一代目鉄火斎動く その②
煮える油に手を入れて
真実を暴き出す
「ただいま戻りました」
山道を抜けて、架陰とココロは、二代目鉄火斎の住む山小屋に帰ってきた。
架陰の声を聞いて、小屋の扉を開け、アクアと二代目鉄火斎が顔を出す。
「ああ、おかえり。何体倒せた?」
「すみません、異常事態が発生したので、途中で切り上げて帰ってきました」
「異常事態?」
アクアが怪訝な顔になる。
すぐに水浴びをして、身体の汗を流したいところだったが、架陰は息を整えて、先ほど起こったことをアクアに説明した。
「実は…、笹倉に襲われました」
「え…、笹倉に?」
アクアの顔が強張る。
「どうして、悪魔の堕彗児がここに? 交戦したの?」
「はい、刃を交えました」
「勝ったの?」
「いや、まだ【名刀・夜桜】をうまく使いこなせなかったこともあって、倒すには至りませんでした、撃退には成功しましたが」
「笹倉は一人で?」
「はい、他に敵はいませんでした」
「うーん、何がしたかったのかしらね?」
アクアが首を傾げる。
架陰は「それのことですが」と言って続けた。
「最初は、いつものように、悪魔を宿す僕を誘拐しに来たのだと思いました…」
架陰は一呼吸置いてから、隣のココロを見た。
「ですが、笹倉のやつ、ココロの【名刀・秋穂】を持って逃げようとしたんですよ」
「秋穂を盗もうとしただと?」
二代目鉄火斎が眉間に皺を寄せて、架陰の話に食い入った。
「おい! それで?」
「ああ、大丈夫です」
架陰は鉄火斎を宥めるように言った。
それから、ココロがそれを示すために、腰に差した刀を抜いて見せた。
ココロが言う。
「実はな、あの背中に翼が生えた野郎が、ボクの刀を掴んだ時、やつの手の中に、電撃のようなものが走ったんだ。おかげで、やつは刀に触れられなかった」
「電撃だと?」
鉄火斎の眉間の皺が深くなった。
「そりゃ、どういうことだ?」
「知らねえよ」
名刀秋穂が見せた「拒絶反応」のことは置いておいて、架陰は、笹倉の目的について考察した。
「アクアさん、多分あいつ、ココロの【名刀・秋穂】を狙って、僕たちを襲撃したんだと思うんですよ」
「なんで?」
「だって…」
架陰が、アクアの横に立っている二代目鉄火斎を見る。
鉄火斎はもどかしくなって首を横に振った。
「いいぜ、言えよ」
「その…、悪魔の堕彗児側には、鉄火斎さんの師匠…、【一代目鉄火斎】さんがいるじゃないですか」
「ああ、そうだな」
二代目鉄火斎は察しがついていた。
「その…、ココロの秋穂の製作者も、【一代目鉄火斎】ですよね?」
「そうだな」
「ってことはつまり、笹倉に指示を出したのは…、一代目鉄火斎なんじゃないかって…」
「………」
二代目鉄火斎の瞳が曇ったような気がした。
すぐにそれを悟られまいと、彼は首の後ろをポリポリと掻いた。
「ったく、あの馬鹿師匠、一体何を企んでいるのやら…」
「でも…、変な点があるぜ」
ココロが口を開いた。
「お前らの事情は知らないけど…、この秋穂の製作者が、あの笹倉ってやつに指示を出したのなら…、おかしな点がある」
「おかしな点?」
「ああ、一代目鉄火斎は、秋穂の製作者だぞ? だったら、秋穂を持った時に、電撃のような防護結界が発動することくらい、知っていたんじゃないか?」
ココロはそう言いながら、腰の秋穂を抜いたり、鞘に戻したり、落ち着きのない動きをした。
ココロの考えに、一同が押し黙る。
架陰は顎に手をやって静かに考えた。
(確かに…、秋穂の製作者なら、あの電撃のことを知っているはずだ。それなのに、わざわざ、笹倉に奪わせようとした? 持てるはずがないのに?)
何か、別の目的があったのではないか? と勘繰らずにはいられなかった。
ココロが「それに」と言って続ける。
「【名刀・秋穂】を奪うことが成功したとして、何に使うんだよ」
その③に続く




