新たな仲間 その②
大地に沈んで行け
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日輪が完全に昇りきった頃、囲炉裏の前ですやすやと眠っていたアクアが外に出てきて、「さあ、帰りましょう」と待っていた架陰に言った。
「任務に出るわよ!」
「任務…」
嫌な予感がしなくて架陰は顔を顰めた。
「アクアさん、帰りましょうよ」
「やーね」
アクアは首を横に振ると、いつもの自由奔放な笑みを浮かべて、架陰とその隣のココロを指さした。
「今から、二人にはUМA退治に出てもらうわ!」
乗り気ではない架陰とは対照的に、ココロはパンッと手を叩いてやる気を表した。
「いいじゃないですか! ボクのUМAハンターデビュー戦ってわけですね」
昨日は散々アクアに対して「ふざけんな!」「ぶっころしてやる」と乱暴は言葉を使っていたというのに、今日は落ち着いた口調。
そのギャップに違和感を感じながら、架陰はアクアに聞いた。
「それで…、どのUМAを狩るんですか?」
「なんでもいいわ」
アクアはそう言った。
「この山の中に、UМAが沢山潜んでいるのは知っているよね?」
「はい、前に来ましたからね」
以前、鉄火斎に【名刀・叢雲】を打ってもらった際、架陰とクロナは、この山の中に踏み入って、モスマンと死闘を繰り広げたのだ。
確かあの時は、ローペンの存在も確認できた気がする。
アクアは続けていった。
「今回の目的は、UМAを倒すというよりも、ココロちゃんに『UМAハンターとしての仕事』を覚えてもらうためだから」
「職場体験的な」
「そうね」
アクアが架陰の肩をぽんっと叩いた。
「じゃあ、よろしくね。架陰。ココロちゃんの世話」
※
一時間後、身支度を整えた二人は、鬱蒼とする樹林の中に足を踏み入れていた。
「ったく」
ココロが悪態をついた。
「なんだよ、この着物」
ココロが不満に思っていたのは、アクアから支給された『桜班用・戦闘服』だった。
並大抵の攻撃は通さない、特殊繊維で編みこまれた戦闘服。各班によってデザインは異なる。椿班なら『赤スーツ』。薔薇班なら『タキシード』または『ゴスロリドレス』。
そして、桜班は『着物』だった。
白基調の生地に、薄紅の桜の紋様。まさに「桜」って感じのデザインだった。
「いいでしょ? それ、僕は気に入っているんだ」
「ボクはやだね」
ココロはそう言って、着物の袖を指で引っ張った。
「しかも、これ、女用じゃないか?」
着物の裾からは、ココロの細脚が覗いている。
「当たり前でしょ。ココロって女だから」
架陰がははっと笑って言った瞬間、ココロの拳が飛んできて、彼を木の幹まで吹き飛ばしていた。
「なにをする」
「ボクは男だ」
「いや、女でしょ」
実際、彼はココロの胸にある「柔らかいもの」に触れていた。
ココロは、名刀秋穂を肩に担いで、木の幹に背中からめり込んでいる架陰に言った。
「おい先輩。その袴、寄越せよ」
彼女が言いたかったのは、彼が履いている『袴』だった。
「なんでボクも男なのに、女用の着物を着なきゃだめなんだ。先輩のその男用の着物よこせ」
当然、架陰は拒否する。
「いや、これ、僕の戦闘服なんですけど」
「いいから寄越せよ。股の下がスースーしてならん」
「うわああ! 痴女に襲われるうう!」
十分後。
ココロに袴を脱がされそうになるのを何とか阻止した架陰は、文句を垂れ流しながら山の中を歩いていた。
「ああ、もう痛い」
「先輩がボクに譲らないから悪いんですよ」
「どこかの暴君かな?」
ココロ散々暴れられたおかげで、彼の頬には引っ掻き傷ができていた。
「ねえ、ココロ。お前、本当に女なの?」
「いや、男だよ」
「いや、そういうのはいいから」
架陰は横目でココロの胸元を見た。
着物越しでもわかる、お碗型の綺麗な胸。
「その身体で『男』は無理が無いか?」
「ぶっ殺しますよ」
「ごめん」
ココロに睨まれてしゅんとする。
ココロは腰の刀の感触を確かめながら、架陰に言った。
「まあ、確かに、身体は女だけど…、心は男だよ。そうするように、教えてもらったんだから」
「教えてもらった?」
「うん」
「それって、ココロが住んでいたっていう、村のこと?」
「まあ、そうだな」
ココロは歯切れ悪く頷いた。
「ほんと武術に長けた者の集まりだったよ。だから、そこで生まれたボクも、『男』として育てられたんだ。おかげで、身体は女。心は男っていう、変なやつになっちゃったけど…、後悔はしてないよ」
それから、架陰の方を見た。
「とにかく、ボクは『男』だから、余計な心配は要らないよ。センパイ」
その③に続く




