第25話 暗躍する薔薇 その②
薔薇が散る血の海
脊椎を描く棘
2
「あ、こっちでーす!」
平泉が運転するトラックが近づいてくるのが見えた架陰は、治癒した右腕をちぎれんばかりに振った。
「すごいな、砕けた骨が完全に治ってる・・・」
全く痛みが残っていない。それどころか、前よりも調子がいい気がする。
架陰は手を握ったり開いたりして、椿油の凄さを改めて実感した。
どこか壊れていてもおかしくないエンジン音と共に、トラックが架陰の前に停車した。
平泉が窓から顔を出す。
「やあ、バンイップは倒せたんですか?」
「はい、何とか・・・」
架陰は背後に倒れている二体のバンイップの死体を指さした。
二匹とも首が胴体から分離して、辺り一面血の海となっている。
そんな凄惨な光景に、平泉は難色を示した。
「これは、掃除が大変ですよ・・・」
「すみません」
殺ったのは、響也と山田だ。
当の本人は涼しい顔。The Scytheの切れない部分で死体をコツコツと叩いた。
「さっさと死体回収お願いしますよ・・・」
「こらぁ響也。ちゃんとお願いしなさい!」
「カレンうるさい・・・」
平泉はため息をつきながらトラックから降りてきた。
「じゃあ、コンテナに積むところまで手伝ってください。後処理は僕の仕事ですからね・・・」
平泉と桜班三人。計四人は、力を合わせて、バンイップの死体をコンテナへと運んだ。
「コンテナの中って、寒いですね」
「当たり前だろ? 冷凍しないと、研究に支障が出るんだ・・・」
「首を落とされていても支障は出るんですよ?」
平泉の皮肉を、響也は真顔で受け流した。
一体一体のバンイップの体重は重かったが、四人でやれば、何とか運べる。
時間はかかったが、二体のバンイップをコンテナへと積み込むことに成功した。
平泉は、「血の片付けは後で」と言って、トラックに乗り込んだ。
「あと、この人を連れ帰ってください」
平泉は、思い出したように、助手席で眠り込むクロナを指さした。
今までクロナの存在に気づかなかったのは、完全に脱力して、席からずり落ちていたからのようだ。
「・・・、麻酔銃の威力長いですね」
「そうだな・・・」
今度は腕も治っているので、下っ端の架陰がクロナを背負った。
「じゃあ、桜班のみなさん、さようなら。また別の機会に!」
平泉は軽く手を振ると、トラックにエンジンを掛け、走り去ってしまった。
排気ガスが立ち込める路地。
「僕達も、帰りますか・・・」
架陰は背中におぶったクロナがずり落ちないよう、腰を落として力を込めた。
(クロナさんの胸って、意外に無いんだな・・・)
「くそ、あのやろう・・・」
響也は自分の頬を親指で拭った。指先が赤く染る。まだ、鉄平にやられた傷から出血を伴っていたのだ。
カレンも不満げな声をあげる。
「そうよねぇ、女の子の顔に傷をつけるなんて・・・」
「いや、そんなことはどうでもいい」
「響也。もっと女の子の自覚を持たないとダメよォ!」
カレンは頬を膨らませるが、響也にとって顔の傷などどうでもいいことだった。
気になるのは、あの鉄平という男。
響也は、クロナを苦しそうに背負っている架陰に目を向けた。
「おい、架陰」
「なんでしょう?」
「お前、あいつと知り合いなのか?」
「知り合いですね・・・」
架陰は少し困った表情になった。
「まあ、ほんの僅かな付き合いでしたけど・・・」
「ほんの僅か・・・」
ほんの僅かだとしても、架陰は月ノ子児童施設で鉄平と交流があったということか。
死神と称された、響也を知る、【堂島鉄平】という男と。
「なあ、架陰。お前、あの児童施設の事件は、知っているのか?」
「事件?」
架陰は間を開けてから、大袈裟に首を傾げた。
「なんのことでしょう?」
(知らないのか・・・?)
「なんでもない・・・」
響也はため息をつくと、歩き出した。
(全く・・・、どうなっているんだ、うちの班は・・・。記憶の無いやつばかり・・・)
横目で、カレンを見る。
カレンも「なんの話をしているの?」と言いたげな顔をして首を傾げていた。
(こいつが一番・・・、ヤバいもんを持ってるんだけどな・・・)
考えていても仕方がない。
「帰るぞ・・・」
響也はThe Scytheの刃に布を巻いた。
カレンも、「そうねぇ、帰りましょう!」と頷いて、翼々風魔扇を着物の帯に差した。
架陰は、そんな二人の様子と、自分の腰に差した刀を見比べた。
戦いに夢中で忘れていたが、自分の刀はもう使い物にならない。
「ほんと、どうしよう・・・」
もしかしたら、新しい刀を支給してくれるかもしれない。
帰ったらアクアに聞いてみようと思う架陰だった。
その③に続く
その③に続く




