ」


 柔らかな黒髪をそっと撫でる。

 自分よりもずっと背の高い男の子を、まるで小さな子供でもあやすように。


(お兄さんの幻覚を見て、どんな想いで居たのかを、レオナルドはきっと誰にも話さない)


 そのことを、フランチェスカは分かっていた。


(レオナルドが必要としないのに、打ち明けてって促すのは違う。だったら、私に返せるものは……)


 背伸びをし、少しでもレオナルドの傍で声を紡ぐ。



次回は4月3日(木)レオナルドの誕生日の0時に更新です!

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― 新着の感想 ―
約束を守ってキスを我慢したレオナルドも、いい子いい子するフランチェスカも、2人どもかわいい!レオナルド初の誕生日更新を楽しみしています!
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