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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

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20 知らない根回し




「――胸元のリボンタイが緩んでいる」

「……へっ」


 フランチェスカがポカンとすると、リカルドはますます眉間の皺を深くし、冷たく言い放った。


「制服の、リボンタイが緩んでいると言ったんだ」

「あ、ほんとだ!」


 視線を落とせば、確かにリボンが解けかけている。リカルドはふんと鼻を鳴らし、蔑みの目を向けてきた。


「十分に気を付けろ。服装の乱れは規律の乱れ。軽んじているとゆくゆく大きな問題に繋がるぞ」

「は、はい。気を付けます!」


 慌てて結び直しながらも、フランチェスカはそっと考える。


(裏社会ファミリー当主の息子というより、風紀委員長や先生みたい……)


 リカルドは、フランチェスカの目の前で腕を組み、仁王立ちでこちらを見下ろしていた。

 どうやらこの風紀検査に合格しない限り、解放してもらえないらしい。


「出来ました!」

「ふん……」


 じっとリボンを観察されて、フランチェスカは胸を張る。


「及第点だな。左右の長さが一センチほど違う、それではあまりにも見栄えが悪い」

(わあ、指摘が細かい!!)

「そこの男子生徒、お前もだ。シャツの第一ボタンを開けるのは校則に違反しているぞ」

「は、はい! すみません、セラノーヴァ先輩……!」


 じろりと鋭く睨め付けられた一年生が、焦りながらボタンを留め直している。

 フランチェスカは、リボンをぐいぐい引っ張って調整しながらも、リカルドのことをちらりと見遣った。


(リカルド・ステファノ・セラノーヴァは生真面目で、自分にも人にも厳しい優等生だ。規律を重んじるし、人に怖がられてでもそれを正そうとするキャラクター。……一見すると、そういう人だけど……)


 彼が着ている制服のベストや、裏ポケットの辺りを視線で探る。


(――制服のベストに似せてるけど、縫い目が二重になっている防弾加工のベスト。上着の中にはナイフが二本……ううん、三本ってところかな)


 てきぱきと分析しながら、リカルドへの警戒を強くした。


(校則には違反してないけど、普通の生徒の装備じゃないよねえ……)


 やはりリカルドも、ファミリー当主の次期後継者なのだ。

 規律に厳しいその姿勢は、裏社会の住人として意外でもなんでもない。


(悪党として巨大な組織になるほど、厳しい規律がたくさん生まれるもの。世間からは無法者に見えている五大ファミリーにだって、鉄の掟がいくつも存在する)


 鉄の掟で思い出すのは、メインストーリー第一章だ。リカルドは恐らく、すでにあの事件に関わっているのだろう。


(うう、どうしてここで出会っちゃったんだろ……! というかレオナルド、あれだけ私のこと見つめてたなら、リボンが解けてたの気付いてたよね!? レオナルドを恨むのは筋違いだけど、それでも教えて欲しかった!!)


 心の中で嘆きつつも、そっとリカルドを窺う。リカルドは、周囲のさまざまな生徒に向けて、細やかな服装指導を行っていた。


 一部の女子生徒は、リカルドに注意をしてもらいたいがために、わざとリボンを解いたりしているようだ。

 女の子たちが叱られて嬉しそうにはしゃいでいる中、フランチェスカは好機を察した。


(よし、いまのうちに逃げよう……!)


 そうっとさり気なく距離を置き、二年生の校舎に戻ろうとする。レオナルドから離れるついでに、グラツィアーノの様子を見てみようと思っていたが、それはまたの機会にすると決めた。


 だが、そんなフランチェスカの逃走に気が付いて、あろうことかリカルドが追ってくる。


「おい。そこのお前、待て」

(わあああ、こっちに来た!!)


 廊下の隅まで追い詰められて、フランチェスカは困惑した。

 再び廊下の壁に背を付け、ノートをぎゅっと抱き締めるが、リカルドは容赦なくこちらの顔を覗き込んでくる。


「な、なんでしょう……?」

「……薔薇色の髪。空色の瞳。二年生のようだが真新しい制服……」

(まさか、今度こそカルヴィーノ家の娘だって気付かれた!?)


 フランチェスカは十七歳だが、社交界デビューを果たしていない。カルヴィーノ家の娘として表に出ると、今後の友達作りに支障が出るからだ。


 けれども赤い髪に水色の目は、当主である父とまったく同じだ。フランチェスカの正体を、リカルドが察しても無理はない。


「――お前が、アルディーニの言っていた転入生か」

「……え……?」


 ぱちり、と瞬きをする。


「レオナルドが、私のことで何か?」

「先月、あの男が俺の前に現れて、妙な釘を刺してきた」


 リカルドは忌々しげな表情で、フランチェスカのことを見下ろしながら教えてくれる。


「……『フランチェスカ・アメリア・トロヴァートに近付くな』」

「!」

「『彼女は俺のものであり、他ファミリーの人間が触れることは許さない』と。そう言っていた」


 フランチェスカは、驚いて目を丸くした。

 そのときのことを思い出したのか、リカルドは眉間の皺を深くして、フランチェスカのことを睨む。


「お前に接触すれば殺す、という警告までついている。この宣言をされたのは、もちろん俺だけではない」

(ななななな、なにやってるのレオナルドの馬鹿!!)


 この場にレオナルドがいたならば、がくがく揺さぶって問い詰めていただろう。フランチェスカの知らないところで、いつのまにか物騒な話が始まっていた。


「アルディーニを排除したいか? 転入生」

「え……」


 リカルドは、あくまで冷たい声音のまま問い掛けてくる。





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