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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

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26 父の溺愛


 フランチェスカは食事を進めつつも、慎重に口を開いた。


「実はねパパ。なかなかスープを飲めなかったのは、少し悩みがあるからなんだ」

「なに?」


 父は眉根を寄せ、フランチェスカを見遣る。


「話してみろ。カルヴィーノ家の誇りを掛けて、お前を害するものは排除してやる」

「は、排除とかじゃなくて! 私、いままで我が儘を言って、社交パーティに一度も参加しなかったでしょ?」


 フランチェスカはこれまでに一度も、『カルヴィーノ家の娘』として公の場に出ていない。

 五大ファミリーの各家は、それぞれに貴族家として爵位を賜っている。この国にいる他の貴族たち同様、社交界への参加は必須項目だ。


 けれどもフランチェスカは、そこに顔を出して来なかった。


「学院に通い始めて、このままじゃよくないって反省したの。今からでも、社交の場に出てみようかなって」

「我が儘などではないさ。フランチェスカ」


 スプーンを降ろしたまま、父は大真面目に言い切って見せる。


「私の娘として顔が知れれば、可愛いお前にいかなる危険が降り注ぐか分からない。我が家に仇成す存在ばかりでなく、お前の美しさに目が眩む不逞の輩、嫉妬をするであろう身の程知らずの連中。そのような者どもから身を守るためにも、『社交界には加わらない』という選択をした聡明さに、私は心底感動したものだ。思えばお前が六歳のとき……」

「で、でもね!! 私、社交界に興味が出て来たの!」


 父の思い出話をなんとか遮り、いよいよ本題に踏み込んだ。


「そうしたらその、クラスの人が、夜会に誘ってくれたんだ。……カルヴィーノの娘じゃなくて、隣国の伯爵家の娘として夜会に出られるみたい。だから」

「……」


 父は小さく息を吐き、とうとうスプーンを置いてしまった。


「――アルディーニか」

「!」


 レオナルドの名前を出されて、目を丸くする。


「ど、どうして分かったの?」

「視察中、アルディーニの家から遣いが来た。……おい」

「はい。当主」


 食堂の隅に控えていた構成員が、トレイに乗せていた封筒を持ってくる。手に取って開け、書かれていた文字に驚いた。


 その手紙は、父への挨拶を述べると共に、『フランチェスカを夜会に同伴させたい』という旨の申し出から始まっている。


 それだけに限らず、帰宅予定の時間、家の前まで送り届けるという約束、夜会中は何よりもフランチェスカの意思を尊重するといったことが、丁寧な言葉で綴られている。


 そして最後には、『命を懸けてでも守る』と書かれた一文に、濁った赤色が記されていた。


「血の署名……」


 レオナルドの名前が添えられた血の跡に、息を呑む。


「書状に自らの血液を落とす行為は、『この身に流れる血すら捧げる』という誓約だ。あの青二才は、お前を連れ出す許可を得るために、血の署名を綴って寄越した」


 この血判が推された書状を、裏社会の人間は絶対に裏切れない。

 書かれたことを破ったのなら、相手に殺されても仕方がないとされている。


 それ故に、各ファミリーの当主が『血の署名』入りの書状を書く機会も少なく、よほど重要な盟約を交わす場でしか用いられないことが殆どだ。


「アルディーニの当主と、学院で同じクラスになったとは聞いていたが……」

(レオナルド。ひょっとして、私がパパに言い出しにくいことを想定して、先手を打っていてくれたの?)


