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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第4部 知勇兼備の生徒会長〜

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243 アルディーニの当主


 レオナルドにも伝えていたやりとりを、フランチェスカは振り返る。


『ダヴィード。それはつまり……』

『親父が死んだ日。俺は確かに、クレスターニの影を見ている』


 音楽室の机に胡座をかいたダヴィードは、自分自身でもその記憶が正しいのかを確かめるように、慎重に言葉を選んでいた。


『俺もラニエーリ家の人間として、物心ついたときから「鑑賞」を叩き込まれてきた身だからな。……小さなガキの観察眼でも、あの影が自分の親父の影に比べて、随分と小さかったことくらいは分かる』


 父が自らを撃った日の、辛い記憶を辿っているはずのダヴィードは、それでもはっきりと言う。


『正確な体格や、年齢までは判断できねえが。――あれは、少なくとも成人した男の影じゃねえ』

(クレスターニが、少年の姿を……?)


 その言葉が、どうしても昨日のルキノと重なるのだ。


(ルキノが夕べ、『気を付けろ』って言っていた、私たちの国王陛下)


 微笑みの中に、ほんの少しだけ寂しそうな色を滲ませることのある、そんな国王ルカのことを思い浮かべた。


(――ルカさまは、小さな子供の姿をしている)


 百十二歳を超える年齢でありながら、外見は八歳くらいの幼い子供である王のことを、レオナルドだって考えているだろう。


「ダヴィードにも、それがどれくらいのサイズの子供だったか、正確には断言できないんだよな?」

「うん。ダヴィード本人が小さな子供だったから、自分よりも大きな人の体格は、大まかにしか区別が出来なかったんじゃないかな」

「俺の記憶上、少なくともルカさまは、あの頃のダヴィードよりは背が高い」

「だ、だけどね、レオナルド」


 フランチェスカが濁した言葉を、にこりと微笑んだレオナルドが継いだ。


「ルカさまが、『クレスターニ』になる必要性が分からないよな」

「……そう! そうなの!」


 そうした矛盾があることに、どうしても安堵してしまうのだ。


「この国を乗っ取るような動きをしたり、国民を混乱させたり、引っ掻き回したり……そういうことをする意味が、ルカさまにあるのかな。だって、国王なんだよ?」

「ああ。もう持っているものを手に入れるために、こんな馬鹿げた騒動を起こす人間はいないはずだ」

「だから、ルカさまがクレスターニだなんて考えにくいはず。……希望的観測は良くないって、分かってる、けど」


 浅はかだという自覚がありながら、ルカにもヴァレリオに対しても、同じ思いを抱いてしまうのだ。


「だけどそれだとクレスターニは、『ルカさま以外の、子供の姿をしている人物』になっちゃうよね。成長を止めている人か、子供の姿に変身できる人」

「…………」

「ダヴィードはスキル覚醒前だったはずだから、少なくともダヴィードのスキルじゃない。成長停止なんていうデメリットのあるスキルが、ルカさま以外に、そんなにたくさんいるとも思えないのに」


 そんなことを考え始めると、ますます混乱してくる。


「……『少年の影』が、クレスターニ本人のものだって考えるから、おかしいのかな。ひょっとしたら、クレスターニに洗脳された人の影だったのかも? それか、洗脳されていない信奉者……」

「はは、信奉者が国王(ルカさま)だとしたら最悪だな。洗脳者なら冷ませるだけ救いがあるが、自分の意思でクレスターニに従っている状況なら、どうにも出来ない」

「うう、それはやだ……!」

「……フランチェスカ」


 レオナルドに呼ばれて、無意識に俯かせていた顔を上げた。


「もっとシンプルな説についても、考慮しておいた方がいい」

「シンプルな説?」

「単純に、ダヴィードが目撃した『少年』とやらが、当時は本物の子供だったという可能性だ」


 フランチェスカは、思わぬ言葉に目を丸くした。

 けれどもレオナルドは、平然と笑ってこう続ける。


「たとえば」


 フランチェスカのおとがいに、彼の指が触れた。

 そうしてフランチェスカを上向かせると、間近に覗き込んでそっと囁く。


「ゲームにおける、『君』の宿敵」

「……あ」


 月の色をした金色の瞳に、フランチェスカが映り込んだ。


「クレスターニは、『俺』かもしれない」

「…………!」


 言葉の意味を理解して、息を呑む。


「たとえば俺が、子供の頃からクレスターニに洗脳され、あいつの駒になっていたとしたら?」

「……違う」

「駄目だよ。フランチェスカ」


 否定しようとしたフランチェスカをあやすように、レオナルドが紡いだ。


「ちゃんと、想像してみてくれ」

「レオ、ナルド……ッ」


 フランチェスカが後ずさろうとしても、レオナルドは逃してくれない。

 フランチェスカの輪郭に添えられた手だけでなく、いつのまにか腰に回された腕も、柔らかな拘束を施していた。


「俺が既にクレスターニに洗脳されていて、あらゆる人間を踏み躙り、この国にいくつもの火を放つ。そんな、敵対者だとしたら?」

「それ、は」

「君の大切なものを壊し、君の憎悪を煽り、いつか……」


 レオナルドが僅かに目を伏せると、長い睫毛の影が瞳に落ちる。


「――可愛い君のことを、殺してしまう存在だったら」

「…………っ」


 そんな場面を想像した瞬間、背筋に冷たい感覚が走った。


(分かってる、レオナルドはわざとこう言ってるって。それなのに、はっきりと想像が浮かんでくるのは)


 フランチェスカは、その『光景』を知っているからだ。


(ゲームの黒幕、『レオナルド・ヴァレンティーノ・アルディーニ』)


 目の前にいるレオナルドを見上げながらも、くちびるを結んだ。


(ゲームのレオナルドと、私が知っているレオナルドは、別人みたい)


 これまでに何度も抱いた疑問を、もう一度揺り起こす。


(だけど、ゲームのレオナルドがクレスターニに洗脳されていたとしたら、その違和感も……)

「……なんてな」

「!」


 レオナルドは、すべてを冗談に還すかのような微笑みで、フランチェスカの前髪にキスを落とした。


「あくまで可能性の話だ。だが、突拍子もない空想とまでは言えないだろう?」

「レオナルド……」

「これまでの洗脳対象者は、当主もしくは次期当主。ロンバルディ家についてはまだ未定だが……もしもクレスターニがアルディーニ家を狙うのであれば、俺を洗脳するはずだ」

「そんな仮定をするなんて、レオナルドらしくないよ」


 フランチェスカが咄嗟に告げると、レオナルドはくすっと笑った。


「やさしい君に、あらかじめ伝えておこう。もしも、俺が君の敵に回ったときは……」


 レオナルドが、フランチェスカに言い聞かせるように、耳元でそっと甘く囁く。


「――そのときは、容赦なく俺を殺してくれ」

「…………!」



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― 新着の感想 ―
それ、実は私もあり得るんじゃないかと思っていたんですよね…。(-ω-;) もし、原作がフランチェスカがレオナルドを選んでない世界線の話ならそうじゃないとつじつまが合わない所があるよなぁ…。っと思って…
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