第24話 架陰と鉄平 その③
天狗の笑い声が聞こえる
死神の嘲りが聞こえる
悪魔は静かに啜り泣く
3
ほぼ同時に仕留められた二頭のバンイップは、アスファルトの上に身体を横たえていた。
響也は確認のために、切断した頭、胴体をつついてみるが、二度と動くことはなかった。
「厄介なUMAだった・・・」
安堵のため息を吐いて、The Scytheの刃を下げる。
架陰は刀に纏わせていた魔影を解除した。再び煙のようになった黒いオーラは、架陰の体に戻ることなく、空気に溶け込むようにして消えた。
「やりましたね!」
「ああ・・・」
響也は言いたいことは山ほどあったが、架陰は右腕を骨折しながらよく戦ってくれた。お咎めなしといこう。
響也と架陰の元にカレンが走ってきた。
「やったわねぇ!」
「おい、後ろ」
響也はカレンの後ろに立つ大男を指さした。
椿班副班長の【山田豪鬼】だ。
「・・・・・・」
山田は、丸メガネを白く光らせ、バンイップ討伐の功労者をじっとみた。
その異様な視線に、三人は身構えた。
だが、その筋肉質の厳つい体とは似合わず、山田は腰を90度折る。
「ありがとうございました・・・」
「ああ、こちらこそ・・・」
山田はのっそりと顔を上げる。
「あなた方が来てくれて助かりました。正直、二頭のバンイップの相手は難しかったです」
素直に礼を言う山田を見て、響也は「こいつ、話のわかるやつだな」と思った。
チラリと、地面の上で伸びている鉄平を見る。左足の腱と右肩の腱をThe Scytheで切断しておいた。しばらくは動けないだろう。
山田は、電柱の上でライフルを構えている八坂に「降りてきなさい」と声をかけた。
「分かりました・・・」
八坂はライフルを持ったままアスファルトの上に舞い降りる。
「お疲れ様です、山田さん」
「はい、お疲れ様です」
山田と八坂は二人並ぶと、再び桜班に一礼した。
「感謝致します」
「・・・、どうも・・・」
響也は完全にペースを狂わされていた。これからこの者達を処分してやろうと考えていたからだ。
(まあ、素直なやつにとやかく言う必要も無いか。恐らく、今回架陰とクロナを襲わせたのも、桜班の管轄を超えてきたのも、全てあの鉄平という男の独断・・・)
その時だ。
「てめぇ!!」
鉄平の怒号と共に、殺気が響也に迫る。
「ちっ!!」
響也は振り向きざまにThe Scytheを振った。
案の定、目の前に鉄平。折れた鉄棍の半分を左手に持って襲いかかって来ていたのだ。
ギンッ!!!!
金属音が響く。
鉄平は空中で身を捩り軌道を変え、響也の攻撃をいなした。
(こいつ!?)
「喰らえ!!」
右腕と左脚の自由を奪われているというのに、攻撃を仕掛けてくる気概。
負傷を補う体幹の強さ。
そして、響也の【死踏】を使用するこの男。
椿班・班長【堂島鉄平】。
(この男・・・、何者だ!?)
鉄平の渾身の一撃が、響也の頬を掠めた。
「うっ!!」
響也の頬に熱いものが走り、鉄平の顔に血が散る。
「この!!」
カレンがすかさず翼々風魔扇で突風を発生させ、鉄平を吹き飛ばした。
鉄平はコンクリート塀に身体を打ち付ける。
「ぐはっ!!」
伏した鉄平はコトリと動かなくなった。
「響也、大丈夫!?」
鉄棍の切断面が鋭利になっていたようだ。響也の白い顔はぱっくりと裂け、血がどくどくと流れていた。
「問題ない・・・」
響也は着物の袖で血を拭う。袖がベッタリと赤くなった。
カレンが思い切り吹き飛ばしたというのに、鉄平は「コノヤロウ・・・」と言って起き上がる。右肩と左脚から血が流れ落ちていた。
「やっと会えたな・・・、死神・・・」
「っ!?」
やはり、この男は響也のことを知っている。
満身創痍の状態で襲いかかろうとする鉄平を、山田と八坂が止めた。
「鉄平さん、やめましょう。死んでしまいます」
「そうです。バンイップは倒しました。早く真子を・・・」
「う、うるせぇ・・・、オレは、やっとお前に会えたんだよ・・・」
鉄平は相当な執着を持って響也に噛み付こうとする。
カレンが響也に耳打ちした。
「ねぇ、知り合い・・・?」
「いや、知らない男だ・・・」
響也は首を横に振る。本当に、知らない男だったのだ。
「オレは・・・、てめぇのことを知ってんだよ・・・」
山田の静止を振り切り、鉄平が立ち上がる。右脚を軸にしているので足取りがおぼつかない。
「てめぇは・・・、オレの、憧れなんだよ・・・」
「憧れ・・・?」
響也は記憶を辿ってみた。
こんな野犬のように乱暴で、発情した猫のように襲いかかってくる男など見たことがない。
だが、もしかしたら、今まで見てきた光景の端くらいに、その姿を捉えているのではないか?
「・・・・・・、まさか・・・」
響也は言いかけて辞めた。
だが、心当たりと言えばこのことしかない。
「おまえ、【月ノ子児童施設】の人間か?」
その言葉に、鉄平の表情が明らかに変わった。
何故か、少し嬉しそうな顔をする。
「へへ、その通りだよ」
(なるほどな・・・)
響也は独り合点をした。
あえて口には出さない。
不味いことになったと思った。もしここで自分と鉄平の関係を話してしまうと・・・。
(架陰が・・・)
架陰に自分の過去を知られることになる。
別にそれが嫌というわけではないが、自分を尊敬している架陰の信頼を裏切るのも気が引けた。
(なら、この男の部下も、あの施設の出身者か?)
響也はカレンの方をちらりと見て、奥歯を噛み締めた。
(どうしたものか・・・)
その時、架陰がおもむろに口を開いた。
「つきのこ、じどうしせつ・・・」
「・・・、どうした?」
鉄平に気を取られて気づかなかったが、架陰の様子をおかしくなっている。
目が虚ろで、口調もふわふわとしている。
「いや、僕、その施設の出身なんですよ・・・」
番外編に続く
次回・・・、番外編【堂島鉄平外伝】
一つの秘密が、明らかになる。




