【第148話】 新たな仲間 その①
桜と秋穂の最前線
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次の日。
火が消えた囲炉裏の隣で、ぐったりと眠っていたココロが目を開けると、扉の隙間から鈍い光と、澄んだ朝の大気が流れ出ていた。
「…、ああ、くそ、頭いてえ…」
ココロはガンガンと痛む頭を抑えて身体を起こす。
隣を見れば、架陰とアクアが身を寄せ合って眠っていた。
昨日のことなんて忘れたような、安らかな眠りだ。
「この野郎…」
ココロはこの二人の顔面に鉄拳を叩き込みたい衝動を抑えて、二人を跨いで外に出た。
扉の傍に立てかけてあった木刀を手に取り、身体起こしがてらに振り回す。
彼女の振る木刀は、空を斬り、朝の光に反射して鈍く光った。
「それ、日課か?」
声が聞こえたので振り返ってみると、そこには二代目鉄火斎がいた。
彼は上半身裸で、山の中を駆けずり回ってきたのか汗をかいていた。
「日課だよ」
ココロはそっけなく答えて、また、木刀を振る。
「朝起きたら、必ず刀は振る。昼も振る。夜も振る…、これ、ボクの暮らしていた村では恒例だったんだよ」
「戦闘民族って感じかな」
「まあ、そうだろうな」
ココロは過去のことを思い出しながら頷いた。
心響心が暮らしていた村は、昔から「未確認生物」の狩猟を生業としていた。
何百年もの歳月の中で受け継がれてきた【心響流】の剣技。
だが、その村はある日突然、壊滅した。
「………」
ココロは木刀を握る自分の手を眺めた。
何としても突き止めなければならない。あの日、どうして村が滅びたのか。そして、大好きだった祖母の死体に刺さっていた【名刀・秋穂】の正体を。
「ああ、そうだ」
鉄火斎の声で我に返った。
「なんだ?」
「刀、研ぎ終わったから忘れずに持っていけよ」
「ああ、わかっているよ」
「それとさ」
鉄火斎は言いにくそうに続けた。
「師匠のこと、悪く言わないでくれるか?」
「師匠、ああ、秋穂を打った人間のことか」
「うん」
鉄火斎はこくりと頷く。
「まだわからないぜ。どうして、師匠は【名刀・秋穂】を作ったのか、そして、どうしてお前の村の壊滅に関わっているのか」
「そうだな」
「だけどな、師匠は、オレの親なんだよ。昔、UМAに食われそうになっていた時に、助けてもらったんだ…、だから、悪いやつじゃないって、信じているんだ」
「話にならないな」
ココロはぴしゃりと鉄火斎の言葉を撥ね退けた。
「それは、ボクが一代目鉄火斎と会って初めて確認することだ」
「まあ、そうだけど…」
ココロは木刀の切っ先を二代目鉄火斎に向けた。
「とにかく、二代目鉄火斎。お前には協力してもらうからな」
「ああ、わかっている」
鉄火斎は手をパタパタと仰ぎながら頷いた。
ココロが、名刀・秋穂の正体を知りたいのと同様に、鉄火斎もまた、あの日、師匠がどうして自分を置いて消えてしまったのかを知りたかった。
「刀はいつでも研いでやる。また来なよ」
※
「うーん…」
架陰が目を開けると、煤で薄汚れた天井が見えた。
ゆっくりと身体を起こす。泥のように眠ったというのに、この一週間で蓄積した疲労は、まだ体内に残っていた。
隣でまだ眠っているアクアを一瞥して、背伸びをする。
「ふわあ…」
欠伸をすると、床に手をついて立ち上がった。
裏にある滝で顔を洗おうと、下駄を引っ掛けて外にでた。
丁度太陽が地平線の向こうから顔を出しているところで、山全体に、赤い光が浴びせられていた。
肌寒いような、でもほのかに暖かい大気を吸い込みながら、滝が流れている方に歩いていく。
人の気配がした。
「むっ!」
見ると、岩場から流れ落ちる滝を頭から浴びている者がいた。
目を凝らしてみると、それはココロだった。
「あ…」
ココロも架陰に気が付いたようで「あ」と声を洩らす。
彼女は、裸だった。
次の瞬間、小石が飛んできて、架陰の額に直撃した。
「ぐへえっ!」
架陰は目を回してその場に倒れこむ。
裸で滝行をしていたココロは、涼し気な顔をして滝つぼから出てきた。
「おはよう、先輩」
「お、おはよう…」
岩場に置いてあった手ぬぐいをとって、身体を軽く拭くと、さっさと学ランを身に纏うココロ。
「先輩も滝行か?」
「いや、顔を洗いに来ただけだよ」
ココロが着替え終わったタイミングで身体を起こす。
「って、なに、その『先輩』呼びは?」
「当たり前でしょ、ボクは今日からUМAハンターなんだ」
「まあ、そうだけど…」
今まで、桜班の下っ端として、クロナ、響也にこきを使われていた架陰にとって、「先輩」呼ばわりされるのは新鮮な気持ちだった。
その②に続く