 ぱちぱちと、瞬きをした。

 正直なところ、この配慮はとても有り難い。フランチェスカが説明に苦心していた部分を、レオナルドからきちんと通してくれたのだ。


(……ああ見えて、本当に紳士的なところもあるんだな……)


 そんなことを、しみじみと感じ入ってしまう。

 けれども父は、額を押さえるようにして俯いた。


「フランチェスカ。お前とアルディーニの婚約は、我が父とアルディーニの祖父が、それぞれに血の署名を捺して誓った盟約によるものだ」

「うん。レオナルドのおじいちゃんと私のおじいちゃんは、『両家に性別の違う子供が生まれてきた代があれば、その子供たちを婚約者にする』って約束してたんだよね?」

「……正式な婚約者が、正式な手順を踏んで夜会へのエスコートを申し出て来たのだ。本来であれば断ることは出来ないのだが、そんなことよりも大切なのは、何よりもお前の意思と言える」


 淀んだ光を湛えた右目が、少し長めの前髪の間から、フランチェスカを見遣る。


「どうしたい? フランチェスカ」

「え……」

「偽名で夜会に出たいのであれば、私がいくらでも偽の身分を用意してやる。お前が望まないエスコートを受けることがないよう、血を見ることになろうともこの男を……」


 確かな殺気を感じ取り、フランチェスカは慌てて口を開いた。


「い、行ってみたい!!」

「!!」


 フランチェスカの発言に、父が衝撃を受けたように固まった。


「……行ってみたい、のか……?」

「う、うん!! だってほら、夜会! 学院に入って、興味が出て来たから!!」


 本当は違う。しかし、『レオナルドとの交換条件だから』などと口にすれば、父の逆鱗に触れることは想像に難くない。

 ここはなんとしても、「興味本位で行きたくなった」という姿勢を崩してはいけないのだ。


「……フランチェスカが……。あの幼かった娘が、婚約者との夜会に、『行ってみたい』だと……?」

「当主……! お、お気を確かに……!!」

「一体どういうことだ……。大方アルディーニに何か弱みを握られて、口止めの交換条件にでもされているのではないかと考え、あの男を消そうとしていたのだが……」

(大体合ってる、さすがうちのパパ……)


 だが、このまま押せば許しが出そうな気がする。フランチェスカは笑顔を作り、安心安全の空気を醸し出した。


「大丈夫だよ、パパ! レオナルドは、私が社交界デビューしてないことを知って、気軽に申し出てくれただけなの!」

「……」

「……あ、でも。急に夜会に行くって言っても、ドレスの用意がないんだった」


 この世界で貴族の着る服は、すべてがオーダーメイドの一点ものだ。

 仕立て屋を呼び、採寸した上で、長い時間を掛け縫ってもらう。夜会のある次の満月は、いまからたったの十日後だ。


(どうしよう。こんなとき、サイズの近い友達がいれば、すぐに解決しちゃうんだろうけど……)

「あるぞ」

「……えっ」


 父からの思わぬ回答に、フランチェスカはぽかんとする。


「お前の夜会用ドレスなら、シーズンごとに新しいものを作らせている。普段着のドレスを仕立てさせる際に、職人に命じて一式用意していた」

「…………」


 言われたことを理解するには、数秒ほどの時間を要した。


「……っ、聞いてないよ!?」

「言っていないからな」


 父の言う『シーズンごと』とは、社交界シーズンのことではない。恐らくは、『季節が変わる度』という意味だ。


 まだまだ身長も体型も成長期であるフランチェスカのため、年に複数回、とんでもない値段のする夜会用ドレスを仕立ててくれていたことになる。


「――いつ必要になるとも分からないものとはいえ、そのような準備をしていると話せば、心優しいお前は私に気を使い、出たくもない夜会に出ようとするだろう?」

「……パパ……」

「だが」


 じいんとしてしまったフランチェスカに、父はひときわ低い声で言う。


「美しく着飾ったお前を見て、悪い虫が近寄ってきては一大事だ。……ここはやはり、アルディーニを潰すか、夜会そのものを……」

「わあい! 初めての夜会楽しみだなあ!!」


 父がよからぬ動きを取らないよう、そこからのフランチェスカは、必死に和やかな食事を進行するのだった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪逆聖女のシャーロットといい、こちらのパパといい、イかれた(良い意味で)溺愛を描かせたら雨川先生はピカイチだというところ [一言] 6歳の時の思い出話も聞きたかったです(笑)
[良い点] 親バカが突き抜けているパパ、物騒だけど、突き抜けすぎてて可愛くて見えてきました(笑)
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