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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第4部 知勇兼備の生徒会長〜

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242 娘の伴侶


「パパ、大丈夫!?」

「結婚式……。フランチェスカの、だと……!?」

「おや。まさか、いまさら『娘はやらん』だなんて言いませんよね? 確かあのとき、俺に仰ったはずでは」


 両手をポケットに入れたレオナルドが、父を揶揄うかのように告げる。


「――娘を頼む、と」

「………………っ!!」

「パパ、しっかりして!!」


 レオナルドが持ち出したのは、リカルドの父であるセラノーヴァ当主が起こした、薬物事件でのやりとりだ。


 春の終わりにあったあの一件で、父はフランチェスカを庇って撃たれた。

 夥しい血を流した父は、間違いなく命が危なかっただろう。しかし、そんな父をあの場で助けるために、レオナルドが傷を肩代わりしてくれたのだ。


 すべてはフランチェスカを守り、フランチェスカの大切な人を守って、願いを叶えるために。

 一連の出来事が終わったあと、父はフランチェスカ越しの伝言で、レオナルドに『娘を頼む』と伝えていた。レオナルドは金色の双眸を楽しそうに眇め、蹲っている父を見下ろす。


「撤回なんて、しないですよね。誇り高き、フランチェスカのお父君?」

「アルディーニ、貴様……っ!!」

「というのは、冗談で」


 ポケットから手を出したレオナルドが、右手を彼自身の胸に当てた。その上で、父に向かって礼の形を取る。


「ご安心を。一度言質を取った程度で、『結婚を許せ』と迫るつもりはありません」

「レオナルド」

愛娘(フランチェスカ)の伴侶にふさわしいと。――父君(あなた)に心から認めていただけるよう、俺も引き続き努力します」

「なに……?」


 そうして顔を上げたレオナルドが、フランチェスカに微笑む。


「あなたを想う、フランチェスカに誓って」

(…………っ)


 その誠意に、なんだか頬が熱くなってしまった。


(こういう所は、相変わらず律儀だなあ……)

「……フラン、チェスカよ」

「パパ!」


 父はゆっくり立ち上がると、額を押さえながら歩き始めた。


「……少し、煙草を吸ってくる……」

「また!?」


 たったいま喫煙を終えたばかりのはずが、父は再び出て行ってしまった。


「大丈夫かな、パパ……」

「まあ、穏やかではないだろうさ。気に食わない若造が、娘とこんな儀式に挑むんだからな」

「ううん、レオナルドのことはちゃんと認めてると思う。レオナルド以外が同じことを言ったら、もっと大変なことになってるはず」

「へえ。……それは素直に嬉しいな」


 とはいえ、体調が心配なのは、なにも父だけではない。


「レオナルドも、大丈夫? 昨日も遅くまで、ルカさまや偉い人たちとの会議だったんでしょう?」

「もちろん大丈夫だったさ。君に施した結界スキルが、反応した以外は」

「そ、それは……!」


 心配を掛けた罪悪感に、フランチェスカの胸が痛む。

 するとレオナルドは、くすっと悪戯っぽい笑みを浮かべ、フランチェスカへと手を伸ばした。


「わ……っ」


 耳飾りの薔薇に触れられて、思わず肩が跳ねる。

 レオナルドが、間近にフランチェスカを覗き込み、少し掠れた声音で囁いた。


「……可愛いな」

「…………っ!?」


 柔らかな微笑みと共に告げられて、フランチェスカは息を呑む。

 何か言わなければと内心で慌てて、急いでこんな言葉を返した。


「ほ……本当に可愛いよね、この耳飾り! レオナルド、本当にありが……」

「そうじゃなくて」

「!」


 フランチェスカの戸惑いも、何もかも見透かしているのだろう。

 金色の瞳は、蜂蜜を思わせるほどに甘いまなざしを注いでくるのだ。


「褒めると恥ずかしそうにするのに、こうしてちゃんと俺の贈ったものを身に付けてくれている、そんな君が可愛い」

「…………っ、れ、レオナルド……」


 思わずじりじりと後ろに退がると、レオナルドはそれすらも楽しそうに、フランチェスカを追い詰める。


「ロンバルディ家にひとりで向かうなんて聞かされたときは、本当に気が気じゃなかった。……君は魅力的だから、香水も結界も何もかも使って、俺のフランチェスカだって主張しておかないと」

「い、言い方が……!! 心配かけてごめん、だけど大事な情報だったでしょう? さっき、リハーサルの説明が始まる前に、レオナルドにこっそり話したこと……!!」

「ルキノとやらの、『警告』について?」


 レオナルドに耳元へと触れられながら、フランチェスカはこくこくと頷いた。


「お……お隣の国の王子さまが、ルカさまに気を付けるように言うなんて。『留学生』っていう表向きの身分としてでも、すごく危うい発言だよね?」

「それだけじゃない」


 レオナルドは、フランチェスカの耳飾りの薔薇を指で弄びながら呟いた。


「君が気にしているのは、ダヴィードの話していたことだろう」

「――――……」


 その指摘に、ゆっくりと頷く。

 先日ダヴィードは音楽室で、フランチェスカにふたつの『思い出したこと』を教えてくれていた。


 ひとつは、クレスターニの発言についてだ。『フランチェスカが接触した洗脳者は、その洗脳が崩れる』というもの。

 そしてもうひとつの記憶こそ、いまのフランチェスカの懸念事項だった。


「あのとき、ダヴィードは、私に教えてくれた」


 顔を顰めたダヴィードが、フランチェスカに告げたことを口にする。


「――ダヴィードの記憶に残っている、十年前に見たクレスターニの影は、『少年』の形をしていた気がするって」

「…………」


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