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【アニメ化】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第2部 忠臣義士の番犬従者〜

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106 守れなかったとして

 レオナルドの敵となる人物が、フランチェスカを助けてくれたのかもしれない。

 フランチェスカが伝えたかったことを汲み取ったレオナルドが、月の色をした金の瞳をすがめる。


「ひとつだけ答えてくれ。フランチェスカ」

「どうしたの?」


 首を傾げると、レオナルドは真摯なまなざしでこう尋ねた。


「君はそれを確かめる為に、こうして囮めいた真似をしたのか?」

「!」


 その問い掛けに目を丸くするも、すぐに首を横に振る。あの場面で助けてくれる人物がいるなんて、そんなことは予想出来ていなかった。


「違うの」


 グラツィアーノが撃たれるイベントを回避して、誰も傷付けないまま対処したかった。


 けれども結局は上手くいかず、あの娼婦の女性が狙われそうになり、庇おうとしたフランチェスカが撃たれる寸前だったのだ。


 謎の人物が助けてくれなければ、弾丸はフランチェスカを撃ち抜いていた。


「……助けたい人がいたんだ。結局はこんな風に、失敗しちゃったんだけど……」


 そう口にして改めて、その助けがなければどうなっていたかを想像する。

 もしかしたらフランチェスカが失敗し、娼婦の女性を危険な目に遭わせていたかもしれない。それを免れたあとも、フランチェスカはこうして崖に落ち、調査を離脱することになりかねない状況に陥ったのである。


 そうすれば、グラツィアーノの父はこの世界でも殺されていた。結末を知っているフランチェスカがいながら、むざむざ死なせてしまう羽目になっていたのだろう。


(変えようとしても駄目だった、なんて。……そんな風に思いたくないのに、同じ考えがぐるぐるしてる……)


 フランチェスカは無意識に、自分の体を抱き締めた。


(このシナリオ、ストーリーと似た出来事が起こる日々の中で、私だけが死なない。崖から落ちたって生き延びる。だけど私が『主人公』である以上、周りを巻き込んで……)


 体が震えているのを自覚した、そのときだ。


「フランチェスカ」

「!」


 フランチェスカが羽織らせてもらっていた白い上着に、レオナルドの手が触れた。


「ごめんな。この上着、やっぱり脱げるか?」


 レオナルドも寒くなったのだろうか。フランチェスカはすぐに頷き、ぱっと腕を離す。


「うん、もちろん! 貸してくれてありが……」


 フランチェスカがお礼を言い切る前に、肩に掛かった上着が降ろされた。

 そうかと思えば、ぐっと体を引き寄せられ、レオナルドに後ろからぎゅうっと抱き締められた。


「レオナルド?」

「こうした方が温かい。そうだろう?」


 くっつくと、お互いの体温ですぐに温まっていくのを感じた。生地の厚い上着を着ていたら、きっと温度は伝わらなかっただろう。

 レオナルドは、フランチェスカのつむじの辺りに自身の額を当てると、ごく小さな声でこう呟く。


「……君が震えているのを見るのは、耐えられない」

「…………」


 その理由が寒さだけではないことを、レオナルドは恐らく見抜いていた。


「きっと、この先にね」


 フランチェスカは俯いて、揺らいでしまいそうになるのを堪えながら言う。


「……私にしか守れない人たちが、何人もいるの」


 こうして生まれ変わった先の存在が、ゲームの主人公である『フランチェスカ』だった。

 そのことは、前世が極道一家の孫娘だったことや、いまの身分がカルヴィーノ家のひとり娘であることと同じくらいに避けられない問題だ。


「私がちゃんと動けたら、助けられるかもしれない。不幸にならずに済むかもしれない。そんな人たちが、たくさん」

「……フランチェスカ」

「私は平穏で平凡な、普通の人生を送りたいんだ。……おんなじくらい、私が守れるはずの人たちにも、こんな風に生きたいっていう望みがあるはずで……」


 フランチェスカがシナリオを逆手に取れば、その望みは叶えられるかもしれないのだ。

 けれども逆に、そうやって足掻こうとしたことで、シナリオとは別の誰かを傷付けるかもしれない。それが分からない焦燥が、心の奥底から湧き上がってくる。


「その人たちを守れなかった先に、私の『平穏な人生』なんて存在しない。だけど」


 レオナルドに触れている背中が温かい。

 それなのに、どうしても声が震えてしまった。


「……守れなかったら、どうしよう……」

「…………」


 小さな頃の思い出の話で、グラツィアーノに内緒にしていることがある。

 記憶を取り戻したフランチェスカは、一番に彼を探したのだ。ラニエーリ家管轄の貧民街で、見付からないようにこっそりと、母を亡くして頑張っている男の子を尋ねて回った。


 あの頃はまだ父も冷たく、構成員たちの協力も得られない中で、ラニエーリ家の縄張りに入ることも許されない。

 そんな中で必死に探したはずなのに、グラツィアーノと出会うことは叶わなかった。


(あの時からずっと、ゲームシナリオに逆らえていなかったんだ)


 その後にグラツィアーノがやってきて、彼と仲良くなれたことで、ゲームの運命を変えられたと思っていた。

 けれども本当に変えられるものなのであれば、グラツィアーノが実父の命令に傷付けられる前に、あの貧民街から連れ出せていただろう。


「なんて。……えへへ、変なこと言っちゃった」


 こんな弱音を吐いたって、レオナルドを困らせるに決まっている。そう思って照れ笑いを浮かべようとしたが、上手く出来ない。


「フランチェスカ」


 レオナルドの体が一度離れたかと思えば、今度は彼と向かい合うように引き寄せられた。

 大きな手がフランチェスカの頬をくるみ、上を向かされる。レオナルドの額が、フランチェスカの額にこつんと重なった。


「まずはひとつだけ、覚えていてくれ」

「……?」


 フランチェスカが瞬きをすると、目を閉じたレオナルドがこう紡いだ。


「――俺のすべては間違いなく、君の存在に救われている」

「!」




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