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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

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23 黒幕婚約者と弟分

※本日2回目の更新です。朝6時に更新した前話をお読みでない方は、ひとつ前のお話からご覧ください。









「ど、どうしたの? 一体」

「一年の校舎に行くって言ってただろう? リカルドも一年の校舎にいるって情報を仕入れたから、気になって」

(情報収集能力が高すぎない!?)


 フランチェスカが先に図書室を出てから、それほど時間は経っていない。ひょっとして、何かのスキルでも使ったのだろうか。


(レオナルドの残りふたつのスキルに関係が……いやいやでも、やっぱり違和感があるんだよね。『敵の動きを支配する』スキルだって、レアリティ最上級のラスボスキャラにしては地味だし。敵として戦うときはともかく、操作可能(プレイアブル)として実装されたときに、もっと強いスキルが良かったって不満が出そうだもん)


 あのゲームでの強さとは、戦闘が始まった瞬間に、最初のターンでボス級を倒せるほどの力だ。


 そのため、『強いキャラクター』といえば、そもそも敵の動きを封じる必要すら無いのだった。

 レオナルドのスキルのうち、一枠がそんな能力で埋められているとは、どうしても考えにくい。


(前世では、クラスの子たちのゲーム考察に混ざれるかもと思って、自分でもあれこれ予想してみたんだ。だけど結局混ざれなくて……)

「それで? 可愛いフランチェスカ」

「!」


 まるでエスコートでもするかのように、レオナルドがフランチェスカの手を取った。

 フランチェスカの顔を覗き込み、優しく微笑むと見せ掛けて、その目の奥に暗い光が宿っている。


「――セラノーヴァに、何か怖いことをされていないか?」

(……さっきのリカルドよりも、ずっと冷ややかで怖い目だ……)


 フランチェスカの背筋にも、ぞくりと寒いものが走る。

 殺気の矛先は向けられていないのに、本能的な警戒心が疼くのだ。


 この男を敵に回しては、きっと無事ではいられないと、体がそんな警告を発する。


「それは……」


 フランチェスカが答える前に、レオナルドから引き剥がされる。


「!」


 彼との間に割って入ったのは、むっと口元を歪めたグラツィアーノだ。


「悪いけど、お嬢に馴れ馴れしく触んないでもらえますか」

「おや、番犬」


 レオナルドは面白がるように目をすがめ、グラツィアーノを見下ろした。


「今日も忠実なようで何よりだ。その調子で、俺のフランチェスカを守ってくれ」

「は? 誰があんたのだって?」

「間違ってないだろ。彼女は俺の婚約者であり、未来の花嫁なんだから」

「ちょっと、レオナルド!」


 心にもないことを言ったレオナルドが、グラツィアーノを挑発しているのは明らかである。グラツィアーノは、フランチェスカを背に庇ったままレオナルドを睨んだ。


「このお方はカルヴィーノ家当主のひとり娘だ。……俺たちのお嬢に、無礼な真似をするな」

「へえ?」

「~~~~っ、ああもう!!」


 この状況に耐えかねて、フランチェスカは声を上げた。


「ふたりとも、勝手なことで張り合わないで!!」

「ぐえっ」

「おっと」


 グラツィアーノの首根っこを後ろから掴み、フランチェスカの前から退いてもらう。フランチェスカは両腕を組むと、自分より遥かに背の高い美青年ふたりを睨み付けた。


「私は別にレオナルドのものでも、家のものでもない! レオナルドは思わせぶりな発言をして、私を理由にあちこちに喧嘩を売るのは禁止! グラツィアーノも助けようとしてくれたのは嬉しいけど、他家の当主に下手な真似しないの!」

「……すんません」

「ははは、まさかこの俺が怒られるとは! 実に新鮮だな、悪くない」


 渋々俯いたグラツィアーノはともかく、レオナルドのことはもう一度睨んでおく。


「レオナルド。少し話があるんだけど……」


 そのとき、昼休みの終了十分前を告げる予鈴が鳴った。


「……フランチェスカ。次の体育、女子は校庭じゃなかったか?」

「そうだった!!」


 レオナルドに教えられ、びゃっと慌てる。


「私もう行かなきゃ! ふたりとも、これ以上は喧嘩しないでね!」


 フランチェスカはふたりに言い残し、大急ぎで一年生の校舎を後にするのだった。




***




 グラツィアーノは、早足で校舎を出ていくフランチェスカの背中を見送りながら、溜め息をついた。


(……はー。せっかくの昼休みだったのに、慌ただしい……)


 挙げ句の果てにどうしてか、アルディーニの当主とふたりで残される羽目になっている。

 こんな馬鹿げたことはないので、さっさと教室に戻ろうとしたときだった。


「お前、フランチェスカのことが好きなのか?」

「……はあ?」


 アルディーニの当主にそんなことを言われて、グラツィアーノは振り返る。

 飄々とした雰囲気の男だ。制服のポケットに両手を突っ込み、軽薄な笑みを浮かべているのが気に入らない。


 なによりも気に入らないのは、そんな無防備な立ち姿でありながら、一切の隙がないところだった。


(……ムカつくな。俺が本気でこいつを殺そうとしても、まず敵わないのがやる前から分かる……)


 苦虫を噛み潰すような心境で、アルディーニ当主を睨み付けた。


「有り得ないっすね。俺にとってのあの人は、そういうんじゃない」

「へえ。じゃあ、どういう存在なんだ」

「……」


 少し考えたあとで、口にする。


「……あの人は俺の、姉貴のようなものです」

「ははっ! 姉ときた。……なるほどねえ」


 含みのあるまなざしが、こちらに向けられて不快だった。アルディーニ当主の金の瞳は、心の内を何もかも見透かそうとするかのようだ。


「安心した。どうやらお前は、俺の敵にはならなさそうだ」

「……言っておきますけど」


 たとえ、戦って敵わなくとも構わない。

 そんな心境でもう一度、目の前の男を睨み付ける。


「――俺の『姉』に危害を加えたら、何がなんでもあんたを消す」

「……っ、ふ」


 アルディーニ当主は目をすがめ、満足そうに言ってのけた。


「面白そうだ。……その覚悟を持ったお前が傍にいるなら、家での彼女は安全かな」

(……何を、偉そうに……)


 そう思うのだが、口にはしない。

 グラツィアーノは男に背を向けると、『授業にはちゃんと出るようにね』というフランチェスカの言い付けを守るべく、教室に戻るのだった。


***

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