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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第3部 狷介孤高の同級生〜

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162 入れ替え


 ダヴィードが怪訝そうにするのも当然なので、少しずつ言葉を選びながら伝える。


「このあいだ美術館で少し話したことは、ダヴィードも知ってたんだよね? クレスターニっていう、王都の色んなところで事件を起こしてる存在のこと。洗脳スキルを持っていて、イザベラさんも洗脳の犠牲になったひとりだって」

「……だからなんだよ」

「私は輝石をすり替えたのも、クレスターニの仕業だと思ってる。輝石そのものを手に入れることじゃなくて、この国の立場を危うくすることが目的なんじゃないかな」

「…………」


 フランチェスカの推測を、ダヴィードが否定することはなかった。

 沈黙は先を促している証だと受け取って、フランチェスカは言葉を続ける。


「会場を警備していたラニエーリ家の人たちが、仮にクレスターニに洗脳されていたら、警備には穴が空いてしまう。だけど洗脳スキルの存在を知っていたソフィアさんは、その対策も講じてたよね?」

「……ああ。輝石は必ず複数人に守らせて、傍には姉貴がついていた」


 そのときのことを思い出したのか、ダヴィードは顔を顰める。


「ミストレアルの輝石がこの国の国境を超えてから、片時も傍を離れないって勢いだったな。さすがに見兼ねて、俺が何回か代わってやったが」

「……ソフィアさんが自ら警備してたんだね。そんなに厳重だったのに……」


 フランチェスカは、そこに僅かな引っ掛かりを覚える。


「それだけ強固に守られていても、輝石はすり替えられたんだ。一体いつ、どうやって?」


 ダヴィードが舌打ちをし、脚を組み替えながら呟いた。


「だから、まさにそれを調べてるんだろ」

(……誰かが強固に守っていた宝物を、偽物にすり替えられる人。それって、他ならぬ……)


 けれどもフランチェスカは、一度会話の続きに戻る。


「ええと……ラニエーリ家の警備について詳しい人が、クレスターニに洗脳されてしまったら、簡単に情報が盗まれちゃう。だから、この家に長く仕えていた人が、洗脳の標的に狙われた可能性があると思うの」

「……ふん。それで?」

「警備に参加してた構成員の人たちは、当然あのホールから逃げたり出来ないはず。だから当日、本来はホールに行かなくてもいい立場のラニエーリ家の人が、クレスターニに洗脳されたんじゃないかなって!」


 それらしい推論を並べ立てるが、実際の根拠は別にある。


(ゲームシナリオにおいて、輝石を盗んだ犯人になるモブキャラクター……それがラニエーリ家の執事さん。ソフィアさんやダヴィードが生まれる前からこの家に使えてて、ふたりのお父さんも知っている人)


 その人物の情報を、ゲームでプレイして知っていた。


(シナリオが変わっていても、この人が何か知っていたり、クレスターニからの洗脳を受けている可能性はある)


 だからこそ、その執事の話を聞いてみたいのだ。

 とはいっても、直接名指しをする訳にもいかないので、遠回しに条件を絞り込む。


「ソフィアさんや構成員さんに、無条件で信頼されそうな人は居ないかな? ダヴィードたちが生まれる前に、この家に仕えていたような……」

「――――……」


 ダヴィードは考える素振りすらなく、即座にフランチェスカを見て答えた。


「居ない」

「え……っ」


 思わぬ回答に驚いて、目を丸くする。


「なんだよその顔。この家に、そこまで長い使用人は居ねえって言ったんだ」

「そ……そうなの!?」

「ああ」


 ダヴィードは、手にしたティーカップの表面を慈しむように目を眇めつつ、こう続けた。


「この屋敷の使用人は、十年前に全員が入れ替わってるからな」


 それは、ゲームと明確に違う出来事だ。


「その頃にまだ生きていた親父が、そいつらを全員解雇した。それだけの話だ」

「理由は? 全員解雇なんて、よっぽどのことなんじゃ……」

「それは……」


 ダヴィードが答えようとしたその瞬間、応接室の扉が開いた。


「――それはね、フランチェスカお嬢さん」

「あ……!」


 憧れている女性の登場に、フランチェスカは椅子から立ち上がる。


「当時の使用人たちが、私の家出を止められなかったからだよ」

「ソフィアさん!」


 にこっと微笑んでくれたのは、ダヴィードの姉である当主ソフィアだ。


「お邪魔してますソフィアさん。ご、ごめんなさい、さっきのお話は……」

「気にしなくていいよ、隠している訳でもないし。ほらダヴィード、そっち詰めな」

「なんで無理やり俺の隣に座ろうとすんだよ。狭い、うぜえ、やめろ」

「このソファーがふたり掛けなのが見て分かんないのかい? それにしてもまさか、あのダヴィードが女の子を連れて帰ってくるなんてねえ」


 問答無用でダヴィードの横に腰を下ろしたソフィアを見て、これが姉弟のやりとりなのだと感動する。

 ソフィアは脱いだ上着を、ごく自然な様子でダヴィードに持たせると、フランチェスカに微笑み掛けた。


「フランチェスカお嬢さんが来ているって話だから、挨拶だけしようと思ったら。なんだか懐かしい話が聞こえてきたもんで、ついつい割り込んでごめんね?」

「いえ! ですがソフィアさん、家出って……?」

「私たちの親父が死ぬ前、私がまだ十九歳の小娘だったころ、ちょいと失恋しちまったのさ」

「!」


 何気ない様子で語られた言葉に、フランチェスカは息を呑む。




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