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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第3部 狷介孤高の同級生〜

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136 当主の弟


(無理だけは、しないでほしいなあ。……いっそのこと、ふたりで学校休もうって言ったら、レオナルドも家でゆっくりする気になるかも)


 そんなことを閃いて、口に出そうとした瞬間のことだ。


「ねえ、レオ……わあっ!?」


 レオナルドが、フランチェスカを隠すように抱き締める。

 それから『しーっ』と耳元で囁かれ、視線で通りの向こう側を示された。小さな水路を渡る橋向こう、裏通りの先に、ひとりの青年の姿を見付ける。


(あれって)


 その人物を、フランチェスカも知っていた。


 金色の髪に、褐色の美しい肌。

 制服を着崩し、気怠げに歩いているのに、その姿はとても優美だ。憂いを帯びているように見える横顔は、落ち葉によって金色に染められた街を眺めている。


(……ダヴィードだ……!)


 ダヴィード・シスト・ラニエーリは、五大ファミリーの中でも『優美』を信条とするラニエーリ家、その女当主であるソフィアの弟だ。


 彼の姉であるソフィアには、夏休みの出来事で随分と助けられた。けれども弟であるダヴィードの存在を、フランチェスカは意識して避けている。


 そのことを、レオナルドも当然察していたのだろう。


「君、あいつに会いたくないんだろう?」

「う、うん……! 隠してくれてありがとう、レオナルド……」


 フランチェスカはぎゅっと身を縮こまらせ、ダヴィードの視界に入らないよう隠れた。フランチェスカを抱き締めてくれているレオナルドは、フランチェスカの警戒心を掬い取ってくすっと笑う。


(ゲームでも最上級ランクに該当する、レアリティ5のキャラクター。ゲームで入手できる確率の低さと同じくらい、学院で出会う可能性も低い人なのに……!)


 なにしろダヴィードは、学院に登校してきても授業にはあまり参加せず、決まった場所で寝ているという人物だ。


 レオナルドはフランチェスカをよしよしと撫でながら、去ってゆくダヴィードの方を見遣って言う。


「あいつがこんなに朝早く、通学路をうろついてるなんて珍しい」

「多分それ、みんなもレオナルドに思ってるはずだけど……」

「ははっ」


 楽しそうにしてみせるレオナルドこそ、ゲームでは『学院に一切現れない、接触不能のラスボス』だった。

 フランチェスカと一緒に登校するために、毎朝こうして待ち合わせてくれるなんて、誰にも予想が出来なかったことだ。


(いまのレオナルドの行動は、ゲームとは真逆。だけど、『私』とダヴィードが今の季節に接近するのは、ゲームのシナリオ通りなんだよね……)


 レオナルドの影からダヴィードの方を覗き込み、フランチェスカは気を引き締める。


(魔灯夜祭を舞台にしたシナリオが進んでいく、ゲームの第三章。――その中心になるのは、ダヴィードと『私』のストーリーだもの)


 ダヴィードが去った落ち葉の街並みで、レオナルドがエスコートするかのように手を差し出した。


「無事に君を守り切れてよかった。行こうか、フランチェスカ」

「……ありがとう、レオナルド。だけど今日はやっぱり、学院を休……」

「フランチェスカ」


 レオナルドは微笑んで、フランチェスカの提案しようとしたことを遮る。その表情を見ていると、それ以上何も言えなくなった。


「――分かった。行こう、レオナルド」


 そしてふたりは、学院への道を再び歩き始める。




***




(本来のゲームシナリオで、『フランチェスカ』は裏社会から遠ざけて育てられ、十七歳になってから家に戻される)


 放課後、ひとりで学院の廊下を歩きながら、フランチェスカは思考の整理をしていた。


(ゲームの『フランチェスカ』にとって脅威になるのは、ラスボスとして危害を加えに接触してくる婚約者、レオナルドの存在だけじゃない。……娘を憎むパパ、無愛想なお世話係のグラツィアーノ、事件解決のためにピリピリしているリカルドに、ゲームの『フランチェスカ』は振り回される)


 シナリオで描かれるフランチェスカは、心優しくて平凡な女の子だ。裏社会のさまざまな出来事に馴染めず、それでも懸命に頑張って、みんなを救おうと奔走していた。


(ゲームでは一章でリカルドと仲良くなって、二章でグラツィアーノと仲良くなる。少しずつ事態は好転していくけど、レオナルドの企みにも振り回されて、その疲れが爆発しちゃうのが第三章だ)


 春の学院入学から始まった日々は、ゲームのフランチェスカにとって波乱に満ちたものである。普通の女の子が裏社会に放り込まれて過ごすのは、並大抵ではないのだろう。


(そんなときに起きたとある事故に、『フランチェスカ』は巻き込まれる。その結果……)


 フランチェスカは自身の手のひらを見下ろし、握り込んで開いた。



(――――ちっちゃな子供の姿にされちゃうんだよねえ……)



 ゲームのスチルを思い出して、思わず遠い目をしてしまう。



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