【第156話】 格の違い その①
子供は大人には勝てない
指を咥えて死ね
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「これが…、四天王に仕える、UМAハンターの実力ですよ」
能力を使って空中に立っている嬉々島は得意げに言った。
彼の両足の革靴の周りを白い竜巻が旋回し、彼の体重を支えている。下から突き上げる揚力に、白衣は生きているかのようにたなびいた。
「悪魔から借りたこの力で…、貴方たちを拘束します」
そう宣言すると、足の竜巻を炸裂させ、猛スピードで架陰に迫った。
「ッ!」
架陰は咄嗟に、足に魔影を纏わせると、強く地面を蹴った。
ボンッ!
と、アスファルトが蜘蛛の巣のように粉砕し、彼の身体が一瞬で加速する。
まるで地面を滑るようにして、嬉々島の攻撃を躱そうとした。
「魔影を利用した高速移動!」
嬉々島は目を見開き、竜巻の反動を使って軌道を修正する。強靭な体幹で姿勢を整えると、涼し気に架陰を追った。
速いのは嬉々島の方だった。
「捕まえた!」
嬉々島の左手が、架陰の羽織りの裾を掴む。
ぐっと引っ張った瞬間、握り締めた左手の中で爆発が起こった。
「え…!?」
嬉々島の人差し指と中指、手の腹の肉が吹き飛び、鮮血が彼の白衣を濡らした。
架陰は身を捩って嬉々島の方を振り返ると、魔影を纏わせた脚を、彼の腹に叩きこんだ。
「魔影脚ッ!」
ドンッ!
と、衝撃波が嬉々島の華奢な身体を吹き飛ばした。
嬉々島はアスファルトの上を水切りのように転がる。そして、ガードレールに激突して止まった。
「くそ…」
渾身のカウンターのつもりだった。
嬉々島が架陰の身体の何処かを掴んだ瞬間、そこに魔影を這わせ、爆発を起こさせる。怯んだところに、強烈な一撃を叩きこむ。
だが、脚に手ごたえが無かった。
「多分…」
「あ~、痛いなあ…」
嬉々島は腹を抑えながらゆっくりと立ち上がった。
口の端から、粘っこい血が垂れているものの、まだまだ余裕のある表情だ。
「おい、センパイ! どういうことだよ!」
ココロが架陰の隣に並び、刀を構えながら聞いた。
「センパイの一撃喰らっても! あいつ、ピンピンしてるぞ!」
「うん…、多分、直前で防がれた…」
嬉々島の腹を蹴った時、手ごたえが無かった。
まるで…、風船のようなものに触れているようだったのだ。
嬉々島はにやっと笑い、腹の辺りに風を収束させる。
「直前で…、風の壁を作ったんですよ。すごいでしょう? これが本当の『エアーバッグ』ってね」
「くっだらねえ!」
ココロが嬉々島に斬り込む。
ヒュンッ! と、空を斬るような音と共に、嬉々島の姿が目の前から消えた。
次の瞬間、ココロの目の前に嬉々島が現れ、彼女の頭を掴んで地面に叩きつけていた。
「ぐあっ!」
「無能力者には用はありませんよ」
剣術や体術で言えば、ココロの方が実力は上だった。しかし、嬉々島には、【能力】があった。それを使ってしまえば、ココロが反応できない間に動きを封じることなど、容易だったのだ。
「私の目的は…、悪魔を宿した架陰さまで…」
そう言いかけた瞬間、死角から飛んできた黒い斬撃が、嬉々島の右肩を掠めた。
「っつ…?」
肩に赤い線が走り、遅れて血が吹き出す。腱を切断されたのか、だらんと腕が動かなくなる。
架陰は「まだまだあッ!」と雄たけびを上げると、上体を捻って、さらにもう一撃の斬撃を嬉々島に向かって放った。
「やれやれ…」
嬉々島はため息をつくと、左手を迫りくる斬撃に翳した。
手刀を作り、ひゅっと、空を切る。
「【水月の千鳥・天邪鬼】」
嬉々島の指先から、風で構成された斬撃が、まるで空気を捩じり切るような軌道で放たれ、架陰の斬撃と激突した。
バチンッ!
と、激しい衝撃波が辺りを飛び散る粉塵を吹き飛ばす。
高エネルギーと高エネルギーの衝突。
押し勝ったのは、風の方だった。
「な…!」
架陰に竜巻が迫る。
「くそ…!」
架陰は咄嗟に、腕を胸の前で交差させ、そこに魔影を収束させた。
「【魔影盾】!」
付け焼刃の結界だった。
そこに、嬉々島の竜巻が衝突する。
「くっそ!」
即席のガードでは、攻撃の全てを防ぐことができない。竜巻に囲まれた架陰の頬や腕の皮膚が、ナイフで切りつけられたかのように裂ける。
架陰の血で、竜巻は赤色に変わった。
「おおおりゃああああああっ!」
何とか、竜巻を相殺する。
だが、それにほとんどの余力を使った架陰の身体は血まみれで、ガクッ! とその場に膝から崩れ落ちた。
すかさず、嬉々島が迫る。
「終わりですよ!」
「く…!」
ココロも架陰も動くことができない。
もうおしまいだ。
架陰がそう思った瞬間、水の弾丸が飛んできて、嬉々島の左手の甲を穿った。
その②に続く




