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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第2部 忠臣義士の番犬従者〜

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122 銃弾の行方

「……もういいわ。それにしたって随分と悠長に、私とお喋りしてくれるのね」


 イザベラは手にした銃をくるんと回し、サヴィーニ家の馬車の前に出来た人だかりを見遣る。


「まあでも確かに、死んでしまった以上は他に何も出来ないものね? 私が殺し屋だと気付いていても、いまこうやって問い詰めることに成功していても、なんの意味もない。サヴィーニ閣下は死んでしまったわ」

「……」

「うふふっ、結果はそれで十分! 私は役割を果たせたの。これで――……」


 可愛らしく上機嫌な笑みを浮かべたイザベラは、銃を握った自分の手元を見下ろした。


「……これで……?」


 そう呟いた彼女の顔が、不安そうに歪む。


「……なに? 私は何を。一体どうして銃なんて、嫌……」

「……レオナルド」

「ああ」


 イザベラの声には動揺が滲み、震え始める。彼女は左手で髪を掻き上げるように頭を押さえると、小さな声で繰り返し始めた。


「私が撃ったの? 私が撃った。そうよ、だって、殺さなきゃいけないから……!! 撃たなきゃ、殺さなきゃ、死んでもらわなきゃ!! ご命令だもの、そうじゃなきゃ……!!」


 髪を掻き乱したイザベラが、荒々しく再び銃を構える。その銃口はまっすぐに、サヴィーニ家の馬車の方に向いていた。


「イザベラさん……っ」

「君は動くな、フランチェスカ!」


 レオナルドの声と共に閃光が走り、イザベラの手首で青色に爆ぜる。レオナルドが作った氷の枷に捕らわれても、イザベラは身を捩らせながら叫び続けた。


「撃ち込むの、何発も!! 絶対に殺すわ、あの男を撃つ……!」

(リカルドのお父さんのときと同じ。その人の嘘を暴いて、言い逃れが出来ない状況に追い込むと、こんな風に精神状態の揺らぎが生まれ始める)

「……だけど」


 イザベラはどさりと地面に膝をつき、ぽつりと呟く。


「……命令って、一体誰の……?」

(やっぱり、イザベラさんも黒幕に洗脳されてるんだ……!!)


 フランチェスカは急いで顔を上げると、太ももに隠した銃を素早く手に取る。その銃を上空に向けて撃つと、仕込んでいた閃光弾が流れ星のような尾を引き、ぱあんと音を立てて空で弾けた。


(合図完了! あの人がここに来てくれるまでの間に……)


 通常ならこの夜会に出られない人間であっても、緊急事態とあれば話は別だ。その印として撃った閃光弾の銃声に、参加者たちは再び悲鳴を上げた。


「また銃声だぞ!! 逃げろ、逃げろ!!」

「だが、サヴィーニ閣下が撃たれているんだぞ!?」

「構っていられるか、人殺しがいるんだ!! おい、俺を先に通せ!!」


 馬車を取り囲んでいた参加者たちも、今度は一斉にダンスホールの方へと走り出した。突風で灯りが消えたままのホールは真っ暗だが、湖や森の方に逃げるのは抵抗があるのだろう。


 そんな中、イザベラが小さな声で呟く。


「……人殺し……?」


 彼女は混乱し切ったまま、自分の傍に落ちた銃を見遣った。


「私、のこと。……でも私、もう人を殺さないって、決めたはず」

「イザベラさん……」


 グラツィアーノが調べてくれたイザベラの過去は、『まったく掴めない』というものだ。

 裏社会の人間が調べても、すぐに情報が出てこない。これはつまり、対象が同じく裏社会で生きてきた人間であり、その過去が抹消されていることを意味する。


「……ソフィア姉さんに拾ってもらえて、殺さずに生きていけるようになったじゃない。それなのにどうして? どうして撃ってしまったのか分からない。でも、間違いなく引き金を引いた、私が……」


 辺りに漂う硝煙の匂いに、イザベラが引き攣った悲鳴を上げる。


「私が、また殺した……!!」


 そのときだった。

 辺りに誰もいなくなったことで、馬車の前に倒れている人物の姿が見えやすくなる。茶色の髪に長身の体格を持ったその男性が、ゆっくりと身を起こすのだ。


「……あー、いってえ……」

「え……」


 掠れた声に、イザベラは瞬きをする。

 そこから立ち上がった人物が、イザベラにはサヴィーニ侯爵に見えたかもしれない。引き金を引いた彼女だけではなく、フランチェスカたち以外は全員そのはずだ。


「そんな、どうして……? 弾は左胸に当たった、はず」

「防弾チョッキをがちがちに着込んで、身体強化のスキルを使ったんで。別に、この程度は」


 涼しい顔で言ってのけるも、相当の痛みはあったはずだ。それでも真っ直ぐ立った人物に、フランチェスカはほっとして笑う。


「大丈夫だって信じてたのに、それでも心配だった。怪我はないよね?」

「当然でしょ」


 サヴィーニ侯爵の衣服に身を包み、瑠璃色のブローチを身に付けたグラツィアーノは、首元に締めていたネクタイを緩めながら言う。


「そうじゃなきゃ、俺があの人のふりをした意味がないんで」

「――さっすが、グラツィアーノ!」


『身体強化』のスキルを持ち、それをフランチェスカに強化されていたグラツィアーノは、父親の扮装をしたまま誇らしそうに笑った。


「ああ、本当に良かった」


 その場にぱちぱちと響いたのは、レオナルドのいささかまばらな拍手だ。


(やっぱり)


 まだ終わりではないことを、フランチェスカは改めて認識した。



(……『暗殺者』は、まだ他にもいる)



 フランチェスカは気を引き締めて、レオナルドに対峙する。

5月に発売されたライトノベルを投票する、ラノオンアワードが開催中です!本作も対象です!


◆作品タイトル

悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~


◆投票ページ

https://ln-news.com/articles/116976


何卒応援のほど、よろしくお願いします……!

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[良い点] 最っっっっっ高! グラツィアーノさすがだわ!
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