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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
523/530

最悪 その②

最悪など存在しない


死ね


歓喜せよ


百合班班長の香久山桜が、負傷した架陰を抱えて、森の中を走っていた。


もうすぐ森を抜け、人里のある場所に出る。


その時だった。


まるで油の海に飛び込んだかのような、ぬるっとした気配が、二人の頬を撫でた。


「…これは…」


香久山桜の眉間に皺が寄る。


彼女に抱えられていた架陰の頭の中に、悪魔の声が響いた。



(架陰…、来タゾ…、スフィンクス・グリドールガ…)



「………」


架陰は静かに頷いた。


間違いない。この気配は、ハンターフェスの時と同じ、四天王スフィンクス・グリドールのものだ。


スフィンクス・グリドールの能力は、【千里眼】。その名の通り、半径四千キロの空間を全て見通すことができる能力だ。


「あの、香久山さん…」


「桜でいいわよ」


「桜さん…、これは、少しまずい状況です」


「え…」


「スフィンクス・グリドールが、この山に入ってきました」


「……っ!」


香久山桜の顔が強張った。「やっぱりか」と言いたげだった。


架陰は脇腹の痛みに耐えながら言った。


「桜さん…、ここは二手に別れましょう」


「ダメよ、架陰くん、キミは怪我をして…」


「回復薬を飲みました。なので、もうすぐ全快します」


「それでも…」


「スフィンクス・グリドールの能力は、【千里眼】です。このままだと、見つかってしまいます」


「だったらなおさらよ」


香久山桜は諭すように言った。


「四天王を甘く見ちゃいけないわ。多分、スフィンクス・グリドールは私たちの居場所をもう既に把握してる…。すぐにでも追ってくるわ。だったら、二人で逃げた方が、逃亡成功率は上がる…」


「いえ…、ダメなんです」


スフィンクス・グリドールの能力は万能ではない。【千里眼】は、架陰同様、悪魔から借りた能力。


以前のように、自身から放たれる悪魔の気配を調整して、スフィンクス・グリドールの視界を憚ることが架陰にはできるのだ。

だが、香久山桜はそれができない。


香久山桜の傍にいると、いくら彼が気配を消しても、スフィンクス・グリドールにはばれてしまうのだ。


「僕は大丈夫です。だから…」


架陰はもぞもぞと暴れて、彼女から降りようとした。


だが、香久山桜は架陰の身体をぎゅっと抱いて、逃がそうとしない。


「ダメ…、絶対にダメ…」


「あの、降ろしてください…」


「ダメなの…」


香久山桜はそう言って譲らなかった。


「私は…、百合班の班長よ? 班長って言うのはね…、みんなの統率者なの。そして、みんなから信頼されないといけないの。そして…、一度任務に出れば、例え他班の人間であろうと、身を挺して護らなければならない…」


ギリッ! と歯を食いしばった。


「ここで宣言しておくわ。私たちの目的は、副班長の【狂華】をスフィンクス・グリドールから取り戻すこと。スフィンクス・グリドールに追われているキミを護ること!」


走るスピードを速める。


「このまま森を抜けて、人里に出るわよ! そこに車が停まっているから! 一気に逃げ出すわ!」


そう言った瞬間だった。


二人の頭上を、黒い陰が横切った。


はっとした時にはもう遅く、二人の目の前に、白衣を身に纏ったスフィンクス・グリドールが着地した。


トンッ! と、軽やかな音が立つ。


砂塵が舞い上がる。


白衣が揺れる。


スフィンクス・グリドールの瞳が、架陰を見る。


「やあ、久しぶりだね…、市原架陰…」


「スフィンクス・グリドール…!」


架陰の背筋に冷たいものが走る。


のは一瞬だった。


香久山桜は胸元に手を入れると、彼女の体温で生温かくなった黒い玉を取り出し、スフィンクス・グリドールに投げつけた。


さっと、着物の袖で架陰の顔を覆う。


キインッ!


と、劈くような音と共に、辺りに白い光が広がった。


閃光玉が炸裂するのと同時に、香久山桜は地面を蹴って跳び、スフィンクス・グリドールの頭上を乗り越える。


スフィンクス・グリドールは「やれやれ…」を肩を竦めた。


地面を蹴る。


そして、香久山の背後に回り込むと、彼女の背中に蹴りを入れた。


「くっ!」


香久山と架陰は、二人同時に地面に叩き落された。


スフィンクス・グリドールは「あ~、目がチカチカする」と軽い口調で言いながら、二人の前に立った。


「閃光玉か…、悪くなかったよ。判断も早かった。だけどね…、この程度じゃ、僕は欺けないよ。音…、気配で全てわかる」


香久山は架陰を庇うようにしながら立ち上がる。


そして、背中の腰帯に差していた薙刀を抜いた。


「名刀…、ソメイヨシノ」


薙刀の桜色の刃を地面に突き立てる。


途端に、地面から薄紅の光が湧き上がり、それは桜花吹雪となって辺りを埋め尽くした。


視界が、ホワイトアウトする。


「おやあ…」


スフィンクス・グリドールはへらへらと笑いながら、その桜の花吹雪を見ていた。


「面白いね…、これが、ハンターフェスの時に城之内カレンを打ち破った能力か…」








その③に続く

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