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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第4部 知勇兼備の生徒会長〜

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220 警戒すべき歓迎


 ダヴィードが教えてくれることに、フランチェスカは耳を傾けた。

 時折質問をしながらも、フランチェスカ自身の中で整理をしてゆく。


「そんな……」


 そうするほどに、混乱は増してゆくばかりだ。


「……ダヴィード。いま教えてくれたこと、レオナルドには話してもいい?」

「アルディーニになら好きにしろ。――とはいえ、絶対にしくじるなよ」


 ダヴィードは忌々しそうに眉根を寄せ、苦い声で言った。


「場合によっては、誰が消されてもおかしくねーんだからな」

(……本当に、誰が敵だか分からない)


 火の粉が暖炉で爆ぜる音が、数ヶ月前、燃え盛る屋敷の中で聞いた火の音と重なった。


(ダヴィードから『この記憶』を完全に消さなかったのも、私たちを疑心暗鬼にさせるための、クレスターニの作戦かもしれない。……やっぱりこっちから動かないと、防戦だけじゃ削られる一方だ)


 フランチェスカは俯いて、決意する。


(得られる情報は、全部得ないと。そのために、やっぱり無視出来ないのは……)




***




 期末テストを終えた二日後の日曜日、フランチェスカは家を出て、アルディーニ家の馬車に乗っていた。


 レオナルドのスキルによって、馬車の中は暖かい。白く曇った硝子窓を指でなぞり、くっきりと見える雪の街を眺める。


(――前世の私が死んだのは、クリスマスの日)


 馬車の轍が残る雪道を見下ろして、あの日のことを思い出した。


(だからかな。……生まれ変わっても、こうやって十二月の聖夜の季節になると、毎年少しだけ寂しいのは)


 けれどもそんな感情は、彼によって掻き消されるのだ。


「フランチェスカ」

「……レオナルド」


 隣に座ったレオナルドが、フランチェスカの手をきゅっと握る。


「君は時々、ふとしたときに寂しそうだ」

「ううん」


 いつだってお見通しのレオナルドに、なんだか気恥ずかしくなって笑った。


「大丈夫。なんでもないよ」

「本当に? たとえば、前世のことを思い出したりはしていないか?」

「……レオナルドって、心を読めるスキルまで持ってる?」

「ははっ」


 フランチェスカの問い掛けに、レオナルドは蠱惑的な声音で紡ぐ。


「そうだとしたら俺は今頃、君の心に付け入って、悪いことばかりしていたかもな?」

「う、嘘ばっかり……! レオナルドはそんなひどいこと、私にしないよ」

「信頼してもらえて光栄だ。だが少なくとも、事前に考えが読めていれば……」


 指同士をしっかりと絡めながら、レオナルドがフランチェスカの方に身を乗り出す。

 かと思えばその窓越しに、辿り着いた大きな邸宅を見遣った。


「君におねだりをされる前に、『駄目だ』って行動を制限して、束縛する男に成り下がっていたはずだ」

「……ごめんね、レオナルド」


 乗せてもらっている馬車が、ゆっくりと止まる。


「だけどやっぱり、これがゲームじゃないこの世界においての正攻法なんだと思う。後手に回るだけじゃなくて、きちんと向き合わなきゃいけない」

「分かっているさ。俺たちの今後の方針は、『クレスターニが襲撃してくるのを待つのはやめて、こちらから仕掛ける方法を探す』だ」


 暖かな馬車の中で、フランチェスカは外套を脱いでいた。畳んで膝の上に置いていたそれを、レオナルドが広げて肩に掛けてくれる。


「そのために俺たちが探すべきは、洗脳とは無関係に、自分の意思でクレスターニに従う人間だ。君がダヴィードから聞いた『あの件』も気になるところだが、それ以前に……」


 レオナルドの言葉に、フランチェスカは頷いた。


「……最優先しなくちゃいけないのは、既にクレスターニに洗脳されちゃった人を探して、悲劇を止めること。洗脳された人が居そうな一番の候補は、やっぱり……」


 フランチェスカが袖を通した外套のボタンを全て留めて、レオナルドが笑う。


「行こう。フランチェスカ」

「……うん。ありがとう」


 そうして先に降りたレオナルドが、フランチェスカに手を伸べた。

 彼の手を取り、ステップを一段ずつ踏みながら、雪の上に降り立つ。昨日までの雪は止んでおり、今日は澄み渡った快晴だ。


「……ここが、ロンバルディ家の屋敷……」


 鉄柵で囲われた敷地の中には、広大な庭園が見えていた。

 その向こうに建っているのが、エリゼオたちの住む家だ。フランチェスカは白い息を吐いて、レオナルドに向き直る。


「レオナルド。シナリオ上、今日は大きな事件が起きない日なの」


 これから敵地に乗り込むにあたって、大事な人を安心させるために告げた。


「私たちの運命や人生に影響が出るような出来事は、発生しないはず。エリゼオの懐に飛び込む形になるけれど、最悪の事態にはならないから……」

「それはよかった。君に万が一のことがあったら、運命を司る神だって殺してしまいそうだからな」

「言葉選びはロマンチックなのに、内容が物騒!」


 そんなやりとりをしている間に、アルディーニ家の馬車は去って行った。


「さて。本来なら表に回って、門番に来訪を告げるところだが……」


 その必要がないことは、レオナルドもフランチェスカも分かっていた。

 大きな門の左右に立つ構成員のうち、ひとりがこちらに歩いてくる。そして構成員は、胸に手を当てて口にした。


「アルディーニ家当主、レオナルド・ヴァレンティーノ・アルディーニさま。並びに、フランチェスカ・アメリア・トロヴァートさまですね」

(私の、学院で使っている偽名の方……)

「いかにも」


 フランチェスカよりも前に歩み出たレオナルドが、慣れた様子で悠然と答える。


「エリゼオ・ノルベルト・ロンバルディ殿に伝言を。――お前が未来視で見た通り、会いに来てやったと伝えてくれ」

「その必要は、ございません」

(!)


 構成員が言い切って、強大な扉が押し開かれる。


「既にお達しが出ております。おふたりが尋ねていらっしゃったら、すぐにお通しするようにと」

「フランチェスカ」

「…………」


 振り返ったレオナルドが、フランチェスカに手を差し伸べる。


「ありがとう。レオナルド」


 フランチェスカはその手を取って、ゆっくりと一歩を踏み出した。


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